燃料を同じだけ使い、同じだけ速さを足すとします。足す場所を変えると、結果が変わります。
楕円軌道の遠点、いちばん遅いところで噴かした場合と、近点、いちばん速いところで噴かした場合を比べます。足した速さは同じ、たとえばどちらも秒速 km だとします。
それでも、増えるエネルギーは近点のほうが大きくなります。同じ噴射で、より遠くまで届く軌道に乗ります。
これをオーベルト効果といいます。 年代にオーベルトが指摘しました。
理由は式の形にあります。運動のエネルギーは で、速さの 乗に比例します。
速さを から に上げたとき、増えるエネルギーは です。
第 項に が入っています。噴かす量 が同じでも、噴かす直前の速さが大きいほど、増える分が大きくなります。
グラフで見れば、 乗の曲線は右へ行くほど急です。同じだけ横に足しても、右のほうが高く上がります。
ここから、一見おかしな手が出てきます。遠くへ行きたいのに、まず内側へ落とすのです。
落ちるあいだに速くなります。いちばん深いところ、つまり近点まで来たときが最も速い。そこで噴かします。
遠点で噴かすより、同じ噴射で遠くまで届きます。落ちるのに使ったエネルギーは、上がるときに戻ってくるので損になりません。得をした分だけが残ります。
太陽系の外へ向かう探査機が、いったん木星へ落ちていくのは、スイングバイのためだけではなく、この効果のためでもあります。
噴かす量を決めておけば、得られるエネルギーは噴かす場所での速さに比例して伸びていきます。
地球の低い軌道では秒速 km で回っています。ここで秒速 km 足せば、脱出速度に届きます。
いっぽう、静止軌道の高さでは秒速 km しかありません。同じ脱出速度に届かせるには km 足せば済みますが、そこまで上がるのに km ぶんの噴射がすでに要っています。
合わせれば低いところから一気に出るほうが安くつきます。この差が、深いところで噴かすことの得です。
外惑星へ向かう探査機は、地球のまわりを回りながら、近地点で何度か噴かして楕円を伸ばしていきます。いちばん速いところだけを選んで噴かす、という同じ考え方です。
逆向きにも効きます。太陽へ近づく探査機は、近日点で減速して軌道を落としていきます。パーカー・ソーラー・プローブは金星のスイングバイと合わせて、これを何度もくり返しています。
極端な例として、ブラックホールのそばまで落として噴かせば、わずかな燃料で光の速さに近いところまで加速できるという計算があります。深いところほど効く、という性質をそのまま突き詰めた話です。
ここまでが第 章です。ここまでの計算は、どれも天体が つしかない世界で成り立つものでした。次の章では、 つ目を足します。