確率変数とは何か|標本空間からの関数として理解する確率分布
確率変数とは、試行の結果それぞれに実数を割り当てる関数のことである。
さいころを投げる試行では、起こりうる結果は から までの 通りある。この 通りを集めたものを標本空間といい、 と書く。
確率変数 は、 の各要素 に実数 を対応させる。さいころの目をそのまま数と見るなら である。
確率変数は事象ではなく関数である
確率変数を「確率が定まっている事象」と説明することがあるが、定義としては正しくない。事象は結果を集めた集合であり、確率変数は結果に数を割り当てる関数である。
区別が要るのは、同じ試行から何通りもの確率変数が作れるからである。起こりうる結果の集まりは一つでも、そこから取り出す数は一通りに決まらない。
試行を行う
結果 が定まる
実数 が定まる
値が決まるのは結果が出たあとである。結果が決まってしまえば はただの数で、そこに揺らぎはない。
枚のコインを投げる試行で見てみよう。結果は表表・表裏・裏表・裏裏の 通りで、表の枚数を と決めると、 は 通りの結果を 、、 の つの数に送る。
<svg viewBox="0 0 460 240" width="100%" style="max-width:460px;display:block;margin:0 auto">
<ellipse cx="105" cy="122" rx="78" ry="90" fill="none" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></ellipse>
<text x="105" y="24" font-size="11" fill="#9a9a9a" text-anchor="middle">標本空間</text>
<text x="105" y="68" font-size="12" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">表表</text>
<text x="105" y="108" font-size="12" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">表裏</text>
<text x="105" y="148" font-size="12" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">裏表</text>
<text x="105" y="188" font-size="12" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">裏裏</text>
<text x="196" y="42" font-size="11" fill="#9a9a9a">確率変数 X(表の枚数)</text>
<polyline points="185,64 350,64" fill="none" stroke="#9a9a9a" stroke-width="1"></polyline>
<polyline points="185,104 268,104 268,122 350,122" fill="none" stroke="#9a9a9a" stroke-width="1"></polyline>
<polyline points="185,144 268,144 268,122 350,122" fill="none" stroke="#9a9a9a" stroke-width="1"></polyline>
<polyline points="185,184 350,184" fill="none" stroke="#9a9a9a" stroke-width="1"></polyline>
<polygon points="350,60 358,64 350,68" fill="#9a9a9a"></polygon>
<polygon points="350,118 358,122 350,126" fill="#9a9a9a"></polygon>
<polygon points="350,180 358,184 350,188" fill="#9a9a9a"></polygon>
<text x="370" y="68" font-size="12" fill="#1b81e0">2</text>
<text x="370" y="126" font-size="12" fill="#1b81e0">1</text>
<text x="370" y="188" font-size="12" fill="#1b81e0">0</text>
<text x="30" y="228" font-size="11" fill="#9a9a9a">表裏と裏表は別の結果だが、同じ 1 に送られる</text>
</svg>表裏と裏表は違う結果だが、 の値はどちらも になる。関数は複数の結果を一つの値にまとめることがあり、そのまとまり方が確率分布を決める。
英語圏の教科書では、random variable は random でも variable でもない、としばしば注意される。名前は歴史的なもので、実体は結果から数を読み取る関数である。
確率分布とは何か
確率変数 がどの値をどれだけの確率でとるかを表したものが確率分布である。
が値 をとる確率は、その値に送られる結果を全部集めた事象の確率として定まる。
コインの例なら、 は表裏と裏表という 通りの確率を足したものになる。左辺は数の世界の話で、右辺は結果の世界の話である。
標本空間の各結果に実数を割り当てる関数。結果が決まれば値は一つに定まる
その関数がどの値をどれだけの確率でとるかの割り当て。結果の世界には触れない
確率変数が決まれば分布は自動的に決まる。逆に、分布から確率変数を復元することはできない。この非対称性はあとの節で効いてくる。
確率質量関数が満たす 2 つの条件
とりうる値が飛び飛びの確率変数を離散確率変数といい、 を確率質量関数という。
どの値でも である。確率が負になることはない。
とりうる値すべてにわたって足すと になる。標本空間のどの結果もいずれかの値に送られるからである。
逆に、この つを満たす対応を用意すれば、それを分布に持つ確率変数を作れる。分布を書くのに、もとの実験の細部は要らない。
さいころの目の分布と、 から の数をその確率で選ぶ乱数の分布は、同じものである。分布のレベルでは両者を区別する手がかりがない。
例:さいころの目の分布
公平なさいころでは、どの目も同じ確率で出ると仮定する。とりうる値が 個あってどれも確率が等しい分布を、離散一様分布という。
| 目 | 確率 |
|---|---|
| 1 | 1/6 |
