ボース-アインシュタイン凝縮:究極の量子状態

ボース-アインシュタイン凝縮(BEC)は、ボソンが極低温で示す驚くべき量子現象です。巨視的な数の粒子が最低エネルギー状態に「凝縮」し、量子力学的な効果が肉眼で観測できるスケールで現れます。1995年の実験的実現はノーベル賞に輝きました。

凝縮の条件

理想ボソン気体において、有限温度で励起状態に収容できる粒子数には上限があります。

温度 で励起状態()にいる粒子数は

ここで は状態密度です。3次元では で、この積分は有限値に収束します。

化学ポテンシャル は負(ただし

温度を下げると に近づく

で励起状態に入れる粒子数が最大

残りは基底状態に凝縮

臨界温度

励起状態に入れる最大粒子数が全粒子数 に等しくなる温度を臨界温度 と呼びます。

ここで は数密度、 はリーマンのゼータ関数です。

すべての粒子が励起状態に分布。通常の気体的振る舞い。

基底状態に有限割合の粒子が凝縮。凝縮相が出現。

凝縮分率

では、基底状態の粒子数は

で与えられます。 では全粒子が基底状態に凝縮します。

凝縮分率

凝縮分率

実験的実現

BEC を実現するには非常に低い温度が必要です。

ルビジウム87原子 nK
ナトリウム原子 μK
水素原子 μK

1995年、コーネルとワイマン(ルビジウム)、ケターレ(ナトリウム)がそれぞれ独立に希薄原子気体でのBECを実現しました。レーザー冷却と蒸発冷却を組み合わせて、ナノケルビンの温度を達成したのです。

1924
アインシュタインの予言

ボース統計を質量をもつ粒子に適用し、低温での凝縮を理論的に予測。

1938
超流動ヘリウムの発見

液体ヘリウム4が2.17 K以下で超流動を示すことが発見。BECとの関連が議論される。

1995
希薄気体でのBEC実現

コーネル、ワイマン、ケターレが希薄原子気体でBECを実現。2001年ノーベル物理学賞。

BECの性質

凝縮状態の粒子は同じ量子状態を占め、単一の波動関数で記述されます。

コヒーレンス

凝縮体全体が一つの巨視的波動関数 で記述される。干渉実験で波動性が直接観測できる。

超流動

粘性なく流れる性質。渦は量子化される。

液体ヘリウム4の超流動もBECに関連していますが、強い相互作用のため理想気体のBECとは異なる面もあります。希薄原子気体では相互作用が弱く、理論との比較が精密に行えます。

BECは「巨視的な量子状態」という、直感に反する概念を目に見える形で示してくれます。現在では原子レーザー、量子シミュレーション、精密測定など、多くの応用研究が進んでいます。量子力学が日常スケールで顔を出す、極めて興味深い現象です。