円形レール上を回る導体棒の起電力と仮想コンデンサー(2026 年 東京大学 物理 第 2 問・電磁誘導とエネルギーの移り)

2026 年 東京大学 前期 理科(物理) 第 2 問

図 2-1 のような,円形レール上を回転する導体棒を含む回路を考える。導体でできた半径 の円形レールが水平面上に設置され,中心点には導電性の回転軸が設置されている。それらの上には,質量をもつ導体棒が渡してある。導体棒は,その一端が回転軸で支持されており,もう一端を円形レールに接触させたまま水平面内で回転することができる。円形レールと回転軸は,それぞれ端子 P と端子 O で抵抗や切り替えスイッチ等に接続されている。抵抗の値は である。円形レール内には,磁束密度 の一様な磁場が,鉛直上向き(紙面の裏から表の向き)にかけられている。ただし,円形レールの太さや回転軸の大きさは無視できるものとする。導体棒は変形せず,円形レールと回転軸以外には接触しない。摩擦や空気抵抗,円形レールや導体棒の電気抵抗や接触抵抗,回路を流れる電流が作る磁場の影響は無視できるものとする。

図 2-1

I スイッチを開放したまま導体棒を一定の角速度 で回転させたところ,端子 O と端子 P の間に起電力 が生じた。この起電力は,係数 を用いて と表される。微小な時間内に導体棒が横切る領域を貫く磁束を考え,係数 を , を用いて答えよ。符号は問わない。

II 導体棒を静止した状態に戻したうえで,スイッチを端子 X に入れ,電圧 の直流電源に接続した。直流電源の内部抵抗は無視できるものとする。

(1) スイッチを端子 X に入れた直後に導体棒の回転軸周りにはたらく力のモーメントの大きさを ,,, を用いて表せ。符号は問わない。ただし,導体棒は太さが一定であり,一様な密度をもつものとする。

(2) その後,導体棒が回転軸の周りを回転し始めた。図 2-1 の(あ),(い)のどちら向きに回転したか答えよ。

(3) 十分時間が経過した後,導体棒は一定の角速度 で回転し続けた。この角速度 の大きさを ,,,, から必要なものを用いて表せ。符号は問わない。

III 設問 II(3) のように導体棒が角速度 で回転している状態で,スイッチを端子 Y に切り替え,容量 を持つコンデンサー 1 に接続する。導体棒の回転は徐々に緩やかになり,十分に時間が経過した後,一定の角速度 で回転し続けた。このとき,コンデンサー 1 に蓄えられているエネルギーを ,,,, から必要なものを用いて表せ。ただし,最初はコンデンサー 1 には電荷は蓄えられていなかったものとする。

IV 設問 II,III の操作の結果は,図 2-2 のように,端子 O-P 間の部分を仮想コンデンサー(コンデンサー 2)とみなすことでも理解できる。コンデンサー 2 は実際のコンデンサーと同様の性質をもつ。つまり,端子間の電圧 ,仮想的な容量 と仮想的な電荷 の間の関係式,および蓄えられる静電エネルギーは,実際のコンデンサーと同じ式で表される。

図 2-2

(1) 物体が回転しているとき,その物体は回転による運動エネルギーをもつ。導体棒が一定の角速度 で回転しているとき,その運動エネルギーは,定数 を用いて と表すことができる。これに等しいエネルギーがコンデンサー 2 に静電エネルギーとして蓄えられていると解釈するとき, と を,それぞれ ,, を用いて表せ。

(2) 図 2-2 において設問 II,III と同じ操作を考える。すなわち,スイッチを端子 X に入れて十分時間が経過した後,スイッチを端子 Y に切り替え,十分に時間を経過させる。この操作の結果,コンデンサー 1 に蓄えられているエネルギーを ,, を用いて表せ。ここで,スイッチを端子 Y に切り替えた後,コンデンサー 1 とコンデンサー 2 に蓄えられる電荷の和は変化しないと考えてよい。

