σ 加法族はなぜ「可算」なのか(シグマ加法族の定義と例)
集合 の部分集合を集めた族 が次の 3 つを満たすとき、 上の σ 加法族と呼びます[1]。
全体が入ること、補集合で閉じること、可算合併で閉じること。条件はこの 3 つだけ。
これだけしか言っていないのに、測度を載せるのに要る操作がここからひととおり出てきます。組 を可測空間と呼び、 の元を可測集合と呼びます。
なぜ「可算」なのか
3 つ目の条件で有限合併ではなく可算合併を要求する。ここが σ という文字の指しているところです。
有限回の操作だけでは、極限で現れる集合に手が届きません。区間 をいくつ有限個つないでも、いちばん大きいものと同じで、右端にすき間が残ったまま。
可算個すべての合併をとって、はじめて に届きます。
有限加法族とはこの一点だけが違い、そしてこの一点が測度論のほぼすべてを決めます。
3 条件から自動的に出てくるもの
書いていない性質が、3 条件の組み合わせで導かれる。まず空集合は の補集合なので に属します。
可算交叉はド・モルガンの法則で出ます。補集合の合併を作ってからもう一度補集合をとる、という順序です[4]。
有限合併は、 のあと と置けば可算合併に帰着します。差集合も で作れる。
集合列の上極限と下極限まで入ります。可算合併と可算交叉を 2 段重ねただけのもの。
「無限回のうち何回でも起きる事象」と「ある番号から先ずっと起きる事象」が、定義に書かれていないのに使えるようになる。確率論でボレル・カンテリの補題が書けるのはこのためです。
例:いちばん粗い族といちばん細かい族
両端が先に決まります。どんな でも は σ 加法族で、これより小さいものはない。自明な σ 加法族と呼びます[2]。
反対の端はべき集合 です。すべての部分集合が可測になり、これより大きいものはありません。
σ 加法族を選ぶとは、この 2 つの端のあいだのどこに立つかを決めること。粗いほど扱える集合が減り、細かいほど測度を載せにくくなります。
の 2 つだけ。どんな集合の上にも必ず存在するが、区別できるものが何もない
すべての部分集合。区別する力は最大だが、ルベーグ測度のような自然な測度を全体には載せられない
例:サイコロで「どこまで見えるか」を表す
とします。べき集合 は 個の元を持つ σ 加法族。
出目そのものではなく偶奇だけが分かる観測者を考えます。この人に見えるのは次の 4 つだけ。
補集合をとっても合併をとっても、この 4 つから出ません。σ 加法族の条件を満たしています。
σ 加法族は「測れる集合の族」であると同時に、「どこまで見分けられるか」を表す道具でもある。粗い族しか持たない観測者は、偶数か奇数かまでしか答えられません。
有限の σ 加法族はアトムの分割で決まる
有限個の元しか持たない σ 加法族には、はっきりした形があります。点 を含む の元をすべて交わらせたものを と書き、アトムと呼びます[7]。
アトムどうしは一致するか交わらないかのどちらかで、 の分割になります。そして の元は、アトムをいくつか選んで合併したものに限られる。
サイコロの例ではアトムが と の 2 つで、 個の元がありました。数が合っています。
アトムが 個なら元の個数は になる。したがって有限の σ 加法族の元の個数は 2 のべきに限られ、3 個や 6 個のものは作れません。
σ 加法族は可算無限にならない
もう少し強いことも言えます。σ 加法族は有限であるか、さもなくば非可算であって、可算無限にはならない[7]。
背理法で追ってみます。 が可算無限だとすると、可算交叉が使えるのでアトム が定義できる。アトムが有限個なら も有限個で、仮定に反します。
アトムが無限個あると、そこから可算無限個を選べます。選んだアトムの部分集合ごとに違う合併ができるので、 の中に 個の元が並ぶことになる。可算無限という仮定と衝突します。
元がちょうど 6 個の σ 加法族を作れますか。
- 作れる。アトムを 6 個とればよい
- 作れない。有限なら元の個数は 2 のべきになる
- 作れる。 を 6 元集合にとればよい
例:可算・余可算の族
