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気体分子運動論|圧力の導出・二乗平均速度・温度が意味するもの

気体の圧力は、分子が壁を叩いた結果です。1 個 1 個の衝突は小さくても、数が多ければ押し続ける力になる。

叩く回数と勢いを数えていくと、実験から得られた状態方程式が出てきます。目に見えない分子の運動と、測れる圧力や温度がつながる。

以下では 1 個の分子が壁に与える力積から始め、 個ぶんを足し、温度が分子の運動エネルギーそのものだと分かるところまで進みます。

模型の約束

計算を始める前に、分子について 4 つのことを決めておく。

分子は大きさを持たない点で、質量だけを持つ。
分子どうしは衝突のとき以外、力を及ぼし合わない。
壁との衝突は完全弾性衝突で、速さが変わらない。
分子はあらゆる向きへ等しく散らばって動いている。

この 4 つが気体分子運動論の模型です。理想気体の約束をそのまま分子の言葉に直したものになる。

一辺の長さが の立方体の容器を考えます。中に同じ分子が 個、質量はどれも

1 個の分子が壁に与える力積

方向に速さ で動く分子が、右の壁に当たって跳ね返ります。弾性衝突なので、速さは変わらず向きだけが反転する。

方向の運動量は から へ変わります。変化量は

壁が受ける力積はその反対向きで、大きさは次のようになる。

青が当たる前、赤が跳ね返ったあとです。矢印の長さは同じで向きだけが逆になっている。

方向と 方向の速度は、この衝突では変わりません。右の壁は 方向にしか力を及ぼさないからです。

何回ぶつかるか

1 回の力積が分かったので、次は回数を数えます。同じ壁に戻ってくるまで、分子は容器を往復する。

往復の距離は なので、かかる時間は次のようになる。

時間 のあいだの衝突回数は、 をこの時間で割った値です。

速い分子ほど回数が増えます。 が 2 倍なら、1 回あたりの力積も 2 倍で回数も 2 倍。効き方が二重になる。

赤の分子は青の 2 倍の速さで、右の壁に当たる回数もちょうど 2 倍で増えていく。

1 個が壁に及ぼす平均の力

時間 のあいだに壁が受ける力積の合計は、1 回ぶんに回数を掛けたものです。

力積は力と時間の積なので、これを で割れば平均の力になる。

分子 1 個が壁を押す平均の力が出ました。 の 2 乗で効いている。

N 個ぶんを足す

個の分子は速さがまちまちです。そこで の平均値を と書き、全部の合計を平均で代表させる。

平均をとる操作をここで 1 度だけ使う。分子を 1 個ずつ追わずに済むところが、この模型の値打ちです。

向きの偏りをならす

のままでは 方向だけの量で、扱いにくい。速さの 2 乗は 3 方向の成分から次のように組み立てられます。

平均をとっても関係は変わらない。分子はどの向きにも等しく散らばっているので、3 つの平均は等しくなります。

左は 1 個の分子の速度を 3 方向に分けた図です。右の 3 本の棒は同じ高さで、足すと全体になる。

3 つが等しいと言えるのは、模型の 4 つ目の約束のおかげです。特別な向きがないという仮定がここで効いてくる。

圧力の式

平均をならした結果を、さきほどの力の式に入れる。

圧力は力を面積で割った値です。壁の面積は なので、次のようになる。

は容器の体積 そのものです。

分子の質量と速さだけで圧力が書けました。温度はまだどこにも出てきていない。

温度との橋渡し

一方、実験から得られた状態方程式は次の形でした。 はボルツマン定数です。

同じ を 2 通りに書いたので、右辺どうしを比べられる。

を約分して整理すると、分子 1 個の運動エネルギーの平均が出てくる。

温度は分子の運動エネルギーの平均そのものだった、という結論です。「温度が高い」は「分子が速い」の言いかえになる。

例:分子 1 個の運動エネルギー

の気体で、分子 1 個の平均の運動エネルギーを求めます。 とする。

気体の種類によりません。窒素でも水素でも、同じ温度なら 1 個あたりのエネルギーは同じです。

重い分子は同じエネルギーを持つために、そのぶんゆっくり動く。次の節でその関係を見ます。

