鉄を熱していくと、暗い赤から橙、黄色へと色が変わり、さらに温度を上げると白っぽく見えるようになります。塗料を塗ったわけでも、色のついた光を当てたわけでもありません。ドレーパーは 1847 年に、いろいろな物質を同じ炉で熱し、どれも約 800 K(525 °C)で暗い赤に光りはじめることを確かめました。物体そのものが、温度に応じた光を放っています。
材質によらない光を調べるために、当たった光をすべて吸収する物体を考え、これを黒体と呼びます。実際には、壁に囲まれた空洞に小さな穴を開けたものを使います。穴から入った光は、内側の壁で反射をくり返すうちに吸収され、穴から戻ってくることはほとんどありません。穴は、当たった光をすべて吸収する面と同じ働きをします。
空洞の壁をある温度に保つと、穴から出てくる光は壁の材質によらなくなります。キルヒホッフは 1860 年に、熱平衡では光をよく吸収するものほどよく放射し、放射と吸収の比は物質によらず温度と波長だけで決まることを示しました。物質によって違うとすると、同じ温度の 2 つの空洞のあいだでエネルギーが一方へ移り続けることになり、熱力学の第 2 法則に反するからです。
穴から出る光を波長ごとに分けて強さを測ると、山を 1 つ持つ曲線になります。これを黒体放射のスペクトルといい、図の曲線がそれです。温度を上げると曲線全体が高くなり、山の位置は短い波長へ動きます。1890 年代の終わりには、ベルリンの帝国物理工学研究所で、ルンマーとプリングスハイムがこの曲線を精密に測っていました。
山の波長 \lambda_{\mathrm{max}} と温度 T の積は一定で、\lambda_{\mathrm{max}}T = 2.9 \times 10^{-3} m·K です。これをウィーンの変位則といいます。1500 K では \lambda_{\mathrm{max}} は 1.9 μm で、可視光(波長 0.4〜0.7 μm)より長い赤外にあります。鉄は約 1800 K で溶けるので、熱した鉄の山はいつも赤外にあります。
それでも色が変わって見えるのは、可視光の範囲で曲線の形が変わるからです。800 K では、可視光の範囲では赤の端がいちばん強く、青へ向かって急に弱くなるので、赤だけが見えます。温度が上がると赤と青の強さの差が小さくなり、色は橙、黄色を経て白に近づきます。山が可視光の範囲に入るのは約 4000 K より上で、表面が約 5800 K の太陽では、山は 0.5 μm の緑のあたりにあります。
この曲線を古典の物理から導こうとしたのが、レイリー(1900 年)とジーンズ(1905 年)です。やることは 2 つあります。空洞の中にどんな振動が何通りあるかを数えることと、振動 1 つが平均でどれだけのエネルギーを持つかを決めることです。この 2 つを掛ければ、振動数ごとのエネルギーが求まります。
空洞の中の電磁波は、壁で反射して定在波になります。1 辺が L の立方体なら、定在波になるのは、縦・横・高さのどの向きにも半波長の整数倍がちょうど L に収まる波です。その整数を n_x、n_y、n_z とすると、振動数は \nu = \dfrac{c}{2L}\sqrt{n_x^2 + n_y^2 + n_z^2} になります。
振動数が \nu より低い振動の数は、3 つの整数を座標とする点のうち、半径 \dfrac{2L\nu}{c} の球の 8 分の 1 に入る点の数です。点の数は球の体積に比例するので \nu^3 に比例し、決まった幅の振動数に入る振動の数は \nu^2 に比例します。振動数を 2 倍にすると、同じ幅に入る振動は 4 倍になります。
電磁波には偏光の向きが 2 つあるので、数を 2 倍にします。空洞の体積で割ると、単位体積あたり、単位振動数あたりの振動の数は \dfrac{8\pi\nu^2}{c^3} です。立方体の 1 辺 L は式に残りません。
次は、振動 1 つの持つエネルギーです。古典の統計力学では、熱平衡にあるものは、運動エネルギーや位置エネルギーのように 2 乗で書ける項 1 つにつき、平均で \dfrac{1}{2}kT を持ちます。これをエネルギー等分配の法則といいます。電磁波の振動は電場と磁場の 2 つの項を持つので、平均は kT です。k はボルツマン定数で、振動数はどこにも入りません。
2 つを掛けると、単位体積あたり、単位振動数あたりのエネルギーは u(\nu) = \dfrac{8\pi\nu^2}{c^3}kT になります。これがレイリー・ジーンズの式です。単位波長あたりで書き直すと \dfrac{8\pi kT}{\lambda^4} で、波長が半分になると 16 倍になります。図で上がり続けている曲線がこれです。