| 2 | 1/6 |
| 3 | 1/6 |
| 4 | 1/6 |
| 5 | 1/6 |
| 6 | 1/6 |
<svg viewBox="0 0 460 210" width="100%" style="max-width:460px;display:block;margin:0 auto">
<text x="48" y="24" font-size="11" fill="#1f1f1f">どの目も棒の高さが同じになる</text>
<line x1="56" y1="170" x2="420" y2="170" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></line>
<rect x="68" y="80" width="36" height="90" fill="#1b81e0"></rect>
<rect x="124" y="80" width="36" height="90" fill="#1b81e0"></rect>
<rect x="180" y="80" width="36" height="90" fill="#1b81e0"></rect>
<rect x="236" y="80" width="36" height="90" fill="#1b81e0"></rect>
<rect x="292" y="80" width="36" height="90" fill="#1b81e0"></rect>
<rect x="348" y="80" width="36" height="90" fill="#1b81e0"></rect>
<text x="30" y="84" font-size="11" fill="#9a9a9a">1/6</text>
<text x="86" y="188" font-size="12" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">1</text>
<text x="142" y="188" font-size="12" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">2</text>
<text x="198" y="188" font-size="12" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">3</text>
<text x="254" y="188" font-size="12" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">4</text>
<text x="310" y="188" font-size="12" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">5</text>
<text x="366" y="188" font-size="12" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">6</text>
<text x="48" y="204" font-size="11" fill="#9a9a9a">6 本の棒の高さを足すと 1 になる</text>
</svg>つの確率を足すと になる。合計が になることは分布の性質であって、さいころに固有の性質ではない。
「どの目も同様に確からしい」は、証明された事実ではなく置いた仮定である。実物のさいころがこの仮定に従うかどうかは、あとの節で実測と突き合わせる。
累積分布関数
分布を表す方法は確率質量関数だけではない。値そのものではなく、値以下になる確率を並べる書き方がある。
これを累積分布関数という。さいころなら は 以下の目が出る確率で、 になる。
累積分布関数は単調非減少で、右から連続であり、左端で 0 に、右端で 1 に近づく。逆にこの つを満たす関数は、必ずどれかの確率変数の累積分布関数になる。
<svg viewBox="0 0 460 220" width="100%" style="max-width:460px;display:block;margin:0 auto">
<text x="48" y="24" font-size="11" fill="#1f1f1f">跳びの高さが、その値をとる確率になる</text>
<line x1="64" y1="170" x2="420" y2="170" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></line>
<line x1="76" y1="44" x2="76" y2="170" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></line>
<polyline points="76,170 110,170" fill="none" stroke="#1b81e0" stroke-width="1.5"></polyline>
<polyline points="110,150 160,150" fill="none" stroke="#1b81e0" stroke-width="1.5"></polyline>
<polyline points="160,130 210,130" fill="none" stroke="#1b81e0" stroke-width="1.5"></polyline>
<polyline points="210,110 260,110" fill="none" stroke="#1b81e0" stroke-width="1.5"></polyline>
<polyline points="260,90 310,90" fill="none" stroke="#1b81e0" stroke-width="1.5"></polyline>
<polyline points="310,70 360,70" fill="none" stroke="#1b81e0" stroke-width="1.5"></polyline>
<polyline points="360,50 414,50" fill="none" stroke="#1b81e0" stroke-width="1.5"></polyline>
<circle cx="110" cy="150" r="3" fill="#1b81e0"></circle>
<circle cx="160" cy="130" r="3" fill="#1b81e0"></circle>