(3) 設問 III と設問 IV(2) の結果から,設問 III の を ,,, を用いて表せ。

棒を鈍らせるのは電流の力だけ

半径 の円形レールの中心に回転軸があり、その上に導体棒が 1 本渡してあります。棒の内端は回転軸に、外端はレールに触れたまま、水平面内を回ります。

回路の口は 2 つです。レールにつながる端子 と、回転軸につながる端子 で、そのあいだに抵抗 と切り替えスイッチが入っています。

磁場は鉛直上向き、紙面の裏から表の向きで、大きさは です。棒がどの角度にいても同じ磁場の中にあります。

摩擦も空気抵抗もありません。棒の回転を鈍らせるものは、棒を流れる電流が磁場から受ける力しかない、というのがこの問題の骨です。

掃いた扇形が磁束の変化

スイッチを開いたまま、棒を角速度 で回します。微小な時間 のあいだに棒が横切るのは、中心角 の扇形です。

扇形の面積は です。ここを貫く磁束 が、そのあいだの磁束の変化になります。

起電力はこれを で割った です。 が約分で消えるので、微小時間の取り方によりません。

と見比べて が I の答えです。

棒の各点は軸から のところで の速さを持ちます。外へ行くほど速いので、半径の 2 乗が出てきます。

電流に効く腕は

棒を止めてスイッチを に入れます。入れた直後は棒が動いていないので起電力がなく、電流は です。

軸から のところの長さ の部分は、 の力を受けます。磁場が一様で電流もどこでも同じなので、力は棒に沿って一様に散らばります。

回転軸のまわりのモーメントは、その力に腕 を掛けたものです。外へ行くほど、同じ力でもよく効きます。

足し合わせると です。 を入れて が II(1) の答えです。

力の合計は です。腕が から まで一様に散らばっているので、その平均 を掛けた値になっている、と見ることもできます。

回る向きは(あ)

電源は上側の極板が長く、そちらが正です。スイッチを に入れると、電流は抵抗を通って端子 へ流れ、円形レールから棒の外端に入ります。

棒の中では外端から中心へ、つまり半径の内向きに流れます。そこから回転軸を下りて端子 へ戻ります。

左手の中指を電流の向き(内向き)に、人差し指を磁場の向き(紙面の表向き)に合わせると、親指は反時計回りの側を指します。

図の(あ)が反時計回りなので、答えは(あ)です。

棒がどの角度にいても、電流と磁場の関係は同じです。だから力の向きはいつも同じ回り方を向き、棒は回り続けます。

電流が になるまで速くなる

棒が回り始めると の起電力が生まれます。向きは電源と逆で、電源の電圧を打ち消す側です。

回路を流れる電流は になります。速くなるほど電流が減り、電流が減ればモーメントも減ります。

摩擦がないので、電流が になるまで加速は止まりません。落ち着くのは のときです。

が II(3) の答えです。 を入れれば になります。

定常では電流が流れないので、抵抗での発熱もありません。棒はただ回り続けます。

コンデンサーの電圧が起電力に追いつく

スイッチを に切り替えます。棒の起電力がコンデンサー 1 を充電し、流れた電流が棒に力を与えて回転を鈍らせます。

落ち着くのは、やはり電流が になったときです。そこではコンデンサーの電圧が棒の起電力とちょうどつり合っています。

そのときの角速度が なので、コンデンサーの電圧は です。

蓄えられているエネルギーは で、これが III の答えです。

棒が失った回転の運動エネルギーは、一部がここに移り、残りは抵抗で熱になっています。

回る棒をコンデンサーとみなす

端子 と のあいだにあるのは、回っている棒です。外から見ると、電圧 を持ち、エネルギーを溜めたり吐いたりする箱に見えます。

そこでこの箱を、容量 のコンデンサーだと思うことにします。端子間の電圧は です。

溜まっているのは回転の運動エネルギー です。静電エネルギー とこれが等しいので、 が成り立ちます。

が両辺から消えて です。電荷は で、これが IV(1) の答えです。

によらず 1 つの で書けるのは、運動エネルギーが に、静電エネルギーが電圧の 2 乗に比例するからです。2 つの 2 乗が噛み合っています。

電荷を分け合う

図 2-2 で同じ操作をします。スイッチを に入れて十分待つと、コンデンサー 2 の電圧は電源と同じ になり、電荷は です。コンデンサー 1 は空のままです。

スイッチを に切り替えると、2 つのコンデンサーが抵抗をはさんで向かい合います。外から電荷は入ってこないので、合計は のままです。

電流が止まったところでは 2 つの電圧が等しくなります。その共通の電圧は です。

コンデンサー 1 のエネルギーは で、これが IV(2) の答えです。

はじめにコンデンサー 2 が持っていた のうち、ここへ移らなかった分は抵抗で熱になっています。

2 通りの答えを突き合わせる

III で求めたコンデンサー 1 のエネルギーは 、IV(2) で求めたのは です。同じ操作の同じコンデンサーなので、この 2 つは等しくなります。

両辺から を落とすと です。

平方根を取って が IV(3) の答えです。

意味を見ると、 は最後の共通電圧 そのものです。棒の起電力がその電圧に落ち着く、という前の場面の話と同じことを言っています。

を に近づけると は に戻ります。小さいコンデンサーを付けても、棒はほとんど減速しません。