陰関数定理の基本を円の方程式から考える|仮定・証明・崩れる例
円 は、全体を 1 つの関数 として書けません。1 つの に が 2 つ対応するからです。
それでも上半分だけを見れば と書けます。どこまでならこの言い換えが通るのかを決めるのが陰関数定理です。
円を関数として書こうとすると困ること
方程式 が定める点の集まりは、平面上の曲線です。この曲線が関数のグラフになっているかを考えます。
のどの でも、 と の 2 つが方程式を満たします。 が 1 つに決まらないので、全体では関数になりません。
では ただ 1 つです。ここは 1 対 1 に見えますが、 を少しでも大きくすると解そのものが消えてしまいます。
見る範囲を狭めれば事情が変わります。点 の近くだけを見れば上側の枝しか入ってこないので、 が 1 つに決まります。
陰関数定理は、この「狭めればうまくいく」がいつ成り立つのかを述べたものです。
陰関数定理
を点 の近くで定義された 級の関数とします。仮定は 2 つです。
その点が曲線の上にある、という条件。ここから出発する。
で偏微分したものが消えていない、という条件。結論を支えているのはこちらである。
このとき の近くで定義された 級の関数 がただ 1 つ存在して、 と が成り立ちます。
導関数も式で書けます。
「ただ 1 つ」の意味には注意がいります。 を含む十分小さい長方形の中で解がただ 1 つ、という意味であって、平面全体で 1 つという主張ではありません。
級の仮定は落とせない
仮定を「 と 」の 2 つだけだと思うと足りません。 が 級であることが要ります。
が 級であるとは、偏導関数 と が存在して、どちらも連続であることをいいます。
偏導関数が存在するだけでは足りません。連続であってはじめて、1 点で分かったことが近くの点へ伝わります。
偏微分が 1 点で存在するだけでは、そのまわりの様子が何も分かりません。 が連続でなければ、 から少し離れた点で符号が変わっていても気づけないからです。
逆関数の微分で、局所的な逆関数を作るのに導関数の連続性が要ったのと同じ事情です。1 点の情報を近傍へ広げるには、連続性という橋渡しがいります。
以下では を 級として話を進めます。
円で条件を確かめる
と置きます。多項式なので 級どころか無限回微分可能です。
偏導関数は次の 2 つです。
が 0 でないのは のときです。円周上で となるのは と の 2 点しかありません。
つまり、この 2 点を除くすべての点で陰関数定理が使えます。 でも でも構いません。
局所的にしか言えない理由
<svg viewBox="0 0 460 260" width="100%" style="max-width:460px;display:block;margin:0 auto">
<line x1="40" y1="130" x2="270" y2="130" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></line>
<line x1="150" y1="25" x2="150" y2="235" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></line>
<circle cx="150" cy="130" r="90" fill="none" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1.5"></circle>
<path d="M 105 52 A 90 90 0 0 1 195 52" fill="none" stroke="#1b81e0" stroke-width="3"></path>
<path d="M 228 85 A 90 90 0 0 1 228 175" fill="none" stroke="#d0562a" stroke-width="3"></path>
<line x1="170" y1="34" x2="170" y2="72" stroke="#1b81e0" stroke-width="1" stroke-dasharray="4 3"></line>
<circle cx="170" cy="42" r="3" fill="#1b81e0"></circle>
<line x1="230" y1="72" x2="230" y2="188" stroke="#d0562a" stroke-width="1" stroke-dasharray="4 3"></line>
<circle cx="230" cy="89" r="3" fill="#d0562a"></circle>
<circle cx="230" cy="171" r="3" fill="#d0562a"></circle>
<text x="156" y="34" font-size="11" fill="#1f1f1f">(0, 1)</text>
<text x="246" y="134" font-size="11" fill="#1f1f1f">(1, 0)</text>
<text x="292" y="66" font-size="11" fill="#1b81e0">上側の弧は y = f(x)</text>
<text x="292" y="82" font-size="11" fill="#1b81e0">として書ける</text>
