加速している電車の中で振り子を吊るすと、糸は斜めになったまま止まります。まずは電車の外、地面に立って見てみます。
おもりは電車と一緒に加速しているので、力はつり合っていません。水平向きに ma の合力が要ります。おもりにはたらくのは糸の張力 S と重力 mg の 2 つだけですから、この 2 つを足したものが水平を向いて ma になる、ということです。
成分で書きます。水平は S\sin\theta_0 = ma、鉛直は加速していないので S\cos\theta_0 = mg です。2 つを割ると S が消えて、\tan\theta_0 = \dfrac{a}{g} となります。
傾きを決めるのは加速度だけです。おもりの重さも糸の長さも出てきません。そしてここまで、慣性力は 1 度も使っていません。
今度は電車に乗って、同じおもりを見ます。おもりは斜めのまま、目の前で静止しています。動いていないのだから、力はつり合っているはずです。
ところがはたらいている力は、さきほどと同じ張力と重力の 2 つだけ。足せば水平向きの ma が残って、つり合いません。止まって見えるのに、力が余っています。
そこで、加速度と逆向きに大きさ ma の力を 1 つ足します。これで 3 つの力がつり合い、静止していることと辻褄が合います。この力を慣性力といいます。
外に立っている人には、この力は見えません。慣性力は、加速する側へ乗り移ったときにだけ現れる、帳尻を合わせるための力です。相手を探しても見つかりません。
重力と慣性力には、よく似たところがあります。どちらも大きさがおもりの質量に比例していて、向きも大きさも変わりません。ならば 2 つをまとめて、1 つの力として扱えます。
合わせた大きさは m\sqrt{g^2 + a^2}、向きは鉛直から \theta_0 だけ傾いています。1 つの重力とみなせば、この電車の中では重力加速度が g' = \sqrt{g^2 + a^2} になり、その向きが「下」だということです。これを見かけの重力といいます。
振り子は、この傾いた「下」へ向かって垂れて静止します。そこからずらせば、その向きのまわりを振れます。図の破線が、この電車の中での鉛直です。
振れ方が同じなら、周期の式もそのまま使えます。前の講義で出した T = 2\pi\sqrt{\dfrac{L}{g}} の g を g' に差し替えるだけで、T = 2\pi\sqrt{\dfrac{L}{g'}} となります。
g' = \sqrt{g^2 + a^2} は必ず g より大きくなります。だから加速している電車の中では、止まっている電車の中より速く振れます。図の 2 つは同時に放していますが、だんだんずれていきます。
エレベーターなら、もっと簡単です。加速度が鉛直なので「下」は傾かず、大きさだけが変わって g' = g \pm a になります。上へ加速すれば周期は短く、下へ加速すれば長くなります。自由落下では g' = 0 で、振り子はもう振れません。