<circle cx="210" cy="110" r="3" fill="#1b81e0"></circle>
<circle cx="260" cy="90" r="3" fill="#1b81e0"></circle>
<circle cx="310" cy="70" r="3" fill="#1b81e0"></circle>
<circle cx="360" cy="50" r="3" fill="#1b81e0"></circle>
<circle cx="110" cy="170" r="3" fill="#ffffff" stroke="#1b81e0" stroke-width="1"></circle>
<circle cx="160" cy="150" r="3" fill="#ffffff" stroke="#1b81e0" stroke-width="1"></circle>
<circle cx="210" cy="130" r="3" fill="#ffffff" stroke="#1b81e0" stroke-width="1"></circle>
<circle cx="260" cy="110" r="3" fill="#ffffff" stroke="#1b81e0" stroke-width="1"></circle>
<circle cx="310" cy="90" r="3" fill="#ffffff" stroke="#1b81e0" stroke-width="1"></circle>
<circle cx="360" cy="70" r="3" fill="#ffffff" stroke="#1b81e0" stroke-width="1"></circle>
<text x="58" y="54" font-size="11" fill="#9a9a9a">1</text>
<text x="58" y="174" font-size="11" fill="#9a9a9a">0</text>
<text x="110" y="188" font-size="12" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">1</text>
<text x="160" y="188" font-size="12" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">2</text>
<text x="210" y="188" font-size="12" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">3</text>
<text x="260" y="188" font-size="12" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">4</text>
<text x="310" y="188" font-size="12" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">5</text>
<text x="360" y="188" font-size="12" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">6</text>
<text x="48" y="210" font-size="11" fill="#9a9a9a">白丸は含まない端、青丸は含む端を表す</text>
</svg>離散確率変数の累積分布関数は階段の形をしている。段の高さがその値をとる確率にあたり、全部の段を合わせると だけ上昇する。
区間の確率も差で書ける。 より大きく 以下になる確率は である。
累積分布関数を使う利点は、とりうる値が飛び飛びでも連続でも同じ形で書けることにある。最大値の分布を求める節では、この書き方が計算を短くする。
例:2 枚のコインの表の枚数
表と裏の出る確率をそれぞれ とし、 枚のコインを投げて表の枚数を数える。標本空間は表表・表裏・裏表・裏裏の 通りである。
通りはどれも同じ確率 で起こる。表の枚数が になる結果は つあるので、その確率だけ倍になる。
| 表の枚数 | 確率 |
|---|---|
| 0 | 1/4 |
| 1 | 2/4 |
| 2 | 1/4 |
表と裏が対等なので、 枚の確率と 枚の確率は等しい。分布は真ん中で左右対称になる。
例:3 枚のコインの表の枚数
枚数を にすると結果は 通りになり、どれも確率 である。表の枚数が になる結果の個数は、 枚から 枚を選ぶ組み合わせの数で数えられる。
、、、 なので、分布は次のようになる。
| 表の枚数 | 確率 |
|---|---|
| 0 | 1/8 |
| 1 | 3/8 |
| 2 | 3/8 |
| 3 | 1/8 |
ここでも対称性が効く。表と裏を入れ替える操作が結果どうしの一対一の対応になっていて、表 枚の結果と表 枚の結果が過不足なく対応する。
だから を数え直さなくても、 と が分かっていれば残りは決まる。合計 から両端を引き、対称な つに等分すればよい。
対称性から確率を絞り込むこの手口は、選び方の数が増えるほど得をする。ただし表と裏の確率が等しいときにしか使えない。
例:2 個のさいころの和
個のさいころを区別して 、 と呼ぶ。出方は 通りで、どれも確率 である。
和が になる出方の数は、 を頂点として増えてから減る。 を決めれば が決まるので、 の取りうる範囲の広さがそのまま個数になる。
<svg viewBox="0 0 460 210" width="100%" style="max-width:460px;display:block;margin:0 auto">
<text x="44" y="24" font-size="11" fill="#1f1f1f">7 を頂点とする三角形になる</text>
<line x1="40" y1="170" x2="424" y2="170" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></line>
<rect x="46" y="152" width="26" height="18" fill="#1b81e0"></rect>
<rect x="80" y="134" width="26" height="36" fill="#1b81e0"></rect>
<rect x="114" y="116" width="26" height="54" fill="#1b81e0"></rect>
<rect x="148" y="98" width="26" height="72" fill="#1b81e0"></rect>