<text x="292" y="112" font-size="11" fill="#d0562a">右端の弧は書けない</text>
<text x="292" y="128" font-size="11" fill="#d0562a">縦線が 2 回交わる</text>
<text x="40" y="252" font-size="11" fill="#9a9a9a">同じ円でも、点によって関数として書けるかどうかが変わる</text>
</svg>点 のまわりに小さな長方形を取ると、その中の円周は上側の弧だけです。縦線を引けば必ず 1 回しか交わりません。
点 のまわりでは事情が違います。どんなに小さな長方形を取っても、上下 2 つの弧が入ってきます。
縦線が 2 回交わるので、 を の関数として決めようがありません。 という条件が、この状況をぴたりと言い当てています。
具体的に解いて突き合わせる
円の場合は解を書き下せます。 の近くでは です。
であり、 において が成り立ちます。定理の結論のとおりになっています。
点 の近くを見るなら です。同じ に対して別の関数が対応するので、「ただ 1 つ」が局所的な主張だと分かります。
どちらを取るかは の指定が決めています。 の符号が枝を選んでいるわけです。
導関数の公式はどこから来るか
が について恒等的に成り立つので、両辺を で微分します。合成関数の微分を使います。
なので割ることができ、出てくるのが次の公式です。
ここでも の微分可能性を先に使っている点に注意します。この計算から分かるのは公式の形だけで、 が微分可能であること自体は定理の側が保証しています。
円の導関数を出す
あとは公式に当てはめるだけです。
でだけ意味を持つ式です。 という条件が、そのまま形に残っています。
の近くで を直接微分しても確かめられます。
2 通りの計算が一致しました。下半分の枝 でも、 に負の値を入れれば同じ式で合います。
を入れると です。円の最上点で接線が水平になることと合っています。
接線の式として読む
公式は接線の傾きを与えているので、接線の方程式に書き直せます。点 での接線は次の式です。
について解けば傾きが になるので、公式と同じことを言っています。
円では となり、 を使って整理すると です。
この形は でも意味を持ちます。 では という垂直な直線になり、たしかに円の接線です。
接線はどの点でも引けるのに、 と書けるかどうかは点によって変わります。この差を言い当てているのが の条件です。
定理の証明
証明の筋道は、単調性と中間値の定理だけでできています。 の場合を書きます。負なら を考えれば済むからです。
は連続なので、 を中心とする小さな長方形の上で としてよいわけです。
その長方形の中で を止めると、 は狭義単調増加になります。 についての導関数が正だからです。
と単調性から、 を小さく取れば が成り立ちます。
は連続なので、 に十分近い でも が保たれます。この の範囲を と書きます。
各 について は で負、 で正です。中間値の定理から となる が存在し、狭義単調性からそれはただ 1 つに決まります。
の連続性で近くの符号を固定する
方向に狭義単調になる
中間値の定理で解を 1 つ見つける
単調性からその解はただ 1 つ
その を と書けば、これが求める関数です。存在と一意性が同じ議論から同時に出ています。
の連続性は を小さく取り直すことで従い、微分可能性はそのあとで差商を評価して確かめます。
なぜ が効くのか
証明を振り返ると、条件が効いていたのは 1 か所だけです。 方向に単調にするところでした。
単調でなければ、 の解が について複数出てきます。円の の近くで起きていたのがまさにこれです。
接線が垂直でない。小さな長方形を取れば、縦線と曲線が 1 回だけ交わる。 と書ける。
接線が垂直になりうる。どんなに小さく取っても縦線が 2 回交わる場合があり、 が決まらない。
は、曲線が点 で 軸の向きに立っていないことを表しています。立っていると、縦線が 2 回交わってしまいます。
役割を入れ替える
で行き詰まったのは、 を の関数として書こうとしたからです。逆にすれば通ります。
この点では です。 と の役割を入れ替えた形の陰関数定理から、 と書けます。
実際 で です。導関数は連鎖律 から求まります。
と が同時に 0 にならなければ、どちらかの向きで必ず関数として書けます。円では となるのが原点だけで、原点は円周上にありません。
したがって円のどの点でも局所的にグラフとして書けます。書ける向きが点によって変わるだけです。
両方の偏微分が消えるとき
<svg viewBox="0 0 460 200" width="100%" style="max-width:460px;display:block;margin:0 auto">
<line x1="25" y1="105" x2="145" y2="105" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></line>
<line x1="85" y1="45" x2="85" y2="165" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></line>
<line x1="30" y1="160" x2="140" y2="50" stroke="#d0562a" stroke-width="2"></line>
