1 つのバンドには、原子 1 個あたり 2 個まで電子が入ります。電子はエネルギーの低い状態から順に入るので、物質の中の電子の数によって、一番上のバンドが途中まで入るか、ちょうど満ちるかが決まります。この違いが、金属と絶縁体の違いになります。
バンドの中の電子の速さは、群速度 v = \dfrac{1}{\hbar}\dfrac{dE}{dk} で表されます。E = E_0 - 2t\cos ka のバンドでは v = \dfrac{2ta}{\hbar}\sin ka で、k が正の電子は右へ、負の電子は左へ動きます。電場がないとき、電子は k = 0 をはさんで左右対称に入っているので、速さを足し合わせると 0 になり、電流は流れません。
電場をかけると、電子は電場と逆向きの力 F を受け、どの電子の k も \hbar\dfrac{dk}{dt} = F に従って同じだけずれていきます。図の左のようにバンドが途中までしか入っていなければ、電子の分布が片側にずれ、右へ動く電子が左へ動く電子より多くなって、電流が流れます。実際の金属では、電子が陽イオンの熱振動や不純物に散乱されるので、ずれはある大きさで止まり、電流は一定になります。
図の右のようにバンドがすべて満ちていると、どの電子の k がずれても、ずれた先は、ほかの電子がそれまでいた状態です。電子の分布は全体として変わらず、速さの合計は 0 のままで、電流は流れません。パウリの排他原理によって、電子は空いた状態にしか移れないからです。
一番上のバンドが途中まで入っている物質が金属で、満ちたバンドの上に大きなギャップがある物質が絶縁体です。満ちているバンドを価電子帯、その上の空いたバンドを伝導帯といいます。ナトリウムは 3s のバンドが半分まで入るので金属です。ダイヤモンドでは価電子帯がちょうど満ち、伝導帯とのあいだに 5.5\,\mathrm{eV} のギャップがあるので、絶縁体です。
マグネシウムは、原子 1 個あたり 2 個の電子を 3s に持つので、3s のバンドがちょうど満ちるように思えます。しかし、3s のバンドと 3p のバンドはエネルギーの範囲が重なっていて、電子は両方に分かれて入り、どちらも途中までになります。そのためマグネシウムは金属です。
バンドギャップが小さい物質では、絶対零度では絶縁体でも、温度があると一部の電子が熱のエネルギーを受け取って伝導帯に上がります。伝導帯に上がった電子は空いた状態の中を動けるので、電流を運べます。このような物質を半導体といいます。シリコンのバンドギャップは 1.12\,\mathrm{eV}、ゲルマニウムは 0.66\,\mathrm{eV} です。
伝導帯の電子の数を n、価電子帯に残った空きの数を p とすると、積 np は e^{-E_g/k_\mathrm{B}T} に比例します。k_\mathrm{B} はボルツマン定数で、室温 300 K では k_\mathrm{B}T = 0.026\,\mathrm{eV} です。電子が 1 個上がるごとに空きが 1 つできるので、純粋な半導体では n = p で、n は e^{-E_g/2k_\mathrm{B}T} に比例します。
シリコンでは、室温で伝導帯に上がっている電子は 1\,\mathrm{cm}^3 あたり約 10^{10} 個です。シリコン原子は 1\,\mathrm{cm}^3 に 5 \times 10^{22} 個あるので、原子 5 兆個に 1 個の割合にすぎません。銅では電流を運ぶ電子が原子 1 個あたり 1 個あり、1\,\mathrm{cm}^3 に 8.5 \times 10^{22} 個あります。
図は、シリコンの温度を 280 K から 340 K まで変えたときの、伝導帯の電子と価電子帯の空きを点で描いたものです。点の数は e^{-E_g/2k_\mathrm{B}T} に比例させてあります。この値は、300 K から 340 K に上げるだけで約 13 倍になります。
金属では温度を上げると抵抗が大きくなりますが、半導体では温度を上げると伝導帯の電子が急に増えるので、抵抗は小さくなります。温度を測るサーミスタには、この性質を使うものがあります。ダイヤモンドでは e^{-E_g/2k_\mathrm{B}T} が室温で 10^{-46} ほどになり、伝導帯に上がる電子は事実上ありません。
電子が伝導帯に上がると、価電子帯には電子のいない状態が 1 つ残ります。この空いた状態があると、価電子帯はもう満ちていないので、価電子帯の電子も電流を運べるようになります。
図は、価電子帯の電子が入っている場所を横に並べ、その 1 つが空いている様子を描いたものです。電場をかけると、空きの右隣の電子が左へ移って空きを埋め、空きは右へ 1 つ移ります。次は、その右隣の電子が左へ移ります。電子は 1 個ずつ左へ動き、空きは右へ動き続けます。
動いている電子は 1 個ずつ違いますが、空きの位置だけを見ると、1 つのものが電場の向きに動いています。負の電荷を持つ電子が 1 個足りない場所なので、まわりと比べると、そこには正の電荷 +e があります。この空きを、正の電荷 +e を持つ粒子として扱ったものを正孔といいます。
半導体の電流は、伝導帯の電子が運ぶ電流と、価電子帯の正孔が運ぶ電流の和です。電子は電場と逆向きに、正孔は電場の向きに動きますが、電荷の符号も逆なので、2 つの電流はどちらも電場の向きに流れます。
