極限がふらつかない理由、ハウスドルフ空間と点列の収束
点列が 2 つの点に同時に収束したら困ります。極限という言葉が意味を失うからです。
ハウスドルフ空間ではそれが起きません。異なる 2 点を交わらない開集合で引き離せるので、点列がどちらにも入りきることができない[1]。
収束の定義
点列 が に収束するとは、 のどの開近傍 に対しても、ある番号 から先の項がすべて に入ることをいいます。
が近傍に置きかわっただけの形です。距離のない空間でもそのまま書けます。
近傍が少ない空間ほど、この条件はゆるくなります。ゆるすぎると、点列があちこちに収束してしまう。
ハウスドルフ空間
がハウスドルフであるとは、異なる 2 点 に対して、、、 となる開集合がとれることをいいます[2]。
分離公理の階段では にあたります。 より強く、点を閉じるだけでなく、近傍まで引き離すことを要求する[3]。
極限が 1 つに決まる
が に収束するとし、 をとります[1]。
ハウスドルフ性から 、、 となる開集合があります。収束の定義から、有限個を除くすべての項が に入る。
と は交わらないので、 に入れる項は有限個しか残りません。だから は に収束しない[1]。
証明に使ったのは「交わらない」という一点だけです。近傍の大きさも、点列の作り方も見ていません。
例:密着位相では全部の点に収束する
に密着位相を入れます。開集合は と の 2 つだけ。
定数列 をとります。 の開近傍は しかなく、すべての項が に入るので に収束する。
の開近傍も だけなので、同じ点列が にも収束します。極限が 2 つある[2]。
近傍が足りないと、収束の条件が誰にでも当てはまってしまいます。
例:余有限位相でふらつく
無限集合に余有限位相を入れます。開集合は と、補集合が有限な集合だけ[1]。
でこの位相をとり、 を見ます。どの点 をとっても、 の開近傍から外れる項は有限個しかありません。
だから はどの点にも収束します[1]。この空間は ですが、ハウスドルフではない。

対角線が閉であること
積空間 の中で、対角線を次のようにとります[1]。
がハウスドルフであることと、 が で閉集合であることは同値です[1]。
なら なので、交わらない がとれる。 が の近傍で と交わらないので、補集合が開になります。
ハウスドルフ性は、対角線の閉性という 1 本の条件に翻訳できます。
点の組を見る言い方に変わるので、積空間の議論と相性がよい。
保たれるところと崩れるところ
部分空間はハウスドルフのままです。開集合を切りとれば、分離に使った近傍もそのまま切りとれます。
積についても保たれます。 と がハウスドルフなら もそう[1]。射影で引き戻した近傍を使えばよい。
商では崩れます。点を潰す操作が分離を壊すためです。
部分空間、積空間、コンパクト空間からの像
商空間。点を同一視すると近傍が引き離せなくなる
有限集合が閉になる
ハウスドルフ空間では有限集合が閉集合です[1]。
を固定し、 をとると、 を含まない の近傍があります。だから となり、一点集合が閉。有限和をとれば有限集合も閉です。
この証明ではハウスドルフ性の全部を使っていません。実際、点が閉でもハウスドルフでない空間があります[1]。
逆向きには足りない
点列の極限がいつでも一意な空間が、ハウスドルフとは限りません。可算性が足りないと、点列が空間の細部を汲みつくせないためです。
点列の添字を有向集合へ広げたネットにすると、事情が変わります。ネットの極限がいつでも一意であることと、ハウスドルフであることが同値になる。
が第一可算なら、点列だけで同値性が戻ります。距離空間で極限の一意性からハウスドルフ性を言えるのは、この条件が効いているからです。
ハウスドルフなら点列の極限は一意
逆は点列では言えない
ネットに広げると同値になる
例:稠密な部分で決まる
をハウスドルフ空間、 を稠密な部分集合とします。連続写像 が の上で一致するなら、 全体で一致します[1]。
極限の一意性がここで効いています。 の点で寄せていったとき、行き先が 2 つに割れないので値が決まる。
がハウスドルフでないと崩れます。行き先が定まらないぶん、稠密な部分での一致が全体へ伝わりません。
連続関数を有理点での値から決める議論は、この形をとっています。 がハウスドルフだからこそ成り立つ。
無限集合に余有限位相を入れた空間で、相異なる項からなる点列はどの点に収束しますか。
- どの点にも収束しない
- すべての点に収束する
- 1 点にだけ収束する
近傍を引き離せることと、極限が 1 つに決まること。この 2 つが結びつくおかげで、極限という言葉が安心して使えるようになります。











どの点 p をとっても、p の開近傍は有限個をくり抜いた残りです。項は相異なるので、くり抜かれた側に落ちるものは有限個しかありません。だから残りの項がすべて近傍に入り、p への収束が成り立ちます。これがどの p でも起きるので、極限は 1 つに決まりません。