上界はいくつもあるのに最小上界は一つ(半順序集合と反対称律)
上界は「 のどの元よりも上にある元」です。上から押さえるという条件だけなので、上界はふつう何個もある。その中で最小のものが最小上界です。
最小上界は存在しないことがあります。ただし存在すれば必ず一つ。効いているのは半順序の反対称律だけで、証明は 2 行で終わる[1]。
比べられない組があってよい
集合 上の関係 が反射律、推移律、反対称律を満たすとき、 を半順序集合と呼びます。
反射律は 、推移律は と から 、反対称律は と から が出ること。
全順序との違いは、どの 2 元も比べられるとは限らない点にあります。 でも でもない組を許す[1]。
のべき集合を包含 で並べると、 と はどちらも他方を含みません。比べられない組の代表例です。
実数の に慣れていると、比べられない組があること自体が意外に見えます。
包含順序、整除順序、ベクトルの成分ごとの大小。数学に出てくる順序の多くは半順序どまり。
上界の定義
の部分集合 に対し、 が の上界であるとは次を満たすことをいいます。
が に属している必要はありません。 の外にあってもよい[2]。
条件は「 の全部より上」だけ。だから上界は一つに決まらず、実数の なら も も も上界になります。
上界の集まりは A といっしょに動く
下の図は のべき集合を包含順序で並べたものです。 を切り替えると、上界の集まりと最小上界がどう動くかが見えます。
が大きくなるほど上界は減ります。押さえる相手が増えるので当然で、最後は全体集合だけが残る。
例:べき集合の上界
のべき集合に包含順序を入れ、 をとります。
上界は と の両方を含む集合、つまり と の 2 つ。このうち小さいのは です。
べき集合では上界がいつでも存在します。 に属する集合を全部合わせた和集合が、必ず最小上界になる。
和集合はどの も含むので上界であり、どの上界にも含まれるので最小です。
最小上界の定義
が の最小上界であるとは、次の 2 条件を満たすこと。
は の上界、つまり任意の に対して 。そして の任意の上界 に対して 。
記号では と書き、上限とも呼びます[2]。「上界の集まりの最小元」と読み替えても同じ。
の全部より上にあるだけ。いくつあってもよく、 の外にあってもよい
上界の中で最小のもの。あるとは限らないが、あれば一つだけ
一意性は反対称律だけで出る
と がどちらも の最小上界だとします。
は上界で、 は最小の上界なので 。役割を入れかえると も出ます。
反対称律を当てて 。これで終わりです[1]。
は最小、 は上界
役割を入れかえて
反対称律から
順序の中身も、 が何の集合かも使っていません。使ったのは反対称律の一行だけ。
反対称律を外すと壊れる
反射律と推移律だけを課した関係を前順序と呼びます。この場合、最小上界は一つに決まりません。
たとえば に と の両方を入れる。 のままなので反対称律だけが崩れます。
の上界は と の 2 つで、どちらも最小。一意性の根拠が反対称律そのものだと分かります。
最小上界がない例
上界があっても、その中に最小のものがあるとは限りません。上界どうしが比べられなければ、最小が決まらない。

に 、、、 だけを入れます。 と のあいだには関係を置かない。
の上界は と 。どちらも他方以下ではないので、最小の上界が存在しません。
存在しないことと、存在して 2 つあることは違います。一意性の主張は「あれば一つ」であって、あることまでは言っていない[3]。
例:整除順序では最小上界が最小公倍数
の正の約数 に、 を「 が を割り切る」で定めます。

の上界は、 でも でも割り切れる数、つまり と です。小さいのは 。
が成り立ちます。同じ順序で下側を見れば、最大下界は最大公約数になる。
| 上界 | ||
|---|---|---|
数の大小ではなく整除で並べたので、 と は比べられません。それでも上界の側に があるおかげで、最小上界は決まります。
例:有理数の中では上限が消える
の部分集合 をとります。
の上界は の中にいくらでもある。 も も も上界です。
ところが最小の上界はありません。上界を一つとるたびに、 との隙間にもっと小さい有理数の上界が入るためです。
同じ を の中で見れば 。土台を広げると最小上界が現れます[3]。
上限があるかないかは の形ではなく、土台の集合のほうで決まります。
同じ でも、 で見るか で見るかで答えが変わる。
最大元と極大元は別物
の元でありながら の上界でもあるものを最大元といいます。最大元があれば、それがそのまま最小上界。
一方、 の中で自分より上の元がないものが極大元です。半順序では極大元が何個もあってよい[2]。
さきほどの では と がどちらも極大元。最大元は存在しません。
上限性質が実数を決める
どの空でない部分集合も、上に有界なら最小上界を持つ。この性質を上限性質と呼びます[3]。
は上限性質を持たず、 は持ちます。有理数と実数を分ける条件はここにあり、実数の連続性はこの一言で言い表せる。
すべての部分集合が最小上界を持つ半順序集合は完備束と呼ばれます。べき集合はその例で、和集合が上限、共通部分が下限になる[1]。
に 、、、 だけを入れます。 の最小上界について正しいのはどれですか。
- と の 2 つある
- 存在しない
- が最小上界になる
上界を並べ、その中の最小を探す。この 2 段構えが分かれば、上限も最大公約数も実数の連続性も同じ形に見えてきます。











上界は c と d の 2 つで、そこまでは正しい。ただし c≤d も d≤c も成り立たないので、上界の中に最小のものがありません。最小上界が 2 つになることは、反対称律がある限り起こりません。