状態変化と潜熱〜融解熱・蒸発熱と温度が止まる理由
氷を火にかけても、溶けきるまで温度は のままです。熱は入り続けているのに温度計が動かない。
入った熱は、分子どうしのつながりを切るほうへ回っています。温度を変えずに状態だけを変える熱が潜熱です。
以下では温度が止まる区間の意味を確かめ、融解熱と蒸発熱の大きさを比べ、氷や汗が冷やす仕組みまで進みます。
温度が上がらない区間がある
の氷を一定の火力で温め続けると、温度は一本調子には上がりません。途中で 2 回、平らになる区間が現れる。
斜めの区間では温度が上がり、平らな区間では止まります。平らな区間でも熱は入り続けている。
いちばん長いのは右端の蒸発の区間です。全体の 4 分の 3 近くをここが占めている。
顕熱と潜熱
温度を上げるほうへ使われる熱を顕熱、状態を変えるほうへ使われる熱を潜熱といいます。温度計に現れるかどうかで呼び分ける。
顕熱は分子の運動を速くし、潜熱は分子どうしのつながりを切る。潜熱のあいだ温度が変わらないのは、加えたエネルギーが運動ではなく位置のエネルギーへ回るからです。
斜めの区間が顕熱、平らな区間が潜熱にあたります。1 本の加熱曲線に両方が並んでいる。
潜熱の式
質量 の物質を、温度を変えずにすべて状態変化させるのに要る熱は次のようになる。
は あたりに要る熱で、単位は です。物質と、どの状態変化かで値が決まる。
顕熱の式と並べると違いがはっきりします。 には温度差が入り、 には入らない。
状態変化の名前
固体、液体、気体のあいだの変化には、それぞれ名前が付いている。

赤い向きはどれも熱を吸います。氷が溶けるとき、水が蒸発するとき、外から熱を受けとる。
青い向きは熱を出します。水が凍るとき、水蒸気が水になるとき、まわりへ熱を放つ。
吸う熱と出す熱は同じ大きさです。 の水 を凍らせるには、氷 を溶かすのと同じ を奪えばよい。
分子の並びで見る
状態の違いは、分子がどれくらい自由に動けるかの違いです。
固体では分子が決まった位置で震えるだけです。融解はこの位置の縛りをほどく変化。
液体では位置が入れかわりますが、まだ密に集まっています。蒸発は分子どうしを遠く引き離す変化で、ほどく量がまるで違う。
融解熱
固体を同じ温度の液体に変える熱を融解熱という。水の融解熱は 、 なら 。
融点は物質で決まり、水なら 気圧で です。融解のあいだ温度はこの値から動かない。
例:氷を溶かす熱
の氷 を、 の水にするのに要る熱を求めます。
温度は 1 度も上がっていません。同じ を の水 に与えれば、 近くまで上がる。
氷を溶かす熱がどれほど大きいかが、この比較で分かる。
蒸発熱
液体を同じ温度の気体に変える熱を蒸発熱という。
水の蒸発熱は で、 での値です。
なら 。温度によって少し変わり、 ではもう少し大きく ほどになる。
蒸発熱が融解熱より大きい理由
同じ水でも、蒸発熱は融解熱の 6.8 倍ある。

真ん中が融解熱、右が蒸発熱です。左は の水を まで温める熱で、それより蒸発熱のほうが 5 倍以上大きい。
理由は分子の引き離し方にあります。融解は並びの縛りをほどくだけで、分子どうしはまだ近い。蒸発は分子を完全に引き離すので、つながりを全部切ることになります。
水は水素結合で強く結ばれているので、この差がとくに大きく出ます。
例:氷から水蒸気まで
の氷 を、 の水蒸気にするまでの熱を求めます。氷の比熱を 、水の比熱を とする。
区間ごとに分けて足す。
| 区間 | 式 | 熱 |
|---|---|---|
| 氷を温める | 100 × 2.1 × 20 | 4200 J |
| 氷を溶かす | 100 × 334 | 33400 J |
| 水を温める | 100 × 4.2 × 100 | 42000 J |
| 水を蒸発させる | 100 × 2257 | 225700 J |
合計は になります。
蒸発の区間だけで全体の 74% を占めている。やかんの湯が沸いてから空になるまで長くかかるのは、このためです。
氷は冷やす力が強い
同じ でも、氷は水よりずっとよく冷やします。溶けるときに融解熱を奪っていくからです。
の水を 使っても、まわりから奪えるのは温まるぶんの熱だけ。氷なら を先に奪います。
例:氷で水を冷やす
の水 に、 の氷 を入れます。氷がすべて溶けたあとの温度を求める。
氷が受けとる熱は、溶ける熱と、できた水が温まる熱の合計です。
水が失う熱と等しく置く。
同じ でも の水を入れた場合は にしかなりません。氷の融解熱が冷却のほとんどを担っている。
飲みものを冷やすとき、 の氷が の水よりよく冷えるのはなぜですか。
- 氷のほうが温度が低いから
- 溶けるときに融解熱を奪うから
- 氷のほうが比熱が大きいから
- 氷のほうが密度が小さいから
蒸発すると冷える
液体の表面からは、速い分子が次々と飛び出しています。速いものが抜けていくので、残った分子の平均の速さは下がる。
平均の速さが下がることは、温度が下がることです。蒸発しているあいだ、残った液体は冷え続ける。
抜けていくのは赤い分子だけです。平均が下がるので、残った液体の温度が落ちていく。
汗をかくと涼しくなるのも、打ち水が効くのも、この蒸発熱の奪い方によります。注射の前にアルコールを塗ると冷たく感じるのも同じ。
例:汗が奪う熱
体の表面から汗 が蒸発します。体温付近の蒸発熱を とする。
同じ熱で、 の水を ほど沸騰直前まで温められます。汗をコップ半分かくだけで、それだけの熱が体から出ていく。
蒸発と沸騰は違う
蒸発は液面からだけ起こり、沸騰は液体の内部からも泡になって起こる。この 2 つは別の現象です。
蒸発は沸点より低い温度でも起こります。洗濯物が で乾くのは蒸発のほう。
沸騰が起こるのは、液体の中で泡が押しつぶされずに残れるようになったときです。中の蒸気圧が外の気圧に追いついた瞬間に、内部からも気体になれる。
沸点は気圧で変わる
外の気圧が低ければ、蒸気圧が追いつく温度も低くなります。高い山の上では水が より低い温度で沸く。

エベレストの山頂では気圧が ほどになり、水は で沸きます。沸いていても温度が低いので、米が芯まで炊けない。
圧力鍋は逆に中の気圧を上げます。 を超える湯で煮られるので、調理が速く進む。
昇華
固体が液体を飛ばして直接気体になる変化を昇華といいます。逆向きは凝華。
ドライアイスは で昇華し、防虫剤のナフタレンも常温で少しずつ気体になる。冬に雪が溶けずに減っていくのも昇華です。
昇華に要する熱は、融解熱と蒸発熱を足したものになります。固体から気体まで一気に行くので、途中の 2 段ぶんが要る。
よくある誤り
最後に、間違えやすいところを並べます。











どちらも 0 ∘C で温度は同じです。氷は溶けるあいだに 1 g あたり 334 J を奪うので、そのぶん余計に冷やせます。