2 個のボールがぶつかるときは、運動量の和が変わりませんでした。こんどは相手を壁にしてみます。
壁は動きません。ですから決まるのはボールの速度だけです。反発係数の定義をそのまま当てはめると、v' = -ev となります。
速さは e 倍になり、向きは逆になります。e = 1 なら速さはそのまま、向きだけが変わります。e = 0 なら壁にくっついて止まります。
式が 1 本で済んでいることに気づいてください。相手が動かないので、連立する必要がありません。
ぶつかる前の運動量は mv、あとは -emv です。同じではありません。
図の 2 本の棒を見てください。向きが変わったうえに、長さも e 倍に縮んでいます。和が変わらないどころか、1 本しかない運動量そのものが変わっています。
保存則が使えなくなったわけではありません。使う相手を間違えているだけです。運動量が保存するのは、外から力を受けていない系でした。ボール 1 個だけを見れば、壁から力を受けています。
つまりこのボールは孤立していません。壁という外の相手がいます。
ボールが失った運動量はどこへ行ったのでしょうか。壁です。
ボールの変化は \Delta p = -emv - mv、まとめて -(1 + e)mv です。作用反作用ですから、壁はこれと同じ大きさで逆向きの運動量を受け取っています。
図の 3 本目が 2 つの和で、これは動きません。壁まで系に入れれば、運動量はやはり保存しています。
壁が動いて見えないのは、質量がけた違いに大きいからです。壁は建物につながり、建物は地球につながっています。同じ運動量を受け取っても、p = mv の m が大きければ v は目に見えないほど小さくなります。
運動エネルギーのほうも見ておきます。前は \dfrac{1}{2}mv^2、あとは \dfrac{1}{2}m(ev)^2 = \dfrac{1}{2}mv^2e^2 です。
差を取ると \Delta K = -\dfrac{1}{2}mv^2(1 - e^2) となります。2 個のボールのときに出た 1 - e^2 が、ここでも顔を出しました。
e = 1 なら 0 です。向きが変わるだけで、エネルギーは減りません。e が小さいほど多く失われ、e = 0 で全部なくなります。
壁は運動量を持っていきましたが、運動エネルギーのほうは持っていきません。壁は動かないので、仕事をされていないからです。失われたぶんは熱と音と、へこみになります。