こんどは片方のおもりを、斜面の上に置きます。滑車を斜面の上端に据え、糸を面と平行に張って、もう一方を真下へ吊るします。
変わったのは、引き留める側の力です。まっすぐ吊るしていたときは重さ m_1g がそのまま糸を引きましたが、斜面では、そのうち面に沿う分だけが効きます。
重力を、面に沿う向きと面に垂直な向きに分けます。沿う向きが m_1g\sin\theta、垂直な向きが m_1g\cos\theta です。傾きが 0 なら沿う成分は 0、垂直に立てれば m_1g そのものになります。
面に垂直な成分は、面がそのまま押し返します。垂直抗力は N = m_1g\cos\theta です。摩擦の限界を決めているのはこれなので、先に出しておきます。
吊り下げたおもりは m_2g で糸を引きます。引き留める側は m_1g\sin\theta です。この差が、動かそうとする力になります。
差があっても、すぐには動きません。摩擦が残りを引き受けるからです。静止摩擦力は押された分だけ出てつり合い、決まった大きさを持ちません。
ただし限界があります。最大静止摩擦力 \mu N です。N = m_1g\cos\theta ですから、限界は \mu m_1g\cos\theta になります。
図では吊り下げたおもりを重くしていきます。摩擦の矢印が伸びてつり合いを保ち、限界の目印に届いたところで止まります。そこを越えれば、もう支えきれません。
動き出す条件を書きます。動かそうとする力が、摩擦の限界を越えることです。m_2g - m_1g\sin\theta > \mu m_1g\cos\theta となります。
移項してまとめると m_2g > m_1g(\sin\theta + \mu\cos\theta)、両辺を g で割って m_2 > m_1(\sin\theta + \mu\cos\theta) です。
重力加速度が消えました。動き出すかどうかは、2 つの質量の比と、傾きと、摩擦係数だけで決まります。月へ持っていっても境目は変わりません。
傾きを 0 にすると m_2 > \mu m_1 で、水平な机の上の荷物を糸で引く話になります。摩擦をなくすと m_2 > m_1\sin\theta で、傾けた分だけ軽い重りで足りるという話になります。斜面も水平面も、この 1 本の式の端にあります。
境目を越えて動き出すと、摩擦は動摩擦に変わります。大きさは \mu' N で、速さによらず一定です。静止摩擦のように相手に合わせて変わることはありません。
ここからは 2 つを一体として見ます。動かす力は m_2g、引き留める力は m_1g\sin\theta と \mu' N の 2 つ、動かされる質量は m_1 + m_2 です。
まとめると (m_1 + m_2)a = m_2g - m_1g\sin\theta - \mu' N になります。右辺はどれも決まった値ですから a は一定で、動き出したあとは等加速度運動になります。
アトウッドの式と見比べてください。m_1g\sin\theta と \mu' N の 2 つが増えただけで、形は変わっていません。動かす力を合計の質量で割る、というやり方はどちらも同じです。