<rect x="182" y="80" width="26" height="90" fill="#1b81e0"></rect>
<rect x="216" y="62" width="26" height="108" fill="#1b81e0"></rect>
<rect x="250" y="80" width="26" height="90" fill="#1b81e0"></rect>
<rect x="284" y="98" width="26" height="72" fill="#1b81e0"></rect>
<rect x="318" y="116" width="26" height="54" fill="#1b81e0"></rect>
<rect x="352" y="134" width="26" height="36" fill="#1b81e0"></rect>
<rect x="386" y="152" width="26" height="18" fill="#1b81e0"></rect>
<text x="59" y="188" font-size="11" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">2</text>
<text x="93" y="188" font-size="11" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">3</text>
<text x="127" y="188" font-size="11" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">4</text>
<text x="161" y="188" font-size="11" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">5</text>
<text x="195" y="188" font-size="11" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">6</text>
<text x="229" y="188" font-size="11" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">7</text>
<text x="263" y="188" font-size="11" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">8</text>
<text x="297" y="188" font-size="11" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">9</text>
<text x="331" y="188" font-size="11" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">10</text>
<text x="365" y="188" font-size="11" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">11</text>
<text x="399" y="188" font-size="11" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">12</text>
<text x="44" y="204" font-size="11" fill="#9a9a9a">棒の高さは 1/36 の何個分かを表す</text>
</svg>一様分布を つ足すと、一様ではなく三角形になる。足し算が確率を真ん中へ集める働きをしている。
さいころ 個の分布が平らでも、和の分布は平らにならない。分布は確率変数ごとのもので、もとの試行の見た目とは別である。
例:2 個のさいころの最大値
個の目のうち大きいほうを とする。全 通りを書き出す必要はなく、累積分布関数から入るほうが早い。
が 以下になるのは、 個とも 以下のときである。それぞれが独立に の確率で 以下になる。
確率質量関数は、階段の段の高さとして取り出せる。 ちょうどになる確率は、 以下の確率から 以下の確率を引けばよい。
| 最大値 | 確率 |
|---|---|
| 1 | 1/36 |
| 2 | 3/36 |
| 3 | 5/36 |
| 4 | 7/36 |
| 5 | 9/36 |
| 6 | 11/36 |
<svg viewBox="0 0 460 210" width="100%" style="max-width:460px;display:block;margin:0 auto">
<text x="48" y="24" font-size="11" fill="#1f1f1f">大きい目ほど最大値になりやすい</text>
<line x1="56" y1="170" x2="420" y2="170" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></line>
<rect x="68" y="161" width="36" height="9" fill="#1b81e0"></rect>
<rect x="124" y="143" width="36" height="27" fill="#1b81e0"></rect>
<rect x="180" y="125" width="36" height="45" fill="#1b81e0"></rect>
<rect x="236" y="107" width="36" height="63" fill="#1b81e0"></rect>
<rect x="292" y="89" width="36" height="81" fill="#1b81e0"></rect>
<rect x="348" y="71" width="36" height="99" fill="#1b81e0"></rect>
<text x="86" y="188" font-size="12" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">1</text>
<text x="142" y="188" font-size="12" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">2</text>
