前の記事で、潮汐は引く力の差から出ることを見ました。その差は近づくほど強くなります。距離の 乗に反比例するからです。
いっぽう、衛星を つにまとめているのは自分の重力です。こちらは中心天体からどれだけ離れているかに関係ありません。
近づいていくと、どこかで勝ち負けが入れ替わります。引き離す力がまとめる力を超えたところから先では、衛星は つでいられません。
その境目をロッシュ限界といいます。 世紀の半ば、ロッシュが計算しました。
つの力を突き合わせると、距離が つ決まります。。 が中心天体の半径、 が密度です。
質量が入っていません。効くのは重さではなく、どれだけ詰まっているかのほうです。
密度が同じなら、中心天体の半径の 倍が限界です。衛星のほうが軽くふわふわしているほど、限界は外へ広がります。
この式は、自分の重力だけでまとまっている天体についてのものです。そこが最後の場面で効いてきます。
いちばん大きな例が、土星の環です。
環はロッシュ限界の内側にあり、衛星はその外側にあります。この分かれ目は、たまたまではありません。
限界の内側では、集まろうとしたものが潮汐で引き離されます。だから大きな塊になれません。環は、まとまれずに残された細かい氷の粒です。
木星にも、天王星にも、海王星にも環があります。どれも同じところにあります。環というのは、限界の内側でだけ成り立つ形なのです。
年、シューメーカー・レヴィ第 彗星が木星のロッシュ限界の内側を通りました。
自分の重力でゆるくまとまっていただけの氷の塊だったので、そのままちぎれました。 個です。ちぎれた粒は同じ軌道に並び、数珠のように連なりました。
年後の 年 月、その 個が順に木星へ落ちました。地球ほどの大きさの黒い跡が、木星の雲に つずつ増えていきました。
太陽系の中で天体の衝突が観測されたのは、これが初めてです。ロッシュ限界という計算の中の量が、望遠鏡の中で目に見えた、めずらしい例でもあります。
ロッシュ限界は、自分の重力だけでまとまっている天体についての話でした。岩には強さがあります。
小さい天体なら、その強さだけで潮汐に耐えられます。重力は大きさとともに増えますが、強さは大きさによらないので、小さいほど強さのほうが分がよくなります。
火星の衛星フォボスは、火星のロッシュ限界の内側にいます。それでも壊れていません。 km ほどしかないので、岩の強さで持ちこたえています。表面には、潮汐で引っぱられてできたとみられる筋が走っています。
ただしフォボスは、 年に m ほど火星へ近づいています。 万年から 万年ほど先に、強さでも足りなくなります。そのとき火星に、環ができるかもしれません。