ツィオルコフスキーの式(運動量の保存・質量比と対数・多段にする理由)

押す相手が、何もない

歩くときは地面を蹴っています。船は水を、飛行機は空気を押しています。宇宙にはそのどれもありません。

進むには、自分の一部を後ろへ捨てるしかありません。捨てたものが後ろへ持っていく勢いと、こちらが前へ得る勢いが、ちょうど釣り合います。

足し合わせた勢いは、いつも のままです。これが運動量の保存で、ロケットが進む理由はこれだけです。

だから、どれだけの速さを得られるかは、何をどれだけの速さで捨てられるかで決まります。

捨てるほど、軽くなる

ここに、ひとつ厄介なところがあります。捨てるたびに、ロケット自身も軽くなっていきます。

軽くなれば、同じだけ捨てても、より大きく押されます。だから、あとになるほど 1 回ぶんがよく効きます。その積み重ねを足していくと、対数が出てきます。

。 が捨てる速さ、 が初めの重さ、 が残った重さです。ツィオルコフスキーが 年に出しました。

式に入るのは質量の比だけです。大きなロケットでも小さなロケットでも、比が同じなら得られる速度変化は同じになります。

対数の裏返しは、指数である

対数でしか伸びない、というのは裏返せば、要る質量の比が速度変化の指数で増える、ということです。

捨てる速さと同じだけ稼ぐには、重さの 分の が燃料でなければなりません。 倍なら 分の 、 倍なら 分の 。

化学ロケットの捨てる速さは、いいものでも秒速 km ほどです。地球の低い軌道まで km 要りますから、比にして 倍を超えます。打ち上げるロケットのほとんどが燃料なのは、このためです。

捨てる速さを上げれば楽になります。イオンエンジンは秒速 km で捨てますが、そのぶん押す力が弱く、何か月もかけてゆっくり効かせることになります。

だから、多段にする

燃料を使い切ったあと、空になった器を運びつづけるのは無駄です。捨ててしまえば、残りの燃料はより軽いものを押すことになります。

これが多段です。段を切り離すたびに が小さくなるので、同じ燃料でも得られる速度変化が増えます。

段のロケットで地球の低い軌道へ入るのは、技術としては可能ですが、運べる荷がほとんど残りません。実際に飛んでいるものは、どれも 段か 段です。

段を捨てるという発想も、ツィオルコフスキーが同じ論文で書いています。

速度変化が、値段である

ここまでで、この章の言葉づかいが決まりました。行き先ごとに要る速度変化があり、それが値段です。

地球の表面から低い軌道まで km。そこから脱出まで km。さらに火星の軌道へ移るのに km。足せば、その旅がどれだけの燃料を要るかが出ます。

燃料は指数で効くので、 km ぶん節約できれば、打ち上げる重さは何割も変わります。軌道を工夫する意味は、ここにあります。

次の記事から、その工夫を見ていきます。まず、戻ってこないために要る速さからです。