イプシロンデルタ論法とは?関数の連続性を例でわかりやすく
実数の関数 がある点 で連続であるとは、次の条件が成り立つことをいいます。
任意の誤差 に対して、それがどんなに小さくても、入力側の許容幅 をうまくとれば、 を満たすすべての で出力の誤差 を 未満に抑えられる、という意味です。ひとことでいえば「 を に十分近づければ、 も に任意に近づく」ことを、極限記号を使わずに不等式だけで言い切った定義です。
もしある点 で、どんなに を小さくしてもこの条件を満たせないなら、 はその点で不連続だといいます。連続か不連続かはあくまで各点ごとに決まる性質で、区間全体で連続とは、その区間のすべての点で連続なことを指します。
εδ 論法の読み方
この定義の主役は、二つの正の数 と です。それぞれの役割をはっきりさせておきます。
の値が からどれだけ離れてよいかを表す、出力側の許容誤差です。自分で自由に選ぶのではなく、相手から「この誤差以内におさめられるか」と突きつけられる量だと思ってください。
が からどれだけ離れてよいかを表す、入力側の許容幅です。 を渡されたあとで、条件が成り立つように自分で選び出す量です。
大切なのは と の順序です。まず が先に与えられ、そのあとで を選ぶ。だから は に依存してよく、実際ほとんどの関数で は の式として書けます。逆に「先に を決めてから、あらゆる で通用させる」ことはできません。この順序を、相手が誤差 を出し、こちらが幅 で受けて立つ二人のやりとりだと見ると、見通しがよくなります。どんな を出されても必ず応じる を返せるとき、そのときに限って連続なわけです。
定義を絵で追う
εδ の証明は、いつも同じ三段の流れをたどります。
相手が誤差 を提示する
こちらが に応じて幅 を選ぶ
から を導く
コツは、逆算です。目標の不等式 を出発点に置き、左辺を で抑える形に変形してから、そのために がどれだけ小さければよいかを読み取って を決めます。以下、具体的な関数でこの流れを繰り返し踏んでいきます。
例 1:一次関数
もっとも見通しがよいのが一次関数 です。任意の点 で連続なことを、 を実際に作って示します。誤差 が与えられたとして出力の差を評価すると、次のようになります。
これを 未満にするには であれば十分です。そこで と選べば、 のとき が成り立ちます。 からただちに が決まり、しかも点 によらず同じ式でとれるところが、この関数の素直さです。
例 2:恒等関数と定数関数
さらに単純な二つの関数も確かめておきます。恒等関数 では なので、 とそのままとれば条件を満たします。誤差の要求がそっくり入力の幅になる、いわば基準となる連続関数です。
定数関数 はもっと極端で、 がつねに成り立ちます。 はどんな よりも小さいので、 は何でもよく、たとえば で足ります。出力がまったく動かない以上、入力をいくら動かしても誤差は生じません。
例 3:絶対値関数
絶対値関数 は原点で折れ曲がりますが、その折れ点も含めてすべての点で連続です。鍵になるのは、三角不等式から従う次の評価です。
出力の差が入力の差を超えないので、 とすれば から が出ます。グラフに角があるかどうかと、連続かどうかは別の話で、なめらかでなくても連続でありうる好例です。
例 4:正弦関数
三角関数 も、同じ「差が入力の差で抑えられる」型に乗ります。よく知られた不等式
が全実数で成り立つからです。したがって でよく、 はいたるところ連続です。例 1・例 3・例 4 に共通するのは、出力の変化が入力の変化の定数倍で抑えられるという性質で、これはのちに触れるリプシッツ連続の典型にあたります。
例 5:二次関数
ここから、 を点 に応じて選ばないと通らない関数に入ります。 の点 での差は、因数分解して次のように書けます。
の係数に という 依存の量がいるのが、例 1 との違いです。そこでまず を の近くに閉じ込めます。 と仮定すると なので、 と抑えられます。すると
となり、これを 未満にするには で十分です。二つの条件をあわせて、次のように選べば連続が示せます。
の分母に が現れるとおり、同じ でも が原点から離れるほど は小さくとらねばなりません。連続ではあるが、その連続の効き方は点ごとに違うわけです。
例 6:反比例
は で定義され、 の取り方はさらに繊細になります。点 での差は次のとおりです。
分母の が に近づくと右辺は際限なく大きくなるので、まず が から十分離れるよう と制限します。このとき となるので、次のように抑えられます。
あとはこれを 未満にすればよく、 ととれます。 が に近いほど は急激に小さくなり、原点近くでの連続性がいかにきわどいかが式に表れています。
例 7:平方根
は で定義されます。まず内部の点 を考えると、分子を有理化して次の評価が得られます。
したがって でよいことがわかります。端点 では事情が変わり、右からの近づきだけを考えて を要求すると、、すなわち ととれます。 が の二乗のオーダーになるのは、原点近くで のグラフが縦に切り立っているためです。
不連続の例:符号関数
ここからは連続の反対側を見ます。符号関数を次で定めます。
これは で不連続です。定義から示すには、うまくいかない を一つ挙げれば足ります。 をとってみましょう。どんなに小さな を選んでも、区間 には正の点があり、そこでは です。すると
となって条件が破れます。 をいくら小さくしても左右で値が だけ跳ぶので、この には決して応じられません。連続な点と不連続な点の分かれ目を、並べて確認しておきます。
どんな にも、応じる が存在する。 はすべての点でこれを満たす。
ある に対しては、どんな をとっても条件が破れる。 の が典型。
不連続の例:床関数