長い波長では、この式は測定とよく合います。ルーベンスとクールバウムが 1900 年に赤外で測った強さは、波長の長いところで温度に比例し、この式のとおりでした。食い違うのは短い波長で、測定は山を越えると下がっていくのに、式は上がり続けます。
全部の振動数を足すと、\nu^2 を限りなく足すことになり、空洞の中のエネルギーは無限大になります。どんな温度の空洞でも、エネルギーのほとんどが紫外や X 線の振動数にあることになりますが、実際にはそうなりません。のちにエーレンフェストは、この食い違いを紫外破綻と呼びました。
短い波長のほうでは、ウィーンが 1896 年に出した式が測定とよく合っていました。振動数の 3 乗に e^{-b\nu/T} を掛けた形の式で、b は測定に合わせて決める定数です。ところが 1900 年の赤外の測定で、この式は長い波長で測定より小さくなることがわかりました。長い波長と短い波長の両方で合う式は、まだありませんでした。
プランクは 1900 年 10 月、両方で合う式を見つけて発表しました。ルーベンスが自分の測定と比べると、どの波長でも合っていました。ただ、この式は、長い波長では強さが温度に比例し、短い波長ではウィーンの式に近づくように作ったもので、なぜこの形になるのかは説明できていませんでした。12 月にプランクは、振動のエネルギーがとびとびの値しか取らないという仮定から、この式を導きました。
その仮定は、振動数 \nu の振動が持てるエネルギーを、0、h\nu、2h\nu、3h\nu と続く h\nu の整数倍に限るというものです。h はこのとき持ちこまれた定数で、のちにプランク定数と呼ばれます。間隔 h\nu は振動数に比例するので、振動数が高いほど、とびとびの値の間隔は広くなります。
熱平衡では、エネルギー E の状態にある確率は e^{-E/kT} に比例します。これをボルツマン因子といいます。kT は熱から受け取れるエネルギーのおおよその大きさで、室温の 300 K では約 0.026 eV です。1 eV は、電子 1 個を 1 V の電圧で加速したときに得るエネルギーで、1.6 \times 10^{-19} J です。
振動数が低く、h\nu が kT よりずっと小さいときは、0 より上の値へ上がる確率が十分にあり、振動はいくつもの値のあいだを移り変わります。図の左がこの場合です。とびとびの値は細かく並び、連続の場合とほとんど変わりません。
振動数が高く、h\nu が kT よりずっと大きいときは、h\nu の状態にいる確率は e^{-h\nu/kT} で、ほとんど 0 です。たとえば波長 0.5 μm の可視光では h\nu は約 2.5 eV で、300 K の kT の約 96 倍です。e^{-96} は約 2 \times 10^{-42} なので、この振動はほぼ必ずエネルギー 0 の状態にあります。図の右がこの場合です。
古典では、振動数がいくら高くても、振動 1 つは平均 kT を持つはずでした。とびとびに限ると、振動数の高い振動はエネルギーをほとんど持たなくなります。短い波長で振動の数がいくら増えても、エネルギーを持つ振動は増えないので、発散は起こりません。
振動 1 つの平均のエネルギーを、とびとびの値で計算します。x = \dfrac{h\nu}{kT} と置くと、エネルギー nh\nu の状態の確率は e^{-nx} に比例します。この重みの和は等比級数で、1 + e^{-x} + e^{-2x} + \cdots = \dfrac{1}{1 - e^{-x}} です。
エネルギーの平均は、各状態のエネルギーに確率を掛けて足したものです。h\nu(0 + e^{-x} + 2e^{-2x} + \cdots) を重みの和で割って整理すると、平均は \dfrac{h\nu}{e^{h\nu/kT} - 1} になります。振動数が入っているところが、古典の kT との違いです。
h\nu が kT よりずっと小さいときは、e^{h\nu/kT} - 1 はほぼ \dfrac{h\nu}{kT} なので、平均は kT に戻ります。h\nu が kT よりずっと大きいときは、平均は h\nu e^{-h\nu/kT} で、振動数が上がると指数関数で小さくなります。
