角運動量保存則とフィギュアスケートで回転が速くなる理由
腕を広げて回っているスケーターが腕をたたむと、回転が速くなります。氷は押していないし、誰も背中を押していない。
外から回転の力が加わらないかぎり、慣性モーメント と角速度 の積は変わりません[1]。
が になれば は 倍。腕をたたむという内側の動作が、回転の速さを書き替えます。
以下では角運動量の定義から始め、速くなったぶんのエネルギーがどこから出てくるのか、同じ法則が惑星や中性子星でどう効くのかまで見ます。
角運動量とは何か
回転軸のまわりを速さ で回る質量 の質点があるとします。軸からの距離を として、角運動量は次の量です。
正確には、速度のうち に垂直な成分だけが効きます。ベクトルで書けば となり、大きさは です[2]。
軸に向かってまっすぐ飛び込む質点は、 なので角運動量を持ちません。回り込む成分だけが回転の勢いになる。
物体が広がりを持つときは、各部分の寄与を足します。全体が同じ角速度 で回っていれば、次の形にまとまる。
括弧の中が慣性モーメント です[2]。距離が二乗で効くので、外側の質量ほど重く数えられます。
| 角運動量。単位は kg·m²/s | |
| 慣性モーメント。単位は kg·m² | |
| 角速度。単位は rad/s |
変えられるのは外からのモーメントだけ
角運動量の時間変化は、外から加わる力のモーメント に等しくなります[2]。
なら は動きません。これが角運動量保存則です。運動量に対する運動方程式と、そっくり同じ構造をしている。
大事なのは、内側でどれだけ力をやりとりしても が変わらないこと。腕を引き寄せる筋肉の力は、体と腕のあいだで向きが逆の対になっていて、モーメントが打ち消し合います。
スケーターの場合、氷からの摩擦がわずかな外部モーメントになります。数秒のスピンなら無視できる大きさで、実際にスピンは徐々にしか遅くなりません。
例:慣性モーメントが 4 分の 1 になる
腕を広げた姿勢で 、毎秒 回転していたとします。 です。
腕と脚を軸に引き寄せて になったとしましょう。
毎秒 回転。腕をたたむのにかかる時間は 秒足らずなので、見ている側には一気に加速したように映ります。
質量が軸から遠い。慣性モーメントが大きく、同じ角運動量なら角速度は小さい
質量が軸に寄る。慣性モーメントが小さく、同じ角運動量なら角速度は大きい
速くなったぶんのエネルギーはどこから来たのか
ここが引っかかりやすいところです。回転の運動エネルギーを計算してみます。
腕を広げた状態では 。たたんだ状態では です。
倍に増えました。角運動量は保存しているのに、エネルギーは保存していない。
を使って書き直すと、増え方の理由が見えます。
が一定なら、 は に反比例する。 が になれば は 倍です。
増えたぶんの は、スケーターが腕を引き寄せる仕事から出ています[1]。回っている腕を内側へ動かすには、遠心力に逆らって引く必要がある。
角運動量が保存するからといって、力学的エネルギーまで保存するわけではありません。回転する系を縮めるには仕事が要ります。
逆に腕を広げると、遠心力が腕を押し戻す向きに仕事をする。エネルギーは体へ戻り、角速度ももとに戻る。
腕を広げれば はもとの に戻ります。氷の摩擦を無視するかぎり、この往復に損はない。
例:回転いすとダンベル
回転いすに座り、両手に のダンベルを持って回ります。人といすの慣性モーメントを としましょう。
腕を伸ばして軸から の位置にダンベルがあるとき、ダンベルの寄与は 。合計 です。
胸に引き寄せて にすると、寄与は に落ちます。合計 。
倍にしかなりません。人といす自身の慣性モーメントが動かないので、そのぶん効果が薄まる。スケーターほど劇的にならない理由がここにあります。
大学の講義でも、回転台と自転車の車輪を組み合わせた実演が定番になっています[3]。回っている車輪を横に倒すと、台のほうが回り出す。
面積速度が一定になるのも同じ話
中心を向く力だけを受けて動く物体は、その中心のまわりの角運動量が保存します。力の作用線が中心を通るので、モーメントが になるためです[2]。
極座標で書くと なので、次の量が一定になります。
左辺は、動径が単位時間に掃く面積の 倍です。つまり面積速度が一定になる。
中心力を受ける
中心まわりの力のモーメントが 0 になる
角運動量が保存する
面積速度が一定になる
ケプラーの第二法則は、この一行から出てきます。万有引力に固有の性質ではなく、中心力なら何でも成り立つ[2]。近日点で速く、遠日点で遅くなるのは、 が小さいときに が大きくならないと積が保てないからです。
例:中性子星はなぜ速く回るのか
星が燃え尽きて中心部が一気につぶれると、半径が数万分の になります。角運動量が保存するなら、 から 。
太陽の自転周期は約 日、半径は約 です。これが半径 までつぶれたとして計算します。
周期は 日 秒を で割って、およそ ミリ秒。
実際のかに星雲のパルサーは毎秒 回転、周期にして ミリ秒です[4]。見積もりは 倍ほど速すぎました。
ずれるのは、つぶれるときに外層が吹き飛ばされ、質量と角運動量をいっしょに持ち去るためです。それでも、けた違いの速さになる理由としては で足ります。

保存するのは軸まわりの成分
外部モーメントが完全に になる場面は多くありません。それでも使える場合があります。
重力を受けて落ちている飛び込み選手を考えます。重力は重心にはたらくので、重心まわりのモーメントは 。だから重心まわりの角運動量は保存します。
体を丸めれば回転が速くなり、伸ばせば遅くなる。着水の瞬間に姿勢を止められるのは、この調整が効くためです。
もう一つ、ある軸まわりの成分だけが保存する場合もあります。回転台に立った人が持つ車輪を傾けると、鉛直方向の成分だけが台へ移る[3]。台の軸受けが水平方向のモーメントを受け止めるので、鉛直成分だけが自由に残ります。
まちがえやすい点
回転の勢いを と の積という一つの量にまとめておくと、内側で形を変えるだけの現象がひととおり説明できます。
慣性モーメントが になるまで腕をたたんだとき、回転の運動エネルギーは何倍になりますか。
- 倍
- 変わらない
- 倍
















L が一定のとき K=L2/2I なので、I が 21 なら K は 2 倍です。増えたぶんは、腕を引き寄せるときにした仕事から来ています。