共役転置(随伴行列)は や で表され、行列 の転置をとってから各成分の複素共役をとった行列です。実数行列では転置と一致します。
基本的な性質
共役転置には以下の性質があります。
3 つ目の性質で は複素数、 はその複素共役を意味します。4 つ目の性質では積の順序が逆転することに注意が必要です。
積の公式の証明
を 行列、 を 行列とします。 の 成分は の 成分の複素共役なので
です。積の定義より
なので
となります。一方、 の 成分は
です。これは先ほどの式と一致するため
が成り立ちます。
ユニタリ行列とエルミート行列
共役転置を使って定義される重要な行列として、ユニタリ行列とエルミート行列があります。
ユニタリ行列
を満たす行列。実数の場合は直交行列に対応し、内積を保つ線形変換を表します。固有値の絶対値はすべて 1 です。
エルミート行列
を満たす行列。実数の場合は対称行列に対応します。固有値はすべて実数で、異なる固有値に対応する固有ベクトルは直交します。
エルミート行列は量子力学で物理量を表す演算子(観測可能量)として登場し、ユニタリ行列は時間発展演算子として現れます。
内積との関係
複素ベクトル空間での内積は共役転置を使って表現されます。ベクトル の内積は
と書けます。この表記により、線形変換 に対して
が成り立ちます。この性質から は の随伴作用素とも呼ばれます。
ノルムとの関係
ベクトル のノルムは で定義されます。行列 についても
が成り立ち、 が正定値行列であることがわかります。これは最小二乗法の正規方程式 の導出にも使われます。