角運動量保存則とフィギュアスケートの回転
フィギュアスケートの選手がスピンするとき、腕を広げるとゆっくり回り、腕を体に引き寄せると一気に回転が速くなります。なぜ力を加えていないのに回転速度が変わるのでしょうか。その答えが「角運動量保存則」です。
角運動量とは
角運動量 は、回転の勢いを表す物理量です。質点の場合、回転軸からの距離 と運動量 を使って次のように定義されます。
より一般的には、剛体の回転に対して慣性モーメント と角速度 の積として表現されます。
慣性モーメントは「回転のしにくさ」を表す量で、質量が回転軸から遠くに分布しているほど大きくなります。
| 角運動量(kg·m²/s) | |
| 慣性モーメント(kg·m²) | |
| 角速度(rad/s) |
角運動量保存則
外部からトルク(力のモーメント)がはたらかない系では、角運動量の合計は一定に保たれます。
これが角運動量保存則です。運動量保存則が「外力がなければ運動量が保存する」というものだったのに対し、角運動量保存則は「外部トルクがなければ角運動量が保存する」というものです。
フィギュアスケートのスピン
フィギュアスケートのスピンは角運動量保存則の最も美しい実演です。選手が慣性モーメントを変化させることで、外力なしに回転速度を制御しています。
質量と回転軸からの距離の二乗の積を全体にわたって足し合わせた量。腕を広げると大きく、縮めると小さくなる。
腕を広げた状態での慣性モーメントを 、角速度を 、腕を引き寄せた状態での慣性モーメントを 、角速度を とすると、
なので となり、回転が速くなるのです。
慣性モーメント大 → 角速度小(ゆっくり回転)
慣性モーメント小 → 角速度大(高速回転)
仮に腕を広げたときの慣性モーメントが縮めたときの 4 倍だとすると、角速度は 4 倍になります。1 秒に 1 回転だったのが 4 回転になるわけです。
身近な例と天体の例
角運動量保存則はフィギュアスケート以外にも、さまざまな場面で観察できます。
飛び込み選手が体を丸める(タック姿勢)と回転が速くなり、体を伸ばすと回転が遅くなります。
回転椅子に座ってダンベルを持ち、腕を出し入れすると回転速度が変わります。自宅で試せる角運動量保存則の実験です。
巨大なガス雲が収縮して星になるとき、角運動量が保存されるため、小さくなるにつれて回転が速くなります。中性子星は毎秒数百回転もしています。
角運動量は直線運動における運動量と対をなす保存量であり、ニュートン力学の根幹をなす概念のひとつです。力(トルク)を加えなければ回転の状態は変わらない。このシンプルな原理が、ミクロの原子からマクロの銀河まで、回転する世界を貫いています。