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二体問題と換算質量:太陽の側もわずかに回っている

木星は太陽のまわりを回っている、と言います。正確には、太陽と木星が共通の重心のまわりを回っている。

その重心は太陽の中から少しはみ出しています。太陽の中心から約 万 、太陽半径の 倍。表面の外側です。

太陽自身も、この点のまわりを秒速 ほどで回っています。この動きが、系外惑星を見つける手がかりになりました。

2 体の運動方程式はからみ合っている

質量 と の 物体が万有引力で引き合っているとします。位置を 、 として、方程式は 本立ちます。

右辺に相手の位置が入っているので、片方だけでは解けません。 次元なら変数は つ。

ところが座標のとり方を変えるだけで、この連立がきれいにほどけます[1]。

重心と相対位置に分ける

新しい座標を つ用意します。重心の位置 と、相手から見た位置 です[2]。

もとの 本を足すと、内力どうしが打ち消し合って重心の式が出ます。

外力がなければ重心は等速直線運動をします。解く前から答えが出ている。実質的に残るのは相対運動だけです。

換算質量

本の式をそれぞれの質量で割って引き算すると、相対位置についての式が 本出ます[1]。

前に出てきた が換算質量です。

逆数どうしを足す形は、並列につないだ抵抗の合成と同じです。だから は と のどちらよりも小さくなる[1]。

のときは 。太陽と地球なら、 は地球の質量から 万分の ほど小さいだけです。

もとの二体問題

方程式が 2 本、変数が 6 つ。たがいの位置が右辺に入っていて別々には解けない

分けたあとの問題

重心は等速直線運動で片づく。残るのは換算質量 を持つ 1 質点の中心力の問題

体の問題が 体の問題に化けました。あとは中心力の下での運動を解けばよい。

重心から見た 2 つの軌道

重心を原点にとると、それぞれの位置が相対位置だけで書けます。

両方とも同じ形の軌道を描き、大きさの比が質量の逆比になります。重いほうが小さく回る。

向きは常に反対です。片方が重心の左にいるとき、もう片方は必ず右にいる。

例:太陽と木星の共通重心

太陽の質量は木星の 倍、平均距離は 天文単位、つまり です。

重心は太陽の中心から次の距離にあります。

太陽の半径が なので、重心は表面より 万 ほど外側。太陽は自分の外側にある点のまわりを回っています。

木星の公転周期 年でこの円を一周すると、太陽の速さは秒速 ほど。人が全力で走るくらいの速さです[3]。

例:地球と月

地球の質量は月の 倍、距離は です。

地球の半径 の内側に収まりました。地球は自分の中にある点のまわりを、ひと月かけて小さく回っています。

太陽と地球なら重心は太陽の中心から 。太陽半径の 分の ほどで、ほとんど中心と変わりません。

重心が中に入る組み合わせ

地球と月、太陽と地球。軽いほうがほぼ一方的に回っているように見える

重心が外に出る組み合わせ

太陽と木星、質量の近い連星。どちらの軌道も望遠鏡で見える大きさになる

ケプラーの第三法則の正しい形

高校で習う は、中心の天体が圧倒的に重いという近似の上に立っています。 体で正しく解くと、次の形が出ます[1]。

は相対軌道の長半径です。分母に が入っているので、惑星の質量が無視できない場合はずれが出る。

木星で見積もります。 なので、周期は近似の値より だけ短くなる。

年に対して 日ほどの差です。望遠鏡の時代には十分見える大きさでした。

連星ではこの式が逆向きに使われます。周期と軌道の大きさを測れば、 が出る。恒星の質量を知る数少ない直接の方法です。

連星の観測から出るのは、まず質量の和です。個々の質量は、 つの軌道の大きさの比を測って初めて分かれる。

比は質量の逆比なので、和と比がそろえば と が決まる。片方しか見えない場合は和までで止まる。

例:ふらつきから系外惑星を見つける

星が重心のまわりを回っていると、こちらへ近づいたり遠ざかったりします。スペクトル線がわずかに青や赤へずれる[3]。

太陽を外から見れば、木星のせいで秒速 の往復が 年周期で見えるはず。地球のせいで生じる往復は秒速 ほどで、こちらは今も捕まえにくい大きさです。

年、マイヨールとケローがペガスス座 番星でこの往復をとらえました[1]。周期は 日、軌道半径は 天文単位ほど。木星ほどの質量の惑星が、水星よりはるかに内側を回っていました。

惑星が星を引く

星も共通重心のまわりを回る

視線方向の速度が周期的に変わる

スペクトル線のずれとして見える

この方法で分かるのは という組み合わせです。軌道を真横から見ていない場合、傾きのぶんだけ質量を小さく見積もることになります。

例:水素原子でも同じ換算が要る

換算質量は重力に限りません。クーロン力で引き合う電子と陽子でも、同じ形の分離が使えます。

電子の質量を 、陽子の質量を として、。陽子は電子の 倍なので です。

リュードベリ定数にはこの が入るので、原子核の質量が違えばスペクトル線の位置も変わります[4]。

重水素は原子核が陽子の約 倍。 が になり、波長が ほど短くなります。 線の なら のずれ。

年に重水素が見つかったのは、まさにこのずれを分光器で捕まえたからです。 体を 体に読み替える計算が、新しい同位体の発見につながりました。

質量 が の 倍のとき、共通重心のまわりを回る つの軌道の半径の比はいくつですか。

__RESULT__

重心の定義から なので、半径の比は質量の逆比になります。重い のほうが の小さな円を描く。

体を換算質量の 体に読み替える。この置き換えは万有引力でもクーロン力でも、二原子分子の振動でも同じように効きます。相互作用が相対位置だけで決まるなら、いつでも使える手です。

参考

Problème à deux corps. Femto-Physique, cours de mécanique classique.
Bernhard Schnizer. *Systeme von Massenpunkten*. Analytische Mechanik, Institut für Theoretische Physik, TU Graz.
21.4 Planets beyond the Solar System: Search and Discovery. Astronomy 2e, OpenStax.
Jeremy Tatum. *7.19: Isotope effects*/07:_Atomic_Spectroscopy/7.19:_Isotope_effects). Stellar Atmospheres, University of Victoria / Physics LibreTexts.
太陽と木星の共通重心は、太陽の中心から 74 万 km。太陽半径の 1.07 倍なので、表面の外にあります。太陽はその点を秒速 12.5 m で回っている。座標を重心と相対位置にとり直すと、連立していた 2 本の式が「等速直線運動をする重心」と「換算質量 $\mu$ を持つ 1 質点の中心力の問題」に分かれます。ケプラーの第三法則に $m_1+m_2$ が入る形、視線速度で系外惑星が見つかるしくみ、同じ換算が水素と重水素のスペクトルを分けるところまで。