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熱機関のサイクルとオットー・ディーゼルの熱効率

熱機関は、気体を膨張させて仕事をとり出したあと、元の状態へ戻して同じことをくり返す。この一巡りがサイクルです。

戻さなければ 1 回で終わってしまう。戻すには熱を捨てるほかなく、そこで効率に上限が生まれます。

以下では 1 周ぶんの収支の出し方を確かめ、分母に何を入れるかを押さえ、ガソリンエンジンとディーゼルエンジンの効率まで進みます。

1 周すると内部エネルギーは戻る

サイクルの要点は、出発点と到着点が同じ状態だという 1 点にあります。内部エネルギーは状態だけで決まるので、1 周すれば必ず元の値に戻る。

第一法則に入れると、正味の熱と正味の仕事が等しくなる。

途中でどれだけ複雑に動いても、1 周ぶんではこの 1 本しか残らない。計算の足がかりになります。

囲む面積が正味の仕事

- 図でサイクルを描くと、正味の仕事は閉じた経路が囲む面積になる。

時計まわりなら仕事は正で、外へエネルギーを出します。熱機関の動き方。

反時計まわりなら負になり、外から仕事を入れて熱を運ぶ側にまわる。冷蔵庫やエアコンがこちらです。

分母に入れるのは吸収した熱だけ

熱効率の式で間違えやすいところが分母です。分母は装置が受けとった熱で、やりとりした熱の合計ではありません。

サイクルの途中には熱を吸う辺と捨てる辺が混ざっています。吸う辺の だけを足したものが になる。

捨てた熱を分母に足してしまうと、効率が実際より小さく出ます。ここをとり違える答案がとても多い。

例:長方形サイクルの収支を出す

単原子分子の理想気体を、次の 4 点で 1 周させる。

は で 、 は で 。

は で 、 は で 。

単原子分子なので、内部エネルギーは で出せる。 が に等しいからです。

辺ごとに と を出し、 で埋めていく。

の合計が になるところが検算です。ここが合わなければどこかで計算を誤っている。

正味の仕事は で、囲む面積とも合います。縦が 、横が 。

例:効率を求める

さきほどのサイクルの熱効率を求めます。まず吸収した熱を選び出す。

が正なのは の と の です。

熱効率は になります。捨てた を分母に足して とすると になり、誤りです。

オットーサイクル

ガソリンエンジンを理想化したものがオットーサイクルです。断熱圧縮、定積加熱、断熱膨張、定積放熱の 4 つからなる。

熱を受けとるのも捨てるのも体積が止まった状態で、仕事を出し入れするのは断熱の 2 辺です。役割がきれいに分かれている。

左がオットー、右がディーゼルです。灰色の断熱が 2 辺、赤が加熱、青が放熱。

違いは赤い辺だけにあります。オットーは縦にまっすぐ、ディーゼルは横にまっすぐ進む。

4 行程を追う

オットーサイクルの 1 周は、ピストンの往復 2 回にあたる。

体積が動くのは灰色の 2 行程だけです。点火と放熱のあいだ、ピストンは止まっている。

いちばん縮んだところで点火するのは、そこで温度と圧力を最大にしたいからです。そのあとの膨張で仕事をとり出す。

オットーサイクルの効率

理想化したオットーサイクルの熱効率は、圧縮比だけで書ける。圧縮比 は、いちばん広いときの体積をいちばん狭いときの体積で割った値です。

温度も圧力も熱量も入っていません。断熱の 2 辺で温度比が に決まるので、それだけで効率が定まる。

例:圧縮比 10 の効率

ふつうの自動車の圧縮比はおよそ 10 です。空気として をとる。

理想では が出る計算です。実際のガソリンエンジンは ほどで、この半分にも届きません。

摩擦、熱の逃げ、燃焼の不完全さが差になっている。理想サイクルは上限を示す目安です。

圧縮比を上げると効率が上がる

を大きくすれば分母が大きくなり、効率は上がります。ただし伸びは頭打ちになる。

圧縮比 で 、 まで上げても です。 増やして 上がるだけ。

それでも上げたいのですが、ガソリンエンジンには限界があります。圧縮しすぎると点火の前に自然に燃えてしまう。この現象をノッキングといい、効率も出力も落ちます。

ディーゼルサイクル

ディーゼルエンジンは点火プラグを持ちません。空気だけを強く圧縮して高温にし、そこへ燃料を吹きこんで自己着火させる。

燃料を送りこみながら燃えるので、加熱の辺は定圧になる。ここがオットーとの違いです。

自己着火が目的なので、圧縮しすぎて困ることがありません。だから圧縮比を から ほどまで上げられる。

ディーゼルの効率の式には、燃料を送り続ける長さを表す量が加わります。同じ圧縮比ならオットーより少し下がりますが、圧縮比を高くできるぶん実際には上まわる。

実際のディーゼルエンジンはガソリンエンジンより 3 割ほど効率がよいとされている。

オットーサイクルの熱効率について、正しいものはどれですか。

  • 加える熱量が多いほど高くなる
  • 圧縮比と比熱比だけで決まる
  • 最高温度が高いほど必ず高くなる
  • 気体の種類によらない
__RESULT__

に熱量も温度も入りません。 は気体の種類で変わるので、種類によらないとも言えません。

カルノー効率との差

同じ温度範囲で比べると、オットーサイクルはカルノーサイクルに届きません。断熱でない辺で熱をやりとりしているからです。

圧縮前を 、燃焼後を とすると、カルノー効率は次のようになる。

オットーの はこれより低い。定積で熱を受けとる辺では、温度が下から上まで動きながら熱が入るためです。

カルノーが等温で熱をやりとりするのは、この損を避けるための形でした。実際に作れないのと引きかえに、上限を出している。

スターリングサイクル

等温変化 2 つと定積変化 2 つを組み合わせた形もある。等温膨張、定積放熱、等温圧縮、定積加熱の 4 つからなるスターリングサイクルです。

熱をやりとりする辺が等温なので、カルノーに近い形をしています。定積の 2 辺で出入りする熱を内部で受け渡せば、理想的にはカルノー効率に届く。

外から熱を与えるだけで動くので、燃料を選びません。ただし実際の機関では熱の受け渡しがうまくいかず、理想の半分ほどにとどまります。

よくある誤り

最後に、間違えやすいところを並べます。

効率の分母に捨てた熱を足す。分母は吸収した熱だけです。
1 周したあとに が残ると思う。元の状態に戻れば必ず です。
囲む面積を求めて満足する。それは正味の仕事で、効率にはまだ分母が要ります。
オットー効率に熱量を入れようとする。圧縮比と だけで決まります。
理想の効率が実機で出ると思う。ガソリンエンジンは理想の半分以下です。
圧縮比をいくらでも上げられると思う。ガソリンではノッキングが起こります。
ディーゼルが定積で加熱すると思う。定圧で加熱し、定積で放熱します。
反時計まわりでも熱機関だと思う。反時計まわりは仕事を受けとる側です。
体積の単位を のまま に掛ける。仕事を で出すなら です。

参考文献

Otto cycle - Wikipedia
Diesel cycle - Wikipedia
Thermal efficiency - Wikipedia
Stirling cycle - Wikipedia
Carnot heat engine - Wikipedia
Gleichraumprozess - Wikipedia(ドイツ語)
熱効率の分母は吸収した熱だけで、やりとりした熱の合計ではありません。サイクル 1 周の $Q$・$\Delta U$・$W$ を辺ごとに出す手順、ガソリンとディーゼルの違い、圧縮比と効率の関係を高校物理の範囲で解説します。