連続写像では足りない - スキームの射が持つもう半分
スキームの射は、連続写像 1 本では決まりません。行き先を決めたうえで、関数をどう引き戻すかまで指定して初めて 1 つの射になります。
同じ連続写像に、異なる射がいくつも乗ることがある。この記事ではその具体例を作り、なぜ 2 つ目の部品が要るのかを確かめます。
射は 2 つの部品でできている
スキーム から への射は、次の組です[1]。
は、 の開集合 の上の関数を、 の上の関数へ送る規則です。関数の引き戻しにあたります。
向きに注意します。点は から へ進み、関数は から へ戻ってくる。
局所準同型という条件
組がそろえば射になる、というわけではありません。もう 1 つ条件が付きます。
各点 で、茎のあいだに誘導される準同型を考えます。
これが局所準同型であること、つまり が成り立つことを要求します[4]。
言い換えると、 で消える関数は引き戻しても で消える、という条件です。逆に で消える関数の引き戻し元は で消えている。
この条件を落とした組は、局所環付き空間の射ではなく、ただの環付き空間の射になります。
条件を落とすと壊れる例
局所性が本当に要ることを、反例で確かめましょう。 を離散付値環、 をその商体とします。
は 2 点からなります。極大イデアルに対応する閉点 と、零イデアルに対応する生成点 です。 は 1 点だけ。
の点を閉点 へ送る連続写像を考えます。層の射としては、包含 を使います。
の開集合は 、、 の 3 つです。押し出しを計算すると 、 になります。
の逆像が空なので、そこでの値は零環です。制限写像との整合も、行き先が なので自動的に成り立ちます。
つまりこの組は環付き空間の射になっている。ところが茎で見ると条件が破れます。
証明: この組は局所準同型でない
閉点での茎は 、 の点での茎は です。誘導される写像は包含 になります。
は体なので、極大イデアルは です。その逆像は の中の になります。
一方 は の極大イデアルで、 とは違う。したがって局所準同型ではありません。
正しい射は、点を生成点 へ送るほうです。 なので、恒等写像が局所準同型になります。
行き先が閉点か生成点かは、位相の言葉だけでは決められません。局所性の条件が、その決定を担っています。
アフィンどうしなら環準同型と 1 対 1
条件をそろえると、きれいな対応が現れます。アフィンスキームどうしの射は、環準同型と 1 対 1 に対応する[3]。
矢印の向きが逆になります。 は環の圏からスキームの圏への反変関手です。
環準同型 から連続写像を作るには、素イデアルを引き戻します。 に対して は の素イデアルです。
素イデアルの逆像が素であることは、剰余環への埋め込みで分かります。 が単射で、右辺が整域だからです。
もっと広い形の対応
対応はアフィンどうしに限りません。行き先さえアフィンなら、出発点はどんなスキームでもよい[2]。
左辺は局所環付き空間としての射の全体、右辺は大域切断への環準同型の全体です。
この形は使い出があります。 がアフィンでなくても、 への射なら大域切断だけで書けるためです。
とすると右辺は 1 点集合になります。 から任意の環への準同型はただ 1 つなので、どんなスキームからも への射がちょうど 1 本ある。
がスキームの圏の終対象になる、という事実がこれで出ます。
2 階建ての構造として見る
射がどう積み上がっているかを図にします。

上の段だけを見ていると、下の段の情報がまるごと抜け落ちます。次の例がその抜けを示します。
例: フロベニウス射
標数 の体の上のスキームには、絶対フロベニウス射があります[5]。
環の側では 乗写像 です。二項係数がすべて で割れるので、和も積も保ちます。
台の位相空間の上では恒等写像になります。素イデアル の逆像が で、素イデアルは根基に等しいので 自身に戻るためです。
上の段は恒等写像、下の段は 乗写像。恒等射とは別物なのに、連続写像としては見分けが付きません。
で試しましょう。フロベニウスは を へ送りますが、点の集合は 1 つも動かない。
「連続写像を決めれば射が決まる」が偽であることの、いちばん短い反例です。
例: 体からの射は点と体の埋め込み
を体とし、 という射を考えます。 は 1 点なので、上の段は の点 を選ぶだけです。
下の段は、局所環からの準同型 になります。局所性から が へ行くので、剰余体を経由する。
体からの準同型は単射なので、これは剰余体の への埋め込みです。
つまり の射は、点 と埋め込み の組にあたります。点を指定するだけでは足りない。
、 なら、埋め込みは と の 2 通りあります。点は 1 つでも射は 2 本です。
例: 二重数からの射は接ベクトル
を二重数の環といいます。 をとると、やはり 1 点の空間になります。
は冪零なので、素イデアルは ただ 1 つです。位相空間としては と区別が付きません。
ところが射の集合は違います。 の射は、点 とそこでの接ベクトルの組に対応します。
環準同型 を と書くと、 が導分になるためです。
台が同じでも構造層が違えば射が違う。この例は、そのことを最も鮮やかに示します。
例: 二重被覆と分岐
環準同型 、 を考えます。対応する射は で、 を へ送るものです。
の上には と の 2 点が乗ります。 の上だけ 1 点です。
点の個数が落ちる場所を分岐点といいます。位相空間の絵では 2 点が重なるだけに見えますが、環の側には情報が残る。
となり、冪零元 が現れます。ファイバーの長さは のままです。
「重なった」ことと「消えた」ことの区別を、構造層が覚えている。これも 2 段目の働きです。
環準同型の性質が射に移る
環の側の性質は、射の性質へ翻訳できます。代表的な 3 つを並べます。
が単射なら、 の像は稠密です。像の閉包は で、核が なら全体になります。
のとき、 は への同相です。 を含む素イデアルと の素イデアルが 1 対 1 に対応するためです。
のとき、行き先は基本開集合 です。 が消えない点だけを見る操作にあたります。
3 つとも上の段の言葉に翻訳できていますが、どれも出発点は環準同型です。射を作るときは環から作るほうが早い。
位相だけでは同型も判定できない
もう 1 つ、極端な例を挙げます。 と はどちらも 1 点空間です。
位相空間としては同相です。ところがスキームとしては同型ではありません。
大域切断が と で、次元が違うからです。同型なら大域切断も同型になるはずでした。
似た状況は被約でないスキーム全般で起きます。 と はどちらも 1 点ですが、冪零元の階層 が違うので同型ではありません。
位相は同じで、構造層だけが違う例の系列。
台の位相空間は、スキームの影のようなものです。影が同じでも、もとの形は違いうる。
練習
をスキーム、 を環とします。射 の全体と 1 対 1 に対応するものはどれですか。
- から への連続写像の全体
- から への環準同型の全体
- から への環準同型の全体
- の点と の素イデアルの組の全体
向きをとり違えると全部が裏返ります。関数は逆向きに走る、と覚えておくと迷いません。
よくある誤り
最後に、まとめて並べます。
2 段構造を意識すると、どれも自然に区別が付きます。点の話か関数の話かを、いつも分けて考える。











行き先がアフィンなら、射は大域切断への環準同型で決まります。向きは R から Γ(X,OX) で、関数が行き先からもとへ戻る向きです。R=Z とすると右辺が 1 点集合になり、SpecZ が終対象であることが出ます。