等重率の原理:なぜすべての状態は等確率なのか
統計力学の根底には「等重率の原理」という基本的な仮定があります。これは、孤立系において許される全てのミクロ状態は等しい確率で実現するというものです。一見すると当たり前のようですが、なぜこの原理が成り立つのかは深い問題を含んでいます。
等重率の原理とは
孤立系のエネルギーが であるとき、そのエネルギーをもつすべてのミクロ状態は等確率で出現すると仮定します。状態数を とすれば、各ミクロ状態の出現確率は
となります。これが等重率の原理(principle of equal a priori probabilities)です。
エネルギー をもつ孤立系において、許されるすべてのミクロ状態は等しい確率で実現する。
マクロ状態の実現確率は、そのマクロ状態に対応するミクロ状態の数に比例する。
なぜある特定の状態だけが優遇されないのでしょうか。これには深い理由があります。
エルゴード仮説との関係
等重率の原理を正当化する試みの一つがエルゴード仮説です。
十分長い時間が経過すると、系はエネルギー一定の面上のすべての点を通過する、というのがエルゴード仮説の主張です。もしこれが成り立てば、時間平均と集団平均(アンサンブル平均)が一致し、等重率の原理が導かれます。
一つの系を長時間観測し、物理量の平均をとる。
同じマクロ条件をもつ多数の系(アンサンブル)を用意し、物理量の平均をとる。
しかし厳密な意味でのエルゴード性を証明することは非常に難しく、多くの系では成り立たないことが知られています。それでも統計力学が成功するのは、マクロな物理量に関しては「ほぼエルゴード的」であれば十分だからです。
情報理論からの視点
等重率の原理は、情報理論の観点からも正当化できます。
エネルギーが であること以外に何の情報もないとき、最も偏りのない(先入観のない)確率分布は何でしょうか。情報エントロピー
を最大化する分布を求めると、すべての が等しい一様分布が得られます。
エネルギー のみが既知
情報エントロピーを最大化
の一様分布が得られる
等重率の原理が導かれる
これは、与えられた制約のもとで最も「無知」な分布を仮定するという、最大エントロピー原理の応用です。
等重率の原理の限界
等重率の原理はあくまで仮定であり、常に成り立つわけではありません。
平衡状態にない系では、等重率は成り立ちません。初期条件に依存した確率分布となります。
ガラスのように準安定状態に「凍結」した系では、位相空間の一部しか探索されません。
それでも、熱平衡にある系に対して等重率の原理は驚くほどよく成り立ち、統計力学の予測は実験と高精度で一致します。
等重率の原理を「証明」することはできませんが、これを出発点として構築された統計力学が膨大な実験事実を説明できることが、この原理の正当性を裏付けています。物理学においては、このような「実証的な正当化」がしばしば最も強力な根拠となります。