マクスウェル-ボルツマン分布:速度分布の法則

気体分子は一様な速さで運動しているわけではありません。個々の分子は様々な速度をもち、その分布はマクスウェル-ボルツマン分布に従います。この分布は統計力学から自然に導かれ、気体の輸送現象や化学反応速度を理解する基礎となります。

速度分布の問題設定

温度 の平衡状態にある気体を考えます。ある瞬間に、速度が から の範囲にある分子の割合はどれだけでしょうか。

カノニカル分布によれば、エネルギー の状態の出現確率はボルツマン因子 に比例します。理想気体分子のエネルギーは運動エネルギー だけなので

規格化すると、3次元の速度分布関数が得られます。

速度成分の分布

速度の各成分 は独立で、それぞれが1次元ガウス分布に従います。

この分布の平均は (どちらの向きも等確率)、分散は です。

平均値

(対称性より)

二乗平均

(エネルギー等分配則と整合)

速さの分布

方向を問わず、速さ がどう分布するかも重要です。速さが から の範囲にある確率は、半径 の球殻の体積 を考慮して

これがマクスウェル速さ分布です。 の因子があるため、 では確率がゼロになり、有限の値で極大をとります。

低速: の因子で確率が小さい

中速:ボルツマン因子と のバランスで極大

高速:ボルツマン因子で指数関数的に減少

特徴的な速度

速さの分布からいくつかの特徴的な速度が定義されます。

最確速度
平均速度
二乗平均速度

これらの間には の関係があります。比率は です。

温度依存性

温度が上がると、分布は全体的に高速側にシフトし、幅も広がります。

低温

分布のピークは低速側にあり、幅は狭い。ほとんどの分子が低速。

高温

分布のピークは高速側にシフトし、幅が広がる。高速分子の割合が増える。

具体的には、特徴的速度はすべて に比例します。温度が4倍になると、平均速度は2倍になります。

応用例

マクスウェル-ボルツマン分布は多くの現象を説明します。気体の圧力は分子が壁に衝突する際の運動量変化から生じますが、この計算には速度分布が必要です。また、化学反応が起こるには活性化エネルギーを超える高エネルギーの分子が必要で、その割合はボルツマン因子で決まります。温度を上げると反応が速くなるのは、高エネルギー分子の割合が指数関数的に増えるからです。

マクスウェルが1860年代にこの分布を導いたのは、ボルツマンの統計力学の定式化よりも前のことでした。統計力学の歴史的発展においても重要な里程標となった分布です。