ここまでは、軌道要素が分かっているところから始めてきました。では、その つはどこから来るのでしょうか。
望遠鏡が返すのは、向きだけです。空のどちらにいるかは分かりますが、どれだけ離れているかは分かりません。
同じ向きに見えるものは、その線の上のどこにいてもかまいません。近くて小さいのか、遠くて大きいのかも、 度の観測では決まりません。
距離が入っていないところから、どうやって軌道を出すのか。これが、 年以上前からある問いです。
決めたい数は つです。軌道要素そのものでも、ある時刻の位置と速度でもかまいません。
晩の観測が返すのは向きで、それは つの角です。 晩で つ。ちょうど足ります。
数が合っているというだけでは、まだ解けたことになりません。 つの式は互いに絡み合っていて、順に代入していけば片づく形をしていません。
それでも、 晩あれば足りるということは分かりました。あとは、この絡み合いをどうほどくかです。
糸口は、 つの位置が必ず同じ平面の上にあることです。力が太陽を向いているだけなので、軌道は平面から出られません。
同じ平面の上にあるなら、真ん中の位置は両端の位置の重み付きの足し算で書けます。その重みは、太陽と結んだ線が掃く面積の比で決まります。第 法則です。
掃いた面積の比は、短い期間なら時間の比でおよそ書けます。ここで初めて、観測の向きだけでは決まらなかったものに手がかりが入ります。
この関係を視線の向きと合わせて解くと、 晩それぞれの距離が決まります。距離が出れば位置が出て、位置が つあれば速度が出て、そこから軌道要素はすべて出ます。
年 月 日、ピアッツィが新しい天体を見つけました。のちのケレスです。
日ぶん追ったところで、太陽の向こうへ入って見えなくなりました。次に出てくるのは 年近くあとです。そのときどこにいるかが分からなければ、二度と見つかりません。当時の方法では、 日ぶんはあまりに短すぎました。
歳のガウスが、この 日ぶんから軌道を計算しました。最小二乗法もこのときに使われています。出てきた予測は、ほかの誰の計算とも大きく食い違っていました。
同じ年の大晦日、ツァッハがガウスの向きへ望遠鏡を向け、そこにケレスを見つけました。ガウスの名を世に知らしめたのは、この計算です。
手順はいまも変わりません。新しい小惑星が見つかるたびに、数晩ぶんの観測から軌道を出します。
違うのは、観測の数と精度です。 晩でひとまず出したあと、観測が増えるごとに軌道を作り直していきます。増えるほど、出てくる軌道の幅は狭くなります。
地球に近づくものでは、その幅がそのまま見積もりになります。見つかったばかりのころは何本もの軌道が引けてしまい、当たるかもしれないという数字が出ることがあります。観測が増えて幅が狭まると、たいていは に落ち着きます。
ここまでが第 章です。軌道要素で軌道を書き、時刻から位置を出し、観測から軌道要素を出す。道具はそろいました。次の章では、その軌道そのものを変えにいきます。