<line x1="30" y1="50" x2="140" y2="160" stroke="#d0562a" stroke-width="2"></line>
<line x1="200" y1="105" x2="310" y2="105" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></line>
<line x1="230" y1="45" x2="230" y2="165" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></line>
<polyline points="285,158 275,145 259,125 246,114 237,108 232,105 230,105 232,105 237,102 246,96 259,85 275,65 285,52" fill="none" stroke="#d0562a" stroke-width="2"></polyline>
<line x1="300" y1="105" x2="445" y2="105" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></line>
<line x1="375" y1="45" x2="375" y2="165" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></line>
<polyline points="315,149 330,145 352,137 365,129 372,121 375,113 375,105 375,97 378,89 385,81 398,73 420,65 435,61" fill="none" stroke="#1b81e0" stroke-width="2"></polyline>
<text x="25" y="28" font-size="11" fill="#1f1f1f">原点で y についての偏微分が消える 3 つの曲線</text>
<text x="30" y="186" font-size="11" fill="#9a9a9a">交わる 2 直線</text>
<text x="212" y="186" font-size="11" fill="#9a9a9a">尖点</text>
<text x="330" y="186" font-size="11" fill="#9a9a9a">関数にはなる</text>
</svg>と が同時に 0 になる点では、何も言えなくなります。壊れる例を見ます。
とすると、 は 2 本の直線 と です。原点で 、 となります。
原点のどんな近くを取っても 2 本の直線が交わっているので、 とも とも書けません。 を 1 つ決めると が 2 つ出てくるからです。
尖点の例
とすると、 は という曲線です。原点で 、 になります。
この曲線は でだけ存在し、原点で尖っています。上下 2 つの枝 と が原点でぶつかる形です。
縦線を引けば で 2 回交わるので、 とは書けません。 とは書けますが、こちらは原点で微分可能ではありません。
級の関数として書ける、という結論がどちらの向きでも成り立たない例になっています。
条件は十分条件にすぎない
でも結論が成り立つ場合があります。 を見ます。
原点で なので、定理の仮定は満たされません。それでも と書けて、 ごとに はただ 1 つに決まります。
ただし 級ではありません。 で微分可能でなく、接線が垂直に立ちます。
と書くこと自体ができない。上下 2 つの枝がぶつかっている。
とは書ける。ただし 級ではなく、接線が垂直になる。
定理が保証するのは 級の関数の存在です。仮定が破れたときに先に失われるのは、関数として書けることではなく滑らかさのほうだと分かります。
2 階導関数
をもう一度微分します。 が の関数であることを忘れずに、商の微分を使います。
最後で を使いました。方程式そのものを途中で使えるのが、陰関数のまま計算する利点です。
確かめておきます。 を 2 回微分すると で、 ですから一致します。
では で上に凸、 では で下に凸です。円を上下から見た形と合っています。
一般の についても同じ手順で計算でき、次の式になります。
円で確かめると、分子は 、分母は で、 になります。
定理は式を作る道具ではない
陰関数定理が言うのは「そういう が存在する」ということだけです。 の式を与えてはくれません。
円は解を書き下せる特別な場合です。 のような方程式では、 について解いた式そのものが書けません。
それでも定理は使えます。 が 0 でない点なら、その近くで と書けることと、導関数の値が分かります。
式が書けないまま微分の情報だけ取り出せる、というのが定理の使いどころです。接線を引く、極値を調べるといった計算は、式なしでも進みます。
について、点 の近くで正しいものはどれか。
- と書けて、 級である
- と書けて、 級である
- どちらの向きにも関数として書けない
- 陰関数定理の仮定がすべて満たされている










Fy(1,0)=0 なので y について解く形は使えない。一方 Fx(1,0)=2=0 なので、役割を入れ替えれば x=g(y)=1−y2 が取れる。