<text x="198" y="188" font-size="12" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">3</text>
<text x="254" y="188" font-size="12" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">4</text>
<text x="310" y="188" font-size="12" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">5</text>
<text x="366" y="188" font-size="12" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">6</text>
<text x="48" y="204" font-size="11" fill="#9a9a9a">高さの比は 1 : 3 : 5 : 7 : 9 : 11 になる</text>
</svg>奇数が順に並ぶのは、平方数の差が奇数だからである。 通りの表を作って数え上げても同じ答えになるが、手間が違う。
最大値のように「すべてが条件を満たす」という形の確率変数は、累積分布関数と相性がよい。個々の確率を数えるより、まとめて上から押さえるほうが速い。
例:2 個のさいころの最小値
小さいほうを とすると、今度は「 以上」で押さえる。 個とも 以上になる確率は、 から までの 個を各さいころが引く確率の積である。
ちょうど になる確率は、隣どうしの差として求まる。
なら 、 なら である。最大値の分布をちょうど裏返した形になる。
裏返しになる理由は、目を から引く操作にある。 と を と に取り替えると、最大値と最小値が入れ替わる。
例:2 個のさいころの目の差
差の絶対値 を考える。 になるのはゾロ目の 通りである。
が 以上のときは、 と の 通りが対になる。 の選び方が 通りあるので、全部で 通りになる。
| 差 | 確率 |
|---|---|
| 0 | 6/36 |
| 1 | 10/36 |
| 2 | 8/36 |
| 3 | 6/36 |
| 4 | 4/36 |
| 5 | 2/36 |
最頻の値は ではなく だ。ゾロ目より「 違い」のほうが起きやすいのは、対になる組があるぶん 倍数えられるからである。
個の確率を足すと になり、たしかに に収まる。分布を作ったら合計を確かめる習慣をつけておくとよい。
一つの試行から何通りも確率変数が作れる
和、最大値、最小値、差は、どれも 個のさいころを投げるという同じ試行から作った。標本空間は 通りのままで、変えたのはそこから読み取る数だけである。
確率変数を選ぶことは、観測の粗さを選ぶことでもある。同じ結果を見ていても、和だけ記録すれば最大値は永久に復元できない。
結果のどの側面を数として取り出すか、という選択。粗く取ると情報が落ちる。
情報が落ちる方向は一方通行である。 通りの結果から和は決まるが、和から 通りの結果は決まらない。
この落ち方が実験の設計を左右する。何を記録するかを決めた時点で、あとから何を言えるかが決まってしまう。
例:分布が同じで確率変数が違うさいころ
確率変数から分布は決まるが、分布から確率変数は決まらない。極端な例が、目の並びを書き換えても和の分布が変わらないさいころである。
個のさいころを多項式で表す。目 が出る面の数を の係数に載せる。
個を投げた和の分布は、この積 の係数として現れる。指数どうしが足し算になるので、多項式の掛け算が和の数え上げと一致する。
を因数分解しておく。
の因数を つの多項式へ配り直しても、積は変わらない。片方に を つとも渡すと、次の つになる。
係数を面の数として読むと、目が のさいころと のさいころになる。どちらも 面で、負の目も の目もない。
この 2 個を投げた和の分布は、普通のさいころ 2 個の和の分布と完全に一致する。 がいちばん出やすく、 と が という並びまで同じである。
正の整数だけを面に書く限り、こういう組み合わせは他にない。整数係数の多項式の因数分解が一通りしかないことが効いている。
確率変数としては明らかに別物なのに、和の分布では見分けがつかない。分布は確率変数の情報の一部しか持っていない。
例:強さが循環するさいころ
分布どうしを比べる操作にも、直感が通じない例がある。 個のさいころに次のように目を書く。
| さいころ | 目の並び |
|---|---|
| A | 4, 4, 4, 4, 0, 0 |
| B | 3, 3, 3, 3, 3, 3 |
| C | 6, 6, 2, 2, 2, 2 |
| D | 5, 5, 5, 1, 1, 1 |
個を選んで投げ、大きい目を出したほうを勝ちとする。この 個では引き分けが起こらない。
が に勝つのは が を出すときで、確率は である。 が に勝つのは が を出すときで、やはり になる。
同じように計算すると は に で勝つ。ここまでなら がいちばん強そうに見える。
ところが は に で勝つ。強さが一周するこの 4 個は、Efron のさいころと呼ばれている。
個を強い順に並べようとしても、どこかで必ず矛盾する。じゃんけんと同じで、勝ち負けの関係が円をなしている。
と を直接比べると、 が勝つ確率は である。勝ちやすさは 2 つの分布の組ごとに決まる量であって、1 本の順序に並ぶとは限らない。
例:とりうる値が無限にある分布
これまでの例はとりうる値が有限だった。値が無限にあってもかまわない。
コインを表が出るまで投げ続け、投げた回数を とする。 は 、、 とどこまでも大きくなりうる。
になるのは、裏が 回続いてから表が出るときである。
無限個の確率を足しても を超えない。等比級数の和が、ちょうど に収まる。
無限に続く可能性があっても、確率の総和は である。「いつまでも表が出ない」という結果の確率は になる。
とりうる値が可算個であれば、有限のときと同じように確率質量関数で分布を書ける。表が長くなるだけで、扱いは変わらない。
連続的な値をとる確率変数
電球が切れるまでの時間のように、値が切れ目なく続く確率変数もある。この場合は 点の確率がすべて になる。
から の間から一様に つの実数を選ぶ場面を考える。ちょうど になる確率を正の数 とすると、一様なのでどの点の確率も同じ になる。
すると より多くの点を取るだけで、それらの確率の合計が を超えてしまう。点は好きなだけ取れるので、 を正にはできない。
だから連続的な確率変数では、 ではなく区間の確率を考える。密度関数 を用意して、面積として測る。
値が 点に集まらず、確率密度関数の面積として分布が与えられる。