正孔を正の電荷を持つ粒子として扱ってよいことは、ホール効果で確かめられます。磁場の中の導体に電流を流すと、電荷を運ぶ粒子が磁場から横向きの力を受け、電流と垂直な向きに電圧が生じます。その電圧の符号から、粒子の電荷の符号がわかります。正孔の多い半導体では、正の電荷が電流を運ぶときの符号の電圧が測られます。
純粋なシリコンの伝導電子は少なすぎるので、実際の半導体には不純物を加えます。これをドーピングといいます。シリコンは 4 個の価電子を持ち、隣の 4 個の原子と共有結合を作っています。ここに価電子を 5 個持つリンを入れると、結合に使われない電子が 1 個余ります。
余った電子は、正の電荷を 1 つ多く持つリンのイオンに引かれ、水素原子と同じ形の束縛状態を作ります。ただし、まわりのシリコンが電場を弱めるので、クーロン力は比誘電率 \varepsilon_r = 11.7 で割った大きさになります。また、結晶の中の電子の運動は、質量を有効質量 m^* に置きかえると、自由な電子と同じ式で表せます。シリコンの伝導帯では m^* = 0.26m ほどです。
水素原子のエネルギー 13.6\,\mathrm{eV} と半径 a_0 をこの 2 つで書きかえると、束縛エネルギーは 13.6\,\mathrm{eV} \times \dfrac{m^*/m}{\varepsilon_r^2} \approx 0.026\,\mathrm{eV}、半径は a_0 \times \dfrac{\varepsilon_r}{m^*/m} \approx 2.4\,\mathrm{nm} になります。測った値はリンで 0.045\,\mathrm{eV} です。半径はシリコンの原子の間隔の約 10 倍で、軌道の中に数千個の原子が入るので、まわりのシリコンが電場を弱めるという考え方が成り立ちます。
0.045\,\mathrm{eV} は室温の k_\mathrm{B}T = 0.026\,\mathrm{eV} の 2 倍ほどしかないので、室温ではほとんどのリンから電子が離れ、伝導帯に上がっています。このリンの準位をドナー準位といい、伝導帯の下端のすぐ下にあります(図の左)。電子が離れたリンは、正のイオンとして結晶の中に残ります。伝導帯に電子を与える不純物を加えた半導体を n 型といいます。
価電子が 3 個のホウ素を入れると、逆に結合の電子が 1 個足りなくなります。ホウ素は、価電子帯の上端から 0.045\,\mathrm{eV} 上に空いた準位を作ります。価電子帯の電子が熱でそこへ移ると、価電子帯に正孔が残ります(図の右)。この準位をアクセプター準位といい、正孔が電流を運ぶ半導体を p 型といいます。
加える量はごくわずかです。シリコン原子 1000 万個にリン原子 1 個を加えると、1\,\mathrm{cm}^3 あたり 5 \times 10^{15} 個の伝導電子ができ、純粋なシリコンの約 50 万倍になります。加える不純物の種類と量で、電子と正孔のどちらがどれだけ多いかを決められることが、半導体を電子部品に使える理由です。
p 型と n 型の半導体を接合したものを pn 接合といいます。接合のところでは、n 型の電子が p 型の側へ、p 型の正孔が n 型の側へ拡散して再結合し、接合の両側に電荷の偏りができます。その電荷がつくる電場のため、伝導帯と価電子帯の高さは、接合の両側で違ってきます。
p 型の側を正にする順方向の電圧をかけると、この高さの違いが小さくなり、n 型の側から電子が、p 型の側から正孔が接合へ移動します。接合の近くで、伝導帯の電子が価電子帯の正孔のところへ移ると、そのエネルギーの差が光子として放出されます。光子のエネルギーはバンドギャップとほぼ等しく、波長は \lambda = \dfrac{hc}{E_g} = \dfrac{1240\,\mathrm{nm\,eV}}{E_g} です。これが発光ダイオード(LED)です。
図は、3 種類の半導体から放出される光を比べたものです。GaAs は E_g = 1.42\,\mathrm{eV} で、波長 873 nm の赤外線を放出します。赤外線の LED は、テレビのリモコンなどに使われています。AlGaInP は約 1.9 eV で約 650 nm の赤、InGaN は約 2.8 eV で約 450 nm の青の光を放出します。バンドギャップが大きいほど、波長は短くなります。
青い LED は、窒化ガリウムの良質な結晶と p 型の層を作ることが難しく、長いあいだ実現しませんでした。1990 年代に赤崎勇、天野浩、中村修二が効率の高い青い LED を作り、2014 年のノーベル物理学賞を受けました。白い LED の多くは、青い光の一部を蛍光体で黄色の光に変え、2 つを混ぜて白く見せています。
シリコンは LED には使われません。シリコンでは、伝導帯の一番低い状態と価電子帯の一番高い状態が、違う k のところにあります。光子は運動量をほとんど持たないので、電子が光子を放出するだけでは k を変えられず、格子の振動の吸収か放出を同時に伴わなければなりません。このような半導体を間接遷移型といい、再結合のエネルギーのほとんどは熱になります。GaAs などは 2 つの状態が同じ k にある直接遷移型で、効率よく光を放出します。
逆に、バンドギャップより大きなエネルギーの光子が入ると、価電子帯の電子が伝導帯に上がり、電子と正孔ができます。太陽電池やカメラの撮像素子は、これを使っています。シリコンが吸収するのは波長が 1.1\,\mu\mathrm{m} より短い光です。ダイヤモンドが透明なのは、バンドギャップ 5.5\,\mathrm{eV} が可視光の光子のエネルギー、約 1.7 eV から 3.3 eV より大きいからです。