前の項目では、答えが 1 つから 3 つに変わるところが転移でした。あの筋道はイジング模型に固有のものに見えます。けれど使ったのは、上下を分ける理由が式にないことと、m という 1 つの数だけでした。
相転移で変わるのは、たいてい 1 つの量です。磁石なら磁化、液体と気体なら密度の差、結晶なら格子のずれ。どれも高温側では 0、低温側では 0 ではありません。この量を秩序変数といいます。
図の左が対称な状態、右が破れた状態です。ランダウがやったのは、模型を解くのをやめて、自由エネルギーを秩序変数だけの関数として書き下すことでした。
転移点の近くでは m が小さいので、F を m のべきで展開できます。書けるのは F = F_0 + am^2 + bm^4 です。
奇数次の項がないのは、全部のスピンを裏返しても F が変わってはいけないからです。m と -m で同じ値でなければならないなら、m や m^3 は残れません。何を書いてよいかを、対称性のほうが決めています。
b は正でなければなりません。負にすると m の大きいところで F がどこまでも下がり、系が落ち着く先を失います。動いてよいのは a だけです。図の曲線は、この a を上下させたものです。
a が正のあいだ、F が最小になるのは m = 0 の 1 か所だけです。a が負になると m = 0 は最小ではなくなり、最小が左右 2 つに分かれます。
図は a を上下させたときの F(m) です。a = T - T_c と置けば、分かれる境目はちょうど T_c になります。a が温度とともに符号を変える、というただ 1 つの仮定がここに入っています。
模型は 1 つも解いていません。書ける形を書き、係数が符号を変えるとしただけです。それでも前の項目で \tanh を解いて出したのと同じ形が出ました。転移の姿は、模型の細かいところに寄っていないということです。
F を m で微分して 0 と置くと 2am + 4bm^3 = 0、つまり m^2 = -a/2b です。a = T - T_c を入れると m \propto (T_c - T)^{1/2} になります。
この 1/2 を臨界指数といい、\beta と書きます。図の曲線がそれで、前の項目のイジング模型で出た形とぴたりと重なります。
ここで a や b が何であるかは 1 度も使っていません。使ったのは対称性と、a が符号を変えることだけです。だとすれば \beta = 1/2 は、模型によらない値のはずです。
ところが実験は \beta = 0.33 ほどを返します。図の 2 本がその違いです。指数が小さいほど立ち上がりは急になるので、T_c のすぐ下では実測のほうが上を通ります。
外れる理由は、m を場所によらない 1 つの数にしたことです。転移点の近くでは、揃った領域と揃っていない領域が大きく揺らぎます。その揺らぎは平均の周りの小さな乱れではなく、平均そのものと同じくらい大きい。
揺らぎが効くかどうかは次元で決まります。次元が高いほど隣が多く、平均で置き換えても足ります。4 次元より上では平均場が正しく、3 次元では外れる。外れる量をどう数えるかが、このあとのくり込みの話になります。