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慣性モーメントが回転軸によって 4 倍変わる仕組み

質量 、長さ の一様な棒があります。中心を通る軸のまわりでは 、端を通る軸のまわりでは 。ちょうど 倍です。

同じ棒なのに値が変わりました。質量は物体につく数ですが、慣性モーメントは軸を決めて初めて決まる数です。

回しにくさを表す量なので、どこを中心に回すかで答えが変わる。

軸からの距離が二乗で効く

軸から距離 の位置にある質点 の慣性モーメントは です。物体は質点の集まりなので、足し上げます。

は軸からの垂直距離です。軸に沿った方向にどれだけ離れていても、値には入りません。

連続した物体では和が積分になります。

二乗で効くので、外側の質量が重く数えられる。質量を 倍にすれば 倍ですが、半径を 倍にすれば 倍になります。

例:棒を積分で出す

線密度を とします。中心から の位置にある微小部分の質量は

中心を通る軸なら、積分の範囲は から です。

端を通る軸なら、範囲が から に変わります。

長さの半分しか動かしていないのに、値は 倍。端の側にある質量が、二乗のぶんだけ重く効いてくるためです。

平行軸の定理

重心を通る軸まわりの値 が分かっていれば、そこから距離 だけ離れた平行な軸まわりの値がすぐ出ます。

棒で確かめます。、端までの距離は

積分で出した値と一致しました。軸を動かすたびに積分し直す必要がなくなります。

が足されるだけなので、重心を通る軸がいつも最小になる。同じ向きの軸のなかで、いちばん回しやすい位置が重心です。

平行軸の定理で足すのは で、もとの が何であっても同じ形です。物体の形はすべて に押しこめられている。

だから重心まわりの値さえ覚えておけば、平行な軸ならどこでも計算できる。

直交軸の定理

平らな板に限ると、もう つ関係が使えます。板の面内に 軸と 軸、面に垂直に 軸をとると、次が成り立つ。

板の各点で が成り立つことから、そのまま出ます。

円板で使ってみます。中心を通る垂直軸まわりは 。対称性から なので、直径を軸にした値が求まる。

コインを面に垂直な軸で回すときと、直径を軸にして倒すように回すときとで、回しにくさが 倍違います。

代表的な値

物体
一様な棒中心を通る垂直軸
一様な棒端を通る垂直軸
円板・円柱中心軸
物体
円環・薄い円筒中心軸
中実球直径
薄い球殻直径

どれも に係数がついた形です。係数が大きいほど、質量が軸から遠くに置かれている。

円環だけが係数 です。質量がすべて半径 にあるので、 になる。ほかの形はこれより小さくなります。

回転半径

となる長さ を回転半径といいます。全質量を軸から の距離に集めたのと同じ、という意味です。

棒を中心軸で回すなら 。長さの 割ほどの位置に、全部の質量が集まっていると思ってよい。

中実球なら 、円環なら 。形の違いを つの長さで比べられます。

回転の運動方程式

並進の に対応するのが、次の式です。

は軸まわりの力のモーメント、 は角加速度。 の位置に が、 の位置に が入るだけの置き換えです。

並進運動

。動かしにくさは質量 で、物体につく つの数

回転運動

。回しにくさは で、軸を決めるまで数が決まらない

例:円板の縁を接線方向に引く

半径 、質量 の円板が中心軸で自由に回るとします。縁に接線方向の力 を加えます。

うでの長さが なので 。慣性モーメントは です。

半径が大きいほど角加速度は小さくなります。うでが伸びて 倍になっても、 倍になるためです。

いっぽう縁の加速度は で、半径によりません。触っている点の動き出しやすさは、どんな大きさの円板でも同じになる。

例:地球の中身を慣性モーメントで測る

密度が一様な球なら 、係数は です。地球の実測値は

より小さいということは、質量が中心寄りに偏っているということ。地球には鉄とニッケルの核があり、半径の ほどを占めています。

天体中心への偏り
一様な球なし
ほとんどない
地球鉄の核がある
太陽極端に中心寄り

月の値が に近いのは、鉄の核が小さいためです。太陽の は、中心の密度が平均の 倍を超えることを表しています。

中まで掘らなくても、外から回転と重力を測るだけで内部の様子が分かる。慣性モーメントが「質量がどこに置かれているか」の量だからこそ使える方法です。

例:はずみ車にためる

回転の運動エネルギーは です。 が大きく が高いほど多くためられます。

質量 、半径 の円板を毎分 回転させます。

の物体を 持ち上げるだけのエネルギーです。 が二乗で効くので、回転を速くするほうが質量を増やすより効きます。

極限で確かめる

内半径 、外半径 の中空円筒は です。式を覚えたら、両端の場合で確かめます。

とすれば で、中実円柱の値。 とすれば で、薄い円筒の値になります。

どちらも知っている値と一致しました。係数の を落としていたり、二乗を書き忘れていたりすると、この確かめで食い違います。

コインを中心の垂直軸で回すときと、直径を軸にして倒すように回すときで、慣性モーメントの比はいくつですか。

__RESULT__

直交軸の定理から で、対称性より なので となり、比は です。

質量は物体につく数、慣性モーメントは物体と軸の組につく数。この違いを押さえておけば、値が変わるたびに迷わずに済みます。

長さ L の一様な棒は、中心を通る軸まわりで $\frac{1}{12}ML^2$、端を通る軸まわりで $\frac{1}{3}ML^2$。軸を長さの半分ずらしただけで 4 倍です。質量は物体につく数ですが、慣性モーメントは物体と軸の組につく数。だから軸を決めるまで値が決まりません。積分での出し方、$Md^2$ を足すだけで軸を移せる平行軸の定理、コインの回しにくさが向きで 2 倍違う直交軸の定理、そして地球の値 0.331 が鉄の核を言い当てるところまで。