エネルギー等分配則:自由度と熱容量
古典統計力学において、エネルギー等分配則は極めて強力な定理です。系の自由度だけを数えれば、詳細な計算なしに平均エネルギーや熱容量が求まります。ただしこの法則は古典的な近似であり、量子効果が重要になる状況では破綻します。
等分配則の内容
等分配則は次のように述べられます。
熱平衡にある古典系において、ハミルトニアンが座標や運動量の2次形式で書ける自由度には、1自由度あたり のエネルギーが分配される。
たとえば、運動エネルギー は の2次形式なので、この自由度に が分配されます。
:3自由度で
:運動エネルギーとポテンシャルで各1自由度、計
数学的導出
2次形式のエネルギー項 ( は正の定数、 は一般化座標または運動量)を考えます。この自由度の平均エネルギーは
分子と分母のガウス積分を実行すると
係数 や質量によらず、 が得られます。これが等分配則の数学的基礎です。
気体分子への適用
等分配則を使えば、気体分子の熱容量が自由度の数え上げだけで求まります。
| 分子 | 自由度 | |
|---|---|---|
| 単原子 | 並進3 | |
| 二原子(剛体) | 並進3 + 回転2 | |
| 二原子(振動あり) | 並進3 + 回転2 + 振動2 |
二原子分子の回転が2自由度なのは、分子軸周りの回転は慣性モーメントがほぼゼロで凍結しているからです。振動は運動エネルギーとポテンシャルで2自由度となります。
実験との不一致と量子効果
等分配則は古典力学に基づくため、量子効果が重要な状況では破綻します。
二原子分子の は温度によらず (すべての自由度が励起)
低温では 、室温で 、高温で に漸近
この温度依存性は、自由度の「凍結」で説明されます。量子力学によれば、各自由度にはエネルギー準位間隔があります。 がこの間隔より小さいとき、その自由度は励起されず、熱容量に寄与しません。
低温:振動も回転も凍結、並進のみ活性()
室温:回転が活性化、振動は凍結()
高温:振動も活性化()
水素分子の場合、回転の励起温度は約85 K、振動の励起温度は約6000 K です。
固体の比熱
固体中の原子は格子点の周りで3次元調和振動します。等分配則によれば、1原子あたり6自由度(各方向の運動とポテンシャルで2×3)なので
これはデュロン-プティの法則として知られています。室温付近の多くの金属でこの値に近い比熱が観測されます。しかし低温では比熱は急激に減少し、 で となります。これはネルンストの熱定理(熱力学第三法則)と整合しますが、古典的な等分配則では説明できません。
等分配則は古典統計力学の重要な結果ですが、その破綻は量子力学の必要性を示す歴史的な証拠ともなりました。