これに振動の数 \dfrac{8\pi\nu^2}{c^3} を掛けたものが、プランクの式です。単位体積あたり、単位振動数あたりのエネルギーは u(\nu) = \dfrac{8\pi h\nu^3}{c^3}\dfrac{1}{e^{h\nu/kT} - 1} になります。
振動数の低いほうではレイリー・ジーンズの式 \dfrac{8\pi\nu^2}{c^3}kT と一致し、高いほうではウィーンの式の形 \dfrac{8\pi h\nu^3}{c^3}e^{-h\nu/kT} になります。2 つの式がそれぞれ測定と合っていた範囲で、プランクの式はそれぞれの式と同じ値になります。ウィーンの式の定数 b は \dfrac{h}{k} だったことになります。
図の曲線はこの式を波長ごとに描いたもので、点は測定を表しています。ルーベンスとクールバウム、ルンマーとプリングスハイムの測定は、温度を変えても波長を変えても、この曲線の上にありました。
ウィーンの変位則も、この式から求まります。単位波長あたりの式を微分して山の位置を探すと、\dfrac{hc}{\lambda kT} が約 4.965 のところが山で、\lambda_{\mathrm{max}}T = \dfrac{hc}{4.965k} = 2.9 \times 10^{-3} m·K です。体温の 310 K では山は 9.3 μm にあり、赤外線で体温を測る体温計はこの波長の光を測っています。宇宙マイクロ波背景放射の 2.7 K では、山は約 1 mm です。
全部の波長を足したエネルギーも有限になり、温度の 4 乗に比例します。黒体の表面 1 m² から 1 秒間に出るエネルギーは \sigma T^4 で、\sigma = \dfrac{2\pi^5k^4}{15c^2h^3} = 5.67 \times 10^{-8} W/(m²·K⁴) です。これをシュテファン・ボルツマンの法則といいます。シュテファンが 1879 年に測定から見つけ、ボルツマンが 1884 年に熱力学から導いた法則の係数が、プランクの式から決まります。
プランクの式には、値がまだわかっていない定数が 2 つあります。h と k です。k は気体の分子 1 個あたりの熱のエネルギーの大きさを決める定数ですが、当時は分子 1 個の質量がよくわかっておらず、正確な値は知られていませんでした。
プランクは、すでに測られていた 2 つの値を使いました。変位則の定数 \dfrac{hc}{4.965k} と、シュテファン・ボルツマンの法則の定数 \sigma = \dfrac{2\pi^5k^4}{15c^2h^3} です。前者からは \dfrac{h}{k} が、後者からは \dfrac{k^4}{h^3} が決まるので、2 つを合わせると h と k が別々に求まります。
1900 年 12 月にプランクが出した値は、h = 6.55 \times 10^{-34} J s、k = 1.346 \times 10^{-23} J/K です。いまの値は h = 6.626 \times 10^{-34} J s、k = 1.381 \times 10^{-23} J/K なので、どちらも 3% 以内で合っています。
k がわかると、気体定数 R を k で割って、1 mol に含まれる分子の数(アボガドロ数)が求まります。プランクの値は 6.17 \times 10^{23} でした。さらに、1 mol の 1 価のイオンが運ぶ電気の量(ファラデー定数)をこの数で割ると、電気素量が 1.56 \times 10^{-19} C と求まります。いまの値 1.602 \times 10^{-19} C との差は約 2% で、当時の直接の測定よりいまの値に近いものでした。
プランク自身は、エネルギーを h\nu ずつに区切ることを、測定と合う式を導くための仮定と考えていました。振動のエネルギーが本当にとびとびなのか、数え方の上だけのことなのかは、黒体放射の測定だけでは決められません。
1905 年、アインシュタインは、光そのものが h\nu のエネルギーを持つ粒の集まりだと考えて、光電効果を説明しました。のちにミリカンが光電効果の測定から求めた h は、黒体放射から求めた値と 1% 以内で一致しています。図の左は黒体放射の曲線、右は光電効果の直線で、どちらからも同じ h が求まります。
h は現在、値が定義で決められた定数で、h = 6.62607015 \times 10^{-34} J s です。2019 年からは、キログラムがこの値をもとに定義されています。