状態数と位相空間:系の「場合の数」を数える

統計力学では、系がとりうる状態の数を数えることが出発点となります。この「場合の数」を状態数と呼び、記号 で表します。状態数を正しく数えるためには、位相空間という概念が不可欠です。

古典力学における状態

1つの粒子の運動状態は、位置 と運動量 の6つの数で完全に指定されます。これを一般化して、 個の粒子からなる系の状態は 個の変数で記述されます。

位置座標

:すべての粒子の位置を表す 個の座標。

運動量座標

:すべての粒子の運動量を表す 個の座標。

これらの座標を軸とする 次元の空間を位相空間(phase space)と呼びます。系の状態は位相空間内の1点として表され、時間発展とともにこの点が軌跡を描いて移動します。

位相空間の体積と状態数

古典力学では、位相空間内の点は連続的に分布しています。そのため「状態の数」を直接数えることはできません。代わりに、位相空間の体積を考えます。

ある条件(たとえばエネルギーが 以下)を満たす領域の体積を とすると、状態数はこの体積に比例すると考えます。ただし、体積をそのまま使うと次元の問題が生じるため、基準となる体積で割る必要があります。

量子力学によれば、位相空間の最小単位はプランク定数 で決まります。1自由度あたりの最小体積は なので、 粒子系では が基準となります。

この式により、古典的な位相空間体積から無次元の状態数が得られます。

具体例:1次元調和振動子

1次元調和振動子のエネルギーは

と表されます。エネルギーが 以下の領域は、位相空間 において楕円の内部になります。

エネルギー条件 を設定

位相空間で楕円 を考える

楕円の面積 を計算

状態数 を得る

この結果は、量子力学で調和振動子のエネルギー準位が となることと整合しています。

同種粒子の識別不可能性

古典力学では粒子に番号をつけて区別できると仮定しますが、量子力学では同種の粒子は本質的に識別不可能です。 個の同種粒子を区別して数えると、実際より 倍多く状態を数えてしまいます。

これを補正するため、同種粒子系の状態数は

と定義します。この の因子はギブズの因子と呼ばれ、正しいエントロピーを得るために必要です。この補正がないと、同じ気体を混ぜるだけでエントロピーが増加するという「ギブズのパラドックス」が生じてしまいます。

位相空間と状態数の概念は、統計力学の土台となるものです。次に学ぶエントロピーの統計的解釈では、この状態数 が中心的な役割を果たします。