斜面を転がる剛体|球と円環で速さが分かれるところ
中身の詰まった球と、同じ質量で同じ半径の円環を、 の坂の同じ高さから同時に離します。 下ったところで、球のほうが 秒ほど先に着きます[2]。
質量も半径も答えに残りません。効くのは、質量が軸からどれだけ離れて置かれているかという比だけです。
分母の は形で決まる数で、中実球なら 、円環なら 。この差がそのまま着順になります。
転がるとき、接触点は止まっている
半径 の物体が角速度 で回りながら速さ で進むとします。滑らずに転がる条件は次の 本です[1]。
回転するあいだに円周 だけ進む、という関係を速度で書いたもの。両辺を時間で微分すれば になります。
この条件が成り立っているとき、床に触れている点の速度は です。進む速度 と、回転による後ろ向きの速度 がちょうど打ち消し合う。
いっぽう頂点では つが同じ向きにそろうので、速度は になります[1]。走っている車のタイヤの上側だけがぼやけて見えるのはそのためです。
接触点が止まっているということは、その点を軸にして物体全体が回っていると見てもよい、ということです。瞬間回転中心と呼びます。
この見方をとると、頂点は軸から 離れているので速度が になる、と一目で出せます。
斜面を下る加速度
傾き の斜面を、質量 、半径 、重心まわりの慣性モーメント の物体が滑らずに下るとします。
斜面方向の運動方程式と、重心まわりの回転の運動方程式を並べます。 は静止摩擦力です[1]。
転がり条件 を使って を消すと 。これを 本目に入れて について解きます。
も も消えました。残った は形だけで決まる数で、大きいほど加速度が小さくなる。
摩擦がなければ です。転がる物体はそれより必ず遅い。位置エネルギーの一部が回転にまわるためです。
例:形で着順が決まる
を形ごとに並べ、 のときの加速度を出します[4]。
| 物体 | ||
|---|---|---|
| 中実球 | ||
| 中実円柱 | ||
| 薄い球殻 | ||
| 円環・薄い円筒 |
いちばん速いのは中実球、いちばん遅いのは円環。円環は質量がすべて半径 の位置にあるので、 となって がちょうど になります。
高さ から転がり下りたときの速さも、同じ数で決まります。
なら、中実球が 、円環が 。滑って回転しない場合の には、どちらも届きません。
質量が中心近くに集まっている。回すのに要るエネルギーが少なく、そのぶん速く進む
質量がすべて外周にある。エネルギーの半分が回転にまわり、進む速さが落ちる
エネルギーの分け前
転がる物体の運動エネルギーは、並進と回転の和です。
を代入すると、回転の項が になります。並進と回転の比が、そのまま になる。
中実球なら 、つまり です。全体の が回転にまわる。円環では で、ちょうど半分ずつ。
坂の下で速いか遅いかは、この分け前で決まります。同じ位置エネルギーを、進むほうへ多く配れる形が勝つ。
滑らずにいられる角度
摩擦力 に上の を入れると、必要な摩擦の大きさが出ます。これが最大静止摩擦力 を超えると滑り出します[1]。
中実球なら 、中実円柱なら 、円環なら です。
の坂で中実球を転がすには あればよい。円環では が要ります。慣性モーメントが大きい物体ほど、滑らせずに回すのに強い摩擦が要る。
坂を急にしていくと、どの物体もいつかは滑り始めます。 が右辺で伸び続けるためです。
転がっているあいだ、静止摩擦力は仕事をしません。力がはたらいている点の速度が だからです。
だから滑らない転がりでは力学的エネルギーが保存する。摩擦があるのに熱が出ない、という珍しい状況になる。
例:ボウリングの球が転がりに変わるまで
投げ出された直後の球は、ほとんど回っていません。 で滑っている状態から始まります。
レーンとのあいだには動摩擦がはたらき、並進を減速させながら回転を加速します。やがて が成り立ち、そこから先は滑らない転がりに移る。
初速で滑りながら投げ出される
動摩擦が並進を減速し、同時に回転を加速する
が成り立つ
以後は静止摩擦だけの転がりになる
移り変わる瞬間の速さは、初速だけで決まります。中実球では次の値です。
動摩擦係数を とすると、切り替わるまでの時間は 秒、距離は 。レーンの長さが ほどなので、手前の 割ほどを滑っている計算になります。
このあいだに運動エネルギーの が熱になります。移り終えたあとは静止摩擦だけになるので、そこから先の損失は別の話になる。
転がり摩擦はまた別の話
理想的な転がりではエネルギーが減りません。ところが現実の車輪は放っておけば止まります。
止まる原因は接触面の変形です[3]。タイヤは踏まれてつぶれ、離れるときに完全には形が戻らない。押し込むときに与えた仕事の一部が熱になって残ります。
この損失を力に換算したものが転がり抵抗で、荷重に比例する係数で表します。ゴムタイヤと舗装で 前後、鉄の車輪とレールでは ほど[3]。
鉄道が効率よく走れるのは、鋼どうしの接触がほとんど変形しないためです。変形する体積が小さいほど、戻らないぶんも小さくなる。
2 通りで確かめる
斜面を下りた速さは、運動方程式からもエネルギー保存からも出せます。両方で同じ値になるかを見ると、 の扱いを間違えていないか確かめられる。
中実球を 、 の斜面で下ろします。斜面に沿った距離は 。
加速度は なので、。
エネルギー保存からは 。一致しました。
分母の を と書き落としていれば、こちらは になって食い違います。片方だけを計算していると気づけないずれです。
同じ質量、同じ半径の中実円柱と円環を、同じ高さから滑らずに転がします。坂の下での速さの比はいくつですか。
坂を下る速さを決めているのは重さではなく、質量の置き場所。転がり運動では、この一点がくり返し効いてきます。
















v=2gh/(1+I/MR2) なので、比は 1/1.5 と 1/2 の比、つまり 2/1.5=4/3 対 1 になります。質量も半径も比には残りません。