荷物を持って歩いても仕事はゼロ:物理でいう仕事と仕事率
物体に力を加えて動かしたとき、その力がした仕事を次の式で定めます。
は力の大きさ、 は動いた距離、 は力と動く向きのなす角です。単位はジュール J を使う。
の力で、その向きに 動かせば 。 という関係になる。
効くのは動く向きの成分だけ
力が動く向きとずれているとき、仕事に効くのは動く向きの成分です。 がその成分になる。
垂直な成分は、どれだけ大きくても仕事をしません。物体をその向きに動かしていないからです。
荷物を斜め上に引いて水平に動かす場面を考えると、上向きの成分は荷物を持ち上げていない。水平の成分だけが距離を稼ぐ。

例:斜めに引いて動かす
の力で、水平から 度の向きに荷物を引き、水平に 動かします。
同じ を水平に加えれば になる。角度がついたぶん、半分に落ちる。
角度を に近づけるほど仕事は増える。ロープで引くとき、なるべく水平に引くほうが効率がよい。
仕事が 0 になる場合
つの場合があります。力が 、距離が 、そして力と動く向きが直角のとき。
なので、直角では成分がまったく残りません。
重い荷物を持ったまま水平に歩いても、支える力は仕事をしていない。体は疲れるものの、物理でいう仕事は です。
壁を全力で押しても、壁が動かなければ仕事は 。力を出すことと仕事をすることは別だという例になる。

床が物体を押す力は床に垂直で、動く向きとは直角。水平に滑る間、仕事は
円運動をさせている糸の張力は、つねに速度と直角を向く。だから速さを変えられない
水平に動く間は仕事が 。上下に動いたぶんだけ仕事をする
負の仕事
力が動く向きと逆を向いていると、 が負になります。仕事も負の値をとる。
負の仕事とは、その力が物体からエネルギーを奪っているという意味です。ブレーキも摩擦も空気の抵抗も、負の仕事をしている。
が 度を超えると負に転じる。真後ろ向きの 度で、大きさが最大になる。
例:ブレーキがする仕事
の摩擦力が働きながら 進んで止まりました。
が運動エネルギーから奪われたことになる。その分は熱に変わっている。
符号を落として とすると、エネルギーが増えた計算になってしまう。向きの扱いがそのまま符号に出る。
仕事の合計を出す
複数の力が働くときは、それぞれの仕事を足します。正の仕事と負の仕事が混ざれば、打ち消し合う。
合計の仕事は、合力がした仕事と一致する。先に合力を出してから計算しても、力ごとに計算して足しても同じ値になる。
力の成分が動く向きと同じ。物体にエネルギーを与え、速さが増す
力の成分が動く向きと逆。物体からエネルギーを奪い、速さが減る
仕事とエネルギーの関係
合計の仕事は、運動エネルギーの変化に等しくなります。
経路の形も、かかった時間も、この式には出てきません。始めと終わりの速さだけで決まる。
力を積分せずに速さが出せる点が便利です。運動方程式を解くより早く答えに届く場面が多い。
例:仕事から速さを出す
静止していた の物体に、合計 の仕事をしました。
同じ仕事を の物体にすると にしかなりません。速さは質量の平方根に反比例する。
重力がする仕事は高さで決まる
重力がする仕事は、通った道のりによらず高さの差だけで決まります。
まっすぐ落ちても、斜面を回り道しても、同じ高さぶん下がれば同じ仕事です。水平に動いた区間では重力が仕事をしないため、勘定に入らない。
こうした性質を持つ力を保存力といいます。摩擦は逆で、道のりが長いほど奪う量が増える。
例:持ち上げる仕事
の荷物を 持ち上げます。一定の速さで持ち上げるなら、加える力は重力とつり合う です。
このとき重力は の仕事をしている。合計は で、運動エネルギーは変わりません。
加えた仕事は位置エネルギーとして蓄えられた形になる。手を離せば、落ちながら運動エネルギーへ戻っていく。
仕事率
同じ仕事でも、短い時間で終えるほど能力が高いといえます。単位時間あたりの仕事を仕事率という。
単位はワット W です。 秒あたり の仕事をする能力が にあたる。
仕事の総量が同じなら、仕事率が高いほど早く終わる。エンジンやモーターの性能をワットで表す理由もそこにある。
例:仕事率を出す
さきほどの を で持ち上げた場合を計算する。
で持ち上げれば になる。仕事は同じでも、仕事率は 倍。
仕事率を力と速度で書く
一定の速さで動かしている間は、別の形が使えます。 と を組み合わせる。
力と速度の積が仕事率になる。同じ出力なら、速く動かすほど出せる力は小さくなる。
車が高速で加速しにくくなる事情もここにある。出力が一定なら、速さが増すほど余る力が減っていきます。

例:一定の速さで引く
の抵抗を受けながら、 で一定の速さを保って引きます。
速さを に上げると が要る。抵抗が同じでも、必要な出力は速さに比例して増える。
力を加える
その向きに距離を稼ぐ
仕事になる
距離を稼がなければ、どれだけ力を出しても仕事は です。この 段を意識すると、仕事が の場面を見落とさなくなる。
質量 の荷物を持ったまま、水平な床を 歩きました。荷物を支える力がした仕事はいくらですか。
















支える力は上向き、動いた向きは水平で、なす角は 90 度です。cos90∘=0 なので仕事は 0 になります。体が疲れることと、物理でいう仕事とは別の話です。