黒体放射

空洞の中に立つ波

内側が真っ黒な空洞を用意し、壁を決まった温度に保ちます。中は電磁波で満たされ、壁と熱をやりとりして平衡になります。この中の光がどんな色をしているか、というのがここでの問いです。

壁のところで振幅が 0 にならなければいけないので、中に立てる波は決まったものだけです。図のように、半波長がちょうど整数個おさまるものに限られます。その 1 つずつをモードと呼びます。

モードは、たがいに関わりません。ですから空洞の中身は、独立なモードの寄せ集めとして扱えます。前の章で、独立なら分配関数が掛け算に分かれると見ました。あの形が使えます。

モードの数は、振動数の 2 乗で増える

次に、モードがいくつあるかを数えます。空洞を 3 次元にすると、振動数が \nu から \nu + d\nu までのあいだにあるモードの数は、\nu^2 に比例します。

理由は、前に位相空間を数えたときと同じです。波の向きと波長の組を並べた空間で、\nu 以下のモードは半径 \nu の球の内側にあたります。その球の表面積が \nu^2 に比例するので、薄い殻に入る数もそうなります。

図の曲線がその数です。高い振動数ほど、モードはいくらでも詰め込めます。ここに落とし穴があります。

古典論だと、発散する

古典論を当てます。等分配則によれば、1 つのモードは振動子ですから kT を持ちます。モードの数が \nu^2 で増えるので、振動数あたりのエネルギーは \nu^2 kT になります。

図の薄い曲線がそれです。右へ行くほど大きくなり、頭打ちになりません。全部を足し合わせると無限になってしまいます。空洞をのぞいたら無限のエネルギーが出てくることになり、これはおかしい。紫外破綻と呼ばれた行き詰まりです。

明るい曲線が実際に測られた形です。低い振動数では古典論と合っていますが、途中で山を作って落ちます。古典論のどこが間違っているのかを、次の場面で見ます。

1 つのモードは、振動子である

間違っていたのは、1 つのモードが kT を持つ、というところです。それは等分配則の答えで、前の章で見たとおり、kT が段の間隔をはるかに超えているときにしか成り立ちません。

モード 1 本ぶんは調和振動子です。ですから振動子の記事の答えがそのまま使えて、平均のエネルギーは \dfrac{h\nu}{e^{\beta h\nu} - 1} になります。段の間隔は h\nu で、振動数が高いほど広くなります。

ここが要です。振動数の高いモードは段が広く、kT では届きません。つまり凍りついていて、エネルギーを持てない。モードの数がいくら増えても、そこは使われないので発散しません。

プランクの分布

モードの数に、モード 1 本ぶんのエネルギーを掛ければ答えです。\nu^2 と \dfrac{h\nu}{e^{\beta h\nu} - 1} の積で、これがプランクの分布です。低い振動数では古典論に重なり、高いところでは指数で落ちます。

図は温度を変えたときの形です。温度を上げると山は右へ動き、同時に高くなります。山の位置が温度に比例することはウィーンの変位則と呼ばれ、熱した鉄が赤から白へ変わっていくのは、これで説明できます。

プランクがこの式を書いたのは 1900 年です。エネルギーが飛び飛びだと置かなければ形が合わない、というところから量子論が始まりました。ここでは逆に、量子力学の結果を借りてきて統計力学に通し、同じ式を出したことになります。

確率と多数
ミクロカノニカル分布
カノニカル分布
応用
相転移
量子統計
時間とゆらぎ