イジング模型:磁性の統計力学

イジング模型は統計力学で最も研究されている模型の一つです。格子上のスピンが上向きか下向きかをとり、隣接スピン間に相互作用をもつという単純な設定ながら、相転移や臨界現象の本質を捉えています。2次元イジング模型の厳密解は、統計力学の金字塔です。

模型の定義

個のスピン が格子点に配置されています。ハミルトニアンは

第1項は最近接スピン間の相互作用( で強磁性)、第2項は外部磁場 との結合です。

(強磁性)

隣接スピンが平行だとエネルギーが低い。低温で自発磁化が現れる。

(反強磁性)

隣接スピンが反平行だとエネルギーが低い。低温で交互配列。

1次元イジング模型

1次元では厳密解が得られます。外部磁場 の場合、分配関数は転送行列法で計算でき

自由エネルギーは

重要なのは、1次元では有限温度での相転移が起こらないことです。どんな低温でも長距離秩序は存在せず、自発磁化はゼロです。

1次元

で相転移なし。熱揺らぎがドメイン壁を作り、長距離秩序を壊す。

2次元以上

有限温度で相転移が起こる。低温で自発磁化が出現。

2次元イジング模型

2次元正方格子のイジング模型は、1944年にオンサーガーが厳密解を与えました。臨界温度は

で自発磁化が現れ、その温度依存性は

ここから臨界指数 が読み取れます。

1920
イジングによる1次元解

レンツの学生イジングが1次元模型を解き、相転移がないことを示した。

1936
パイエルスの議論

2次元以上では低温で秩序相が存在することを論証。

1944
オンサーガーの厳密解

2次元イジング模型の自由エネルギーを厳密に計算。臨界温度を決定。

平均場近似

厳密解が困難な場合、平均場近似が有用です。各スピンに作用する有効磁場を周囲のスピンの平均で置き換えます。

磁化 に対する自己無撞着方程式は

は配位数(最近接サイト数)です。 で解を調べると、 以下で の解が現れます。

のみが解

:分岐点、 が不安定化

の解が安定

平均場近似は定性的には正しいですが、臨界指数は厳密解と異なります。平均場では ですが、2次元の厳密解では です。

イジング模型の普遍性

イジング模型は磁性だけでなく、格子気体、二元合金、ニューラルネットワークなど、多くの系と対応関係があります。これらは同じ統計力学的構造をもち、同じ臨界指数を示します。

単純な模型が豊かな物理を内包している点で、イジング模型は統計力学の象徴的存在です。