同じ「値が跳ぶ」型の不連続は、床関数 ( を超えない最大の整数)にも現れます。整数でない点の近くでは値が一定なので連続です。ところが整数点 では、左側で 、右側で となり、 の跳びが生じます。符号関数と同じく を出せば、左からいくら近づいても差が になって応じられません。階段状のグラフは、段の切り替わりごとにこの不連続を抱えています。
除去可能な不連続
跳ぶのではなく「穴があく」だけの不連続もあります。次の関数を見てください。
で分母が になり、そこだけ定義されません。 では約分できて なので、 を に近づけると値は に限りなく近づきます。極限は と定まるのに、その点で関数が定義されていない(あるいは値が 以外に決められている)だけなので、 と補ってやれば連続になります。このタイプを除去可能な不連続と呼び、値が跳ぶ符号関数の不連続とは性質がまったく異なります。
極限が定まらない例
補いようのない不連続もあります。()は、 が に近づくと が際限なく大きくなり、 が と のあいだを無限回振動します。 でどんな値 を定めても、いくらでも に近いところに となる点と となる点の両方があるため、 に応じる は存在しません。極限そのものが定まらないので、この不連続は値を補っても消せません。
連続に化ける例
同じ振動でも、振幅を押さえると話が一変します。(、)を考えます。 だから、次が成り立ちます。
とすれば から が出るので、 で連続です。振動の速さは と変わらないのに、 という因子が振幅を へ押しつぶすため、挟み撃ちで連続になります。 との対比は、連続性を決めるのが振動の有無ではなく振幅の収束であることを教えてくれます。
いたるところ不連続:ディリクレ関数
不連続が一点ではなく全域に及ぶ極端な例が、ディリクレ関数です。
有理数と無理数は、どちらも実数直線のいたるところに稠密に分布しています。だから任意の点 のどんなに小さな近傍にも、 の点と の点が必ず同居します。 をとれば、 が有理数でも無理数でも近くに値が だけ違う点が見つかり、条件は破れます。ディリクレ関数は、すべての実数点で不連続な病的な関数の代表格です。
有理点だけ不連続:トマエ関数
わずかな細工で、連続と不連続が交錯する驚くべき関数が作れます。トマエ関数を次で定めます。
ただし とします。この関数は、すべての無理点で連続、すべての有理点で不連続という、ディリクレ関数を逆立ちさせたような振る舞いをします。無理点 で連続なのは、 を与えたとき となる分母 の有理数が近くに有限個しかなく、それらを避けるように を小さくとれるからです。いっぽう有理点では なのに、すぐそばの無理点で となるため跳びが消えません。連続点が無理数全体というほとんどすべての点を占める点で、直感を鋭く裏切る例です。
数列による言い換え
εδ 論法は、数列の言葉に翻訳できます。関数 が点 で連続であることは、 に収束するどんな数列 をとっても が成り立つことと同値です。これをハイネの定理と呼びます。連続性には、同じ内容を指す次の三つの言い換えがあります。
数列版が便利なのは、不連続の証明に使えるところです。ディリクレ関数なら、有理数の数列と無理数の数列を両方 に送ると、 の像がそれぞれ と に行き先を違えるので、一発で不連続が示せます。εδ で を追い込む代わりに、都合のよい数列を一組つくればよいわけです。
各点連続と一様連続
最後に、 の選び方に関わる重要な区別にふれます。ここまでの連続は各点連続で、 は と点 の両方に依存してかまいませんでした。これに対し、点 によらない共通の が だけから取れるとき、 は一様連続だといいます。
は と点 に依存してよい。点ごとに を選び直せる。 は 全体でこれを満たす。
点によらない共通の が だけで取れる。 は で一様連続。
例 5 の を思い出すと、 は とともにいくらでも小さくなり、全実数で通用する共通の はとれません。実際 は 上で連続だが一様連続ではありません。いっぽう例 1 の一次関数や例 4 の は、 や が点によらず効くので一様連続です。有界な閉区間の上では、連続なら必ず一様連続になること(ハイネ・カントールの定理)も知られています。
理解の確認
εδ 論法において、 は何に依存してよいでしょうか。
- どんな量にも依存してはならず、定数でなければならない
- 先に与えられた に依存してよく、各点連続なら点 にも依存してよい
- あとから動く に依存してよい
まとめ
代表的な関数について、 の取り方と連続性を一覧にします。
| 関数 | δ の取り方 | 連続性 |
|---|---|---|
| 2x + 1 | δ = ε/2 | 全点で連続 |
| x² | δ = min(1, ε/(2|a|+1)) | 連続だが非一様 |
| 1/x | δ = min(|a|/2, |a|²ε/2) | x≠0 で連続 |
| √x | δ = √a·ε(a>0) | 連続(一様) |
| sgn x | とれない | x=0 で不連続 |
| D(x) | とれない | 全点で不連続 |
εδ 論法は、極限の直感を不等式一本で言い切る道具です。 をどう作るかに関数の個性が凝縮され、素直に で済むものから、点ごとに慎重な見積もりを要するもの、そしてどうやっても応じられない不連続点まで、同じ枠組みで一望できます。連続の定義を一つ握っておけば、微分・積分から一様連続や関数列の収束まで、解析のあらゆる場面へまっすぐつながっていきます。










∀ε∃δ の順序から、δ は先に与えられた ε の関数として選べます。各点連続では点 a ごとに選び直してよく、点によらない共通の δ が取れる場合を特に一様連続と呼びます。なお δ を x で決めることはできません。x は δ が定まったあとで動く変数だからです。