非可算集合の上に載る、粗くも細かくもない例を見ます。 を非可算集合とし、次の族を考えます[2]。
自身は補集合が空集合なので属します。補集合で閉じているのは定義が対称だから。
可算合併も確かめられます。すべてが可算なら合併も可算で、1 つでも余可算なものがあれば合併の補集合はその中に入って可算になる。
とすると、区間 はこの族に属しません。非可算で、しかも補集合も非可算だから。べき集合よりはっきり小さい族になっています。
生成される σ 加法族
扱いたい集合を並べただけの族 は、たいてい σ 加法族になっていません。そこで を含む最小の σ 加法族を作り、 と書きます[3]。
作り方は 2 通りの言い方があります。 を含む σ 加法族すべての交わりをとる、という道が一つ。
べき集合が候補に入っているので、交わりをとる相手は必ず 1 つ以上ある。σ 加法族の交わりがまた σ 加法族になることは、3 条件を 1 つずつ確かめれば出ます[2]。
もう一つの言い方は、 の元に補集合と可算合併と可算交叉を何度でも施して得られるもの全体、というものです[1]。ただし「何度でも」は可算回では足りず、超限回まで登る必要があります。
最小の σ 加法族を作るときは、下から積み上げるより上から交わらせるほうが早い。存在だけならこれで言えます。
候補が空にならないこと(べき集合が入る)と、交わりが σ 加法族になることの 2 つで済む。
例:1 つの集合から生成する
を 1 つ選び、 を求めます。 を入れたら補集合も入り、合併をとると 、交わると空集合。
ここから先は増えません。4 つの集合のあいだで補集合も合併も閉じているので、これが最小になる。
が空集合か 自身のときだけ、重複して 2 つに縮みます。それ以外はちょうど 4 つ。
例:区間から生成するとボレル集合族になる
で、開区間全体から生成した σ 加法族をボレル集合族といい、 と書きます[6]。
生成元のとり方には幅があります。開集合全体、閉集合全体、半開区間全体、有理数を端点とする区間全体。どれから始めても同じ に着きます。
たとえば から開区間が作れることは、可算合併と補集合を組み合わせれば見えます。生成元が違っても行き先が同じ、というのはよく起きること。
有理数の端点だけで足りるので、生成元は可算個で済みます。ここからボレル集合族の濃度が連続体濃度になり、べき集合より真に小さいことが従います[3]。
有理数を端点とする区間は可算個しかない。それでも生成される σ 加法族はボレル集合族の全体になる。
ボレル集合族の濃度は連続体濃度で、 の濃度より真に小さい。ボレル集合でない部分集合が存在する。
交わりは σ 加法族、合併はそうとは限らない
σ 加法族をいくつ集めても、その交わりはまた σ 加法族になる。生成の議論はこの事実に乗っていました。
合併のほうは崩れる。 で 2 つの σ 加法族を並べてみます。
合併には と の両方が入ります。ところが はどちらにも属さないので、合併に入らない。
合併は可算合併どころか有限合併でも閉じていません[2]。2 つの σ 加法族を合わせたいときは、合併ではなく をとります。
| 操作 | σ 加法族になるか |
|---|---|
| 交わり | なる |
| 合併 | ならない |
| 生成 | なる |
有限加法族との差が出る場面
3 つ目の条件を有限合併に弱めたものを有限加法族といいます。定義の見た目はほとんど同じなのに、載せられる測度が変わる。
で、有限集合と余有限集合を集めた族は有限加法族です。ところが の可算合併は偶数全体のような集合を作れて、これは有限でも余有限でもありません。
可算加法性を持つ測度を載せたいなら、族のほうも可算合併に耐えている必要がある。定義の は、測度の可算加法性と対になっています[5]。
可算合併で閉じる族を用意する
その上に可算加法的な測度を載せる
極限と積分が交換できるようになる










有限の σ 加法族はアトムの分割で決まり、元はアトムの部分集合と 1 対 1 に対応します。したがって個数は 2k の形だけ。6 は 2 のべきではないので作れません。