二乗平均速度

の平方根を二乗平均速度という。分子の速さを代表させる量です。

さきほどの式を について解く。

あたりに直せば、 に、 がモル質量 に置き換わります。こちらのほうが計算しやすい。

の単位は です。 のまま入れると 倍ずれる。

例:窒素分子の速さ

の窒素について求めます。窒素分子のモル質量は なので、 と直す。

秒速 以上です。音速の より速い。

音が空気中を伝わる速さが分子の速さと同じ桁になるのは、音を分子の衝突が運んでいるからです。

気体によって速さが違う

同じ温度なら、軽い分子ほど速く動く。エネルギーが同じで質量が違うからです。

水素は秒速 を超えます。二酸化炭素の 4.7 倍で、これは質量の比 の平方根にあたる。

軽い気体が地球の大気から逃げやすいのも、この速さの差が理由です。水素とヘリウムは大気にほとんど残っていない。

温度で速さがどう変わるか

速さは絶対温度の平方根に比例します。温度を 4 倍にして、やっと速さが 2 倍。

右のグラフが平方根の曲線です。低温では急に伸び、高温では寝てくる。

分子の色が赤くなっても、速さの数値ほどには増えていません。エネルギーが に比例し、速さはその平方根だからです。

の気体の温度を にすると、分子の二乗平均速度は何倍になりますか。

  • 4 倍
  • 2 倍
  • 16 倍
  • 変わらない
__RESULT__

に比例します。温度が 4 倍なら平方根をとって 2 倍です。運動エネルギーのほうは 4 倍になります。

例:温度を 4 倍にする

で秒速 の窒素を、 まで温めます。

速さは になります。一方、運動エネルギーは に比例するので 4 倍。

速さの 2 乗がエネルギーなので、この食い違いが起きる。 で帳尻が合っています。

内部エネルギーとのつながり

分子 1 個の運動エネルギーが分かれば、 個ぶんの合計が出る。それが内部エネルギーです。

単原子分子の内部エネルギーの式が、分子の運動から出てきました。 も入らず、温度と物質量だけで決まる。

原子が 2 つつながった分子では回転のぶんが加わり、係数が から に変わります。ただし圧力の導出そのものは並進の運動だけで決まるので、 はどちらの気体でも成り立つ。

平均の速さと二乗平均速度は違う

は、速さをそのまま平均した値ではありません。2 乗してから平均し、あとで平方根をとった値です。

速い分子は 2 乗で強く効くので、単なる平均より大きめの値になります。

は平均の速さのおよそ

高校で使うのは のほうです。圧力の式に が出てくるので、こちらが自然に選ばれる。

分子の速さは 1 つの値ではなく、遅いものから速いものまで幅を持って散らばっています。その散らばり方を表す式がマクスウェル分布で、高校では扱いません。

よくある誤り

最後に、間違えやすいところを並べます。

モル質量を のまま代入する。 です。
温度を 2 倍にすれば速さも 2 倍と思う。速さは に比例するので 倍です。
分子 1 個の運動エネルギーが気体で違うと思う。同じ温度なら種類によらず です。
速さも気体によらないと思う。エネルギーが同じでも質量が違うので、軽い分子ほど速く動きます。
を同じものと思う。2 乗してから平均するのと、平均してから 2 乗するのは違います。
力積を とする。向きが反転するので です。
往復の距離を とする。同じ壁に戻るには 進みます。
としてしまう。3 方向に分かれるので で割ります。
セルシウス温度を代入する。 は絶対温度です。

参考文献

Kinetic theory of gases - Wikipedia
Root-mean-square speed - Wikipedia
Maxwell-Boltzmann distribution - Wikipedia
Kinetische Gastheorie - Wikipedia(ドイツ語)
Théorie cinétique des gaz - Wikipédia(フランス語)
気体の圧力は分子が壁を叩いた結果です。1 個の力積 $2mv_x$ から出発して圧力の式を導き、状態方程式と比べて温度が分子の運動エネルギーそのものだと確かめ、二乗平均速度まで計算します。