三角関数の微分は、3 つの公式から始まります[3]。
(sinx)′=cosx,(cosx)′=−sinx,(tanx)′=cos2x1
正弦を微分すると余弦、余弦を微分すると符号の付いた正弦。2 つの関数が入れ替わりながら、符号だけが増えていきます。
青い線分が、その点での接線です。山の頂上で傾きが 0、下り坂で負、谷底でまた 0。この上下が余弦のグラフそのものになります。
出発点になる 2 つの極限
定義から計算するには、h→0 での極限を 2 つ用意します[1]。
h→0limhsinh=1,h→0limhcosh−1=0
前者は単位円の面積の比較から出ます。中心角 h の扇形が、2 つの三角形にはさまれる形。
面積の大小をそのまま式にすると sinh<h<tanh です。各辺を sinh で割ると 1>hsinh>cosh となり、h→0 で両端が 1 に近づく[2]。
はさみうちの原理から、真ん中の値も 1 に決まります。この極限が、三角関数の微分すべての土台。
正弦の導関数を定義から求める
加法定理で sin(x+h) を開くところが出発点です。
sin(x+h)−sinx=sinx(cosh−1)+cosxsinh
両辺を h で割ると、先ほどの極限が 2 つとも顔を出します。
hsin(x+h)−sinx=sinx⋅hcosh−1+cosx⋅hsinh⟶sinx⋅0+cosx⋅1
残るのは cosx です。(sinx)′=cosx が、極限 2 つと加法定理だけで出ました。
余弦は正弦から出せる
余弦は定義に戻らなくても求まります。cosx=sin(2π−x) と書き直すだけ。
(cosx)′=cos(2π−x)⋅(−1)=−sinx
内側の −x から負号が生まれます。合成関数の微分を使えば、公式を 1 つ覚えるだけで 2 つぶん働く。
正接は商の微分で出る
tanx=cosxsinx に商の公式を当てます。
(tanx)′=cos2xcosxcosx−sinx(−sinx)=cos2xcos2x+sin2x=cos2x1
分子が 1 になるのは、三角関数の基本の関係が効くためです。cos2x1 は常に正なので、tanx は各区間で増え続ける。
4 回で元に戻る
微分を繰り返すと、4 回で最初の関数に帰ってきます。
−cosx をもう一度微分すると sinx に戻ります。余弦から始めても同じ輪をたどる。
この周期性は n 階の公式にまとまります。sin の n 階微分は sin(x+2nπ) で、n を 4 増やすと角が 2π 進んで元どおり。
例:内側に式が入る形
y=sin2x は合成関数です。外側の微分 cos2x に、内側の微分 2 を掛けます。
y′=2cos2x
y=cos(x2) なら内側の微分が 2x になり、y′=−2xsin(x2)。y=tan3x なら y′=cos23x3 です。
内側が 1 次式なら係数が前に出るだけ。2 次式以上なら、その微分を書き添える手間が増えます。
例:積の形を微分する
y=xsinx を積の公式で計算します。片方だけ微分した項を 2 つ作って足す形。
y′=1⋅sinx+xcosx=sinx+xcosx
y=sinxcosx なら y′=cos2x−sin2x となり、倍角の公式で cos2x にまとまります。y=21sin2x と書き直してから微分しても、同じ答えにたどり着く。
例:分数の形を微分する
y=xsinx は商の公式です[1]。
y′=x2xcosx−sinx
y=cosx1 なら y′=cos2xsinx になります。分子が 1 の形は、(cosx)−1 と見て合成の公式で処理しても結果は変わりません。
y=sin2x の導関数はどれか。
- y′=2sinx
- y′=sin2x
- y′=2cos2x
__RESULT__
(sinx)2 とみて、外側の 2 乗を微分すると 2sinx、内側 sinx の微分が cosx です。積は 2sinxcosx で、倍角の公式から sin2x と書けます。
弧度法でないと成り立たない
(sinx)′=cosx が使えるのは、角を弧度法で測っているときだけです。度数法のままだと係数が付いてしまう。
(sinx∘)′=180πcosx∘
x∘=180πx という置きかえの、内側の微分が残るためです。180π はおよそ 0.0175 で、公式の形をはっきり壊します。
弧度法が採用されているのは、この係数を 1 にするため。角の測り方を変えただけで、微分の式がここまで簡単になります。
y=tanx の導関数として正しいものはどれか。
- y′=sin2x1
- y′=1+tan2x
- y′=cos2xsinx
__RESULT__
(tanx)′=cos2x1 です。cos2x1=cos2xsin2x+cos2x=tan2x+1 なので、2 番目の形も同じものを表します。
使いどころ
振動の速度は位置を微分して求めます。x=Asinωt なら速度は Aωcosωt。
波の傾きが 0 になる点を探すとき、余弦の零点を解くことになります。
極大と極小の判定では、−sinx の符号がそのまま凹凸を決めます。
交流の電流と電圧の位相差は、微分で 90 度ずれることから説明できます。
三角関数が繰り返し現れる分野では、微分の周期性がそのまま計算の見通しになります。4 回で戻るという性質を、道具として使えるかどうかが分かれ目。
参考文献
$(\sin x)' = \cos x$ と $(\cos x)' = -\sin x$ が入れ替わるのは、加法定理と $\lim_{h \to 0} \sin h / h = 1$ から出る帰結です。単位円の面積を三角形と扇形ではさむ図で、その極限を確かめます。正接は商の微分で $1/\cos^2 x$ に。4 回微分すると元へ戻る周期性、$\sin 2x$ や $x \sin x$ の計算例、そして度数法では公式が崩れる理由まで。
(sinx)2 とみて、外側の 2 乗を微分すると 2sinx、内側 sinx の微分が cosx です。積は 2sinxcosx で、倍角の公式から sin2x と書けます。