望遠レンズの焦点距離と回折によるボケの大きさ(2026 年 東京大学 物理 第 3 問・レンズの式と光路差)

2026 年 東京大学 前期 理科(物理) 第 3 問

レンズによって物体の実像をスクリーン上に投影することを考える。ただし,レンズの厚みは無視できるものとする。

I ここでは光が進む様子を光線としてとらえよう。図 3-1 のように,焦点距離が の凸レンズ を用いて, に比べはるかに大きい距離 にある高さ の物体 の像を,スクリーン に投影することを考える。

図 3-1

(1) スクリーンに明瞭な像を投影するためには,レンズ とスクリーン との距離をレンズの焦点距離 と等しくすればよい。このことを,物体と実像とレンズの位置関係を表すレンズの式を用いて,簡潔に説明せよ。

(2) この結像について述べた下の文章の空欄(ア),(イ)に入る式と語の組み合わせとして最も適当なものを,下の表の (a) 〜 (f) のうちから一つ選べ。

十分遠方の物体 から発せられた光のうち,レンズ の中央を通る光は直進することに注意すると,スクリーン 上の像の高さ は (ア)となる。これより,スクリーン上に物体の像をより大きく投影するためには,焦点距離が,より(イ)レンズを用いればよいことがわかる。

実際のカメラの望遠レンズ(十分遠方の物体の像を大きく投影するレンズ)の構成について考えよう。図 3-2 は凸レンズ と凹レンズ を用いて,図の右側の十分遠方に置かれた物体の明瞭な像をスクリーン に投影する様子を示している。凸レンズ の焦点距離は であり,それぞれのレンズとスクリーンとの間の距離は図 3-2 に示すとおりである。

図 3-2

(3) 光軸に平行で,かつ光軸から距離 だけ離れて に入射する光線あに注目する。この光線は により屈折して の焦点 に向かうが,途中で により再び屈折して,スクリーン 上の位置 で光軸と交わる。このとき,レンズ の焦点距離を, を用いて表せ。また,この光線がスクリーンに達する際に光軸となす角 に対して, を , を用いて表せ。

(4) 図 3-2 で示したレンズ および による組み合わせレンズを,適切な位置に置いた単一の凸レンズに置き換えて,前問 I(3) で注目した光線あを光軸となす角度 で点 を通過させることを考える。このとき,この凸レンズの焦点距離を を用いて表せ。

(5) 実際に用いられる望遠レンズは,図 3-2 のようなレンズの構成となっていることが多い。単一の凸レンズを用いた場合と比較して,その利点を簡潔に述べよ。

II 設問 I では光の伝わり方を光線で示したが,実際には光は波であるために物体上の一点から出た単色光をレンズで投影しても,像がわずかにぼやける(ボケが生じる)。光の波長を としてこのボケの大きさを考えよう。図 3-3 のように,1 枚の凸レンズ によって十分に遠方にある物体の像をスクリーン に投影する場合を考える。レンズ の半径は であり,焦点距離は である。図のように十分遠方に置かれた物体の光軸上の一点から発せられた光は に平面波として入射するが, を通過した後は球面波となって焦点 に集束してゆく。 を通過した直後の波面 は,焦点 を中心とする半径 の球面と考えてよい。焦点 を原点,光軸を 軸,スクリーンに沿って 軸をとる。以下では のとき, の近似式を用いてよい。

図 3-3

(1) 図 3-3 に示されるように,波面 上のすべての点から焦点 までの距離は等しい。このため焦点 には,レンズを通過した光はすべて同じ位相で到達し,点 は明るくなる。一方,焦点 の近傍の位置 では到達する際の光の位相は異なってくる。このとき波面 上にあるレンズの端近傍の点 から までの距離を ,レンズ中央部の点 から までの距離を とする。ここで角度 は直線 と光軸のなす角である。このとき光路差 を, を用いずに ,, のみで表せ。ただし であり,, とする。

(2) スクリーン上に点 があるとする。スクリーン上の像のボケの大きさは,前問 II(1) で求めた光路差が光の半波長 となるときの の 座標の値で与えられるものとする。このボケの大きさを,, を用いて表せ。

(3) 前問 II(2) で,,, のとき,ボケの大きさを求めよ。さらに物体とレンズ間の距離が であるとき,このスクリーン上でのボケの大きさは,物体上でどれくらいの大きさに対応するか求めよ。

(4) スクリーンを焦点 から光軸に沿ってレンズ に近づけたときに,ほぼ明瞭な物体の像を結ぶことができるスクリーン位置の許容範囲を考えよう。この許容範囲は,点 を 軸上で動かしたとき,設問 II(1) で求めた光路差 が光の半波長 と等しくなるまでの範囲と考えるものとする。点 の座標を とするとき,この許容範囲を与える の値を,, を用いて表せ。

