1 次元イジング模型と転送行列

1 列に並べてみる

前の項目までは、平均場が転移を返しました。けれど平均場は、隣を平均で置き換えた近似です。それが当たっているかどうかは、近似を使わずに解ける場合と突き合わせるほかありません。

いちばん確かめやすいのが 1 次元です。スピンを 1 列に並べ、隣り合う組だけを結びます。この形なら、近似を 1 つも使わずに最後まで解けます。

図がその鎖です。温度が 0 でない限り、どこかで向きが変わっています。この「どこかで変わる」ことだけが、この項目の答えを決めます。

端から順に片づける

和を取る相手は 2^N 通りあります。まともに並べられる数ではありません。けれど 1 次元では、1 つのスピンは左右としか結ばれていません。だから端から 1 つずつ片づけていけます。

隣り合う 2 つのあいだの重み e^{\beta J s s'} を、2 \times 2 の並びとして書きます。これを転送行列といい、分配関数はその N 乗の対角和になります。Z = \mathrm{Tr}\, T^N です。

この行列の固有値は \lambda_+ = 2\cosh\beta J と \lambda_- = 2\sinh\beta J の 2 つで、Z = \lambda_+^N + \lambda_-^N になります。N が大きければ、大きいほうだけが残ります。

どの温度でも磁化は 0

残った Z = (2\cosh\beta J)^N から自由エネルギーを取ると、温度のどこにも折れ目がありません。\cosh は滑らかで、\beta のどこででも微分できます。折れ目のないところに転移はありません。

磁化を求めても、外から磁場を掛けない限り、どの温度でも 0 です。図の平らな線がそれで、比べるために平均場の曲線を重ねてあります。

平均場は転移を返し、厳密な計算は返しませんでした。間違っていたのは近似のほうです。では、平均場は何を数え落としたのでしょうか。

境目 1 つの代償

揃った鎖の途中で 1 か所だけ向きを変えると、境目が 1 つできます。エネルギーは 2J だけ上がります。境目のところで結びが 1 つ壊れるからです。ここまでは平均場と同じ見立てです。

ところが、その境目は鎖のどこにでも置けます。置き場所が N 通りあるので、エントロピーは k\log N だけ増えます。平均場が数えていなかったのは、この置き場所の数です。

自由エネルギーの変化は 2J - kT\log N です。N を大きくすれば、どんなに低い温度でも第 2 項が勝ちます。境目は必ず入り、揃った状態