それ自体は確率ではなく、区間で積分してはじめて確率になる関数。値が を超えてもよい。
点の確率が でも、その値が起こらないわけではない。実際にはどれか つの値が出る。確率 と「起こらない」は違う。
累積分布関数はこの場合も使える。離散なら階段、連続なら切れ目のない曲線になり、どちらも同じ つの性質を満たす。
例:本物のさいころの分布
理論の分布は ずつだが、実物のさいころがそのとおりに振る舞うかは別の問題である。
生物学者 W. F. R. Weldon は 1894 年 2 月 2 日付の Francis Galton 宛の手紙で、12 個のさいころを 26,306 回投げた記録を報告した。数えたのは、 か が出たさいころの個数である。
か が出る割合は で、公平なら になるところより高かった。Karl Pearson は 1900 年の論文でこのデータを扱い、ずれが偶然では説明しにくいことを示した。
2009 年に Zacariah Labby がこの実験を自動化し、同じ 26,306 回を再現した。ソレノイドでさいころを跳ね上げ、カメラで撮った画像から目を数える装置である。
Weldon との違いは記録の粗さにある。 か かではなく、各さいころの目そのものを記録した。この違いが結果を分けた。
各面の確率は、 が 、 が 、 が 、 が 、 が 、 が と推定された。 と だけが より高い。
<svg viewBox="0 0 460 220" width="100%" style="max-width:460px;display:block;margin:0 auto">
<text x="48" y="24" font-size="11" fill="#1f1f1f">1 と 6 だけが高く、間の 4 面は低い</text>
<line x1="56" y1="180" x2="420" y2="180" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></line>
<rect x="68" y="78" width="36" height="102" fill="#1b81e0"></rect>
<rect x="124" y="148" width="36" height="32" fill="#1b81e0"></rect>
<rect x="180" y="126" width="36" height="54" fill="#1b81e0"></rect>
<rect x="236" y="134" width="36" height="46" fill="#1b81e0"></rect>
<rect x="292" y="140" width="36" height="40" fill="#1b81e0"></rect>
<rect x="348" y="74" width="36" height="106" fill="#1b81e0"></rect>
<line x1="56" y1="117" x2="404" y2="117" stroke="#d0562a" stroke-width="1" stroke-dasharray="4 4"></line>
<text x="408" y="121" font-size="11" fill="#d0562a">1/6</text>
<text x="86" y="198" font-size="12" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">1</text>
<text x="142" y="198" font-size="12" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">2</text>
<text x="198" y="198" font-size="12" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">3</text>
<text x="254" y="198" font-size="12" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">4</text>
<text x="310" y="198" font-size="12" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">5</text>
<text x="366" y="198" font-size="12" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">6</text>
<text x="48" y="214" font-size="11" fill="#9a9a9a">縦軸は 0.164 から 0.170 の範囲だけを拡大している</text>
</svg>ここで か が出る確率にまとめ直すと になり、公平な場合とほとんど変わらない。 以上か 以下かでまとめても で、やはり偏りが消える。
粗い確率変数を選ぶと、分布の偏りは見えなくなる。Weldon の記録の取り方では、この形の偏りは原理的に検出できなかった。
偏りの原因も、Pearson の見立てとは違っていた。目をくり抜いた分だけ の面が軽くなるという説明なら、確率は から へ単調に増えるはずである。
実際に高かったのは と の両方である。 個のさいころの寸法を測ると、 と を結ぶ軸だけが他の 軸より ほど短く、その 面が他より大きかった。
さいころが違えば分布も違う。同じ実験を再現しても、偏りの向きまで同じになるとは限らない。
例:先頭の数字の分布
実データから確率変数を作ることもできる。数の並びから つを無作為に取り出し、その先頭の桁を とすると、 は から の値をとる。
一様なら各桁の確率は になるはずだが、そうならないデータが多い。先頭の数字の分布が対数の式で近似されることを、Benford の法則という。先頭の数字が になる確率は次の形になる。
| 先頭の数字 | 確率 |
|---|---|
| 1 | 30.1% |
| 2 | 17.6% |
| 3 | 12.5% |
| 4 | 9.7% |
| 5 | 7.9% |
| 6 | 6.7% |
| 7 | 5.8% |
| 8 | 5.1% |
| 9 | 4.6% |
で始まる数が 割ほどを占め、 で始まる数は に満たない。川の長さ、株価、人口、電気料金など、値が何桁にもまたがるデータでよく合う。
一方、身長や IQ のように値が 桁の範囲に収まるデータでは合わない。分布はデータの出所ごとのもので、どんな数の並びにも当てはまる法則ではない。