遠方の物体を 1 枚のレンズで写す

十分遠方に高さ の物体 があり、焦点距離 の凸レンズ でスクリーン に実像を写します。物体までの距離 は よりはるかに大きいとします。

物体上の 1 点から出た光は広がってレンズに入り、レンズを出たあと 1 点に集まります。その集まる場所にスクリーンを置けば、そこに像ができます。

レンズの厚みは無視します。光の曲がりは 1 枚の面で一度に起きるものとして扱います。

前半は光を光線として、後半は波として扱います。同じレンズが 2 通りに見えるところが、この問題の見どころです。

なら像は焦点の位置

レンズの式は です。 はレンズから実像までの距離です。

について解くと になります。

なので はほとんど です。よって となり、像はレンズから焦点距離だけ離れたところにできます。

スクリーンをそこに置けば明瞭な像が映る、というのが I(1) の説明です。

遠くのものほど像は焦点に寄っていきます。無限に遠ければ、ちょうど焦点です。

像の高さは

レンズの中央を通る光は曲がらずに直進します。この 1 本だけを追えば、像の高さが分かります。

物体の先端から中央へ引いた直線が、そのまま伸びてスクリーンと交わるところが像の先端です。

手前では高さ が距離 に対応し、向こう側では高さ が距離 に対応します。2 つの三角形が相似なので です。

となります。像を大きくするには を長くすればよいので、(ア)は 、(イ)は「長い」で、答えは (b) です。

望遠レンズの焦点距離が長いのは、この式のためです。ただし素直に作ると、鏡筒もその長さだけ要ります。

光線あを 2 枚で曲げる

凸レンズ の焦点距離は です。光軸に平行で高さ の光線あは、 で曲がって焦点 へ向かいます。

は から 、凹レンズ は から の位置です。あは に届いた時点で、 の手前 にいます。

高さは 進むあいだに から まで落ちるので、 進んだ のところでは です。

を出たあとは 先の で光軸と交わります。 が I(3) の後半の答えです。

から見ると、光は 先へ集まろうとして入り、 先へ集まって出ていきます。 から で、凹レンズなので焦点距離の大きさは です。

同じ働きの単レンズは

同じことを 1 枚の凸レンズにさせます。光軸に平行に高さ で入った光線は、必ずそのレンズの焦点を通ります。

その光線に を通らせたいので、レンズは から焦点距離だけ離して置くことになります。その焦点距離を とします。

高さ から 進んで光軸に届くので、 です。

と見比べて が I(4) の答えです。

つまり図 3-2 の 2 枚は、焦点距離 の凸レンズ 1 枚と同じ像を作ります。像の大きさは の が になったぶんだけ大きくなります。

鏡筒は で足りる

単レンズなら、レンズをスクリーンから 離さなければなりません。鏡筒の長さがそのまま 要ります。

図 3-2 の構成では、いちばん前の からスクリーンまでが です。同じ像を、半分以下の長さで作れます。

凸レンズで一度きつく集めてから、凹レンズでその曲がりをゆるめ直すのがからくりです。ゆるめたぶん、像を結ぶまでの距離が伸びます。

焦点距離は長いのに全長は短い、これが I(5) の利点です。実際の望遠レンズがこの構成を取るのはこのためです。

波面 から までは等距離

ここからは光を波として扱います。レンズ を出た直後の波面 は、焦点 を中心とする半径 の球面です。

球面なので、 上のどの点から までも距離は で等しくなります。だから にはすべての光が同じ位相で着き、強め合って明るくなります。

ところが から少しずれた点 では、距離が点ごとに違ってきます。位相がそろわないぶんだけ、明るさが落ちます。

どこまでずれると打ち消し合うか、それがボケの大きさです。比べるのは、レンズの端を通った光と中央を通った光の 2 本です。

レンズの半径は 、焦点距離は なので、端を見込む角 は で決まります。

光路差は

は 、 は 、 は です。 と は よりずっと小さいとします。

の 2 乗は です。 は 2 次の小さい量なので落とします。

根号を でほどくと です。

同じようにして です。

差を取ると となり、 が消えます。これが II(1) の答えです。

ボケは

スクリーン上では なので です。光路差の大きさは になります。

これが半波長 に届くと、端の光と中央の光が打ち消し合います。そこまでがボケの広がりです。

から、ボケの大きさは で、これが II(2) の答えです。

なので、辺の比が の直角三角形になり です。

入れると です。物体上では 倍にあたるので 、 で、これが II(3) の答えです。

スクリーンを動かせる幅

今度はスクリーンを光軸に沿って動かします。 に置いて だけを見ると です。

焦点 からレンズへ近づける向きが の正です。動かすほど光路差が増えていきます。

半波長に届くまでが許容範囲なので、 から で、これが II(4) の答えです。

横のボケが で決まるのに対し、奥行きの許容範囲は で決まります。 が小さいと は ほどしかないので、こちらのほうがずっと広くなります。

細いレンズほど像はぼけますが、そのぶんスクリーンの位置には寛容になります。絞りを絞ると奥行きの許される幅が深くなるのは、この式が言っていることです。