慣性モーメントの求め方と回転の運動方程式
回転運動を理解するには、慣性モーメントという量が欠かせない。並進運動における質量に相当するもので、「回転のしにくさ」を数値化したものだ。ここでは慣性モーメントの定義から具体的な求め方、そして回転の運動方程式までを整理する。
慣性モーメントとは
並進運動では、質量 が大きいほど加速しにくい。同じように回転運動でも、回転軸からの質量の分布によって回しやすさが変わる。この「回転における慣性」を定量化したのが慣性モーメント である。
質量 が大きいほど力 に対して加速しにくい。運動方程式は 。
慣性モーメント が大きいほどトルク に対して角加速度が小さくなる。運動方程式は 。
質点が回転軸から距離 の位置にあるとき、その質点の慣性モーメントは次のように定義される。
複数の質点からなる系では、各質点の寄与を足し合わせればよい。
ここで重要なのは、慣性モーメントが質量だけでなく回転軸からの距離の二乗に比例する点だ。同じ質量でも軸から遠い位置に分布していれば、慣性モーメントは大きくなる。フィギュアスケーターが腕を広げると回転が遅くなり、腕を縮めると速くなるのはこの原理による。
連続体の慣性モーメント
現実の物体は無数の微小質量の集まりと見なせる。このとき、和を積分に置き換えて計算する。
具体例として、質量 、長さ の一様な棒の中心を通る軸まわりの慣性モーメントを求めてみよう。線密度を とすると、軸からの距離 にある微小部分の質量は だから、
となる。
代表的な慣性モーメント
よく出てくる物体の慣性モーメントをまとめておく。
| 物体 | 軸の位置 | 慣性モーメント |
|---|---|---|
| 一様な棒(中心軸) | 中心を通る垂直軸 | |
| 一様な棒(端軸) | 端を通る垂直軸 |
| 物体 | 軸の位置 | 慣性モーメント |
|---|---|---|
| 円板(中心軸) | 中心を通る垂直軸 | |
| 円環(中心軸) | 中心を通る垂直軸 |
同じ棒でも、軸が中心か端かで値が大きく異なる。端を軸にした場合は質量が遠くに分布するため、慣性モーメントが大きくなるわけだ。
平行軸の定理
物体の重心を通る軸まわりの慣性モーメント がわかっていれば、そこから距離 だけ離れた平行な軸まわりの慣性モーメント を簡単に求められる。
これが平行軸の定理である。先ほどの棒の例で確認しよう。中心軸まわりでは だった。端は中心から の距離にあるから、
と、端軸まわりの値と一致する。積分を繰り返さなくても軸の移動に対応できるため、実用上きわめて便利な定理だ。
回転の運動方程式
並進運動における に対応する回転運動の基本法則が、次の回転の運動方程式である。
ここで は回転軸まわりのトルク(力のモーメント)、 は慣性モーメント、 は角加速度を表す。
トルクとは、回転軸からの距離 の位置に力 を加えたとき、 で定義される回転を生む力のモーメントのことである。
は力の方向と位置ベクトルのなす角。腕の長さ×力の垂直成分とも解釈できる。
この方程式は並進運動との対応を考えると覚えやすい。
| 並進運動 | 回転運動 | 対応関係 |
|---|---|---|
| 力 | トルク | 運動の原因 |
| 質量 | 慣性モーメント | 動きにくさ |
| 加速度 | 角加速度 | 運動状態の変化率 |
具体的な計算例
半径 、質量 の円板が中心軸まわりに自由に回転できるとする。円板の縁に接線方向の力 を加えたとき、角加速度を求めてみよう。
円板の慣性モーメントは であり、トルクは (力が接線方向なので )だから、
となる。同じ力でも半径が大きいほど角加速度は小さくなることがわかる。これは慣性モーメントが に比例して大きくなるためだ。
回転の運動方程式を使いこなすポイントは、まず対象の慣性モーメントを正しく求め、次にトルクを正確に計算することにある。この二つが揃えば、あとは に代入するだけで角加速度が得られ、回転運動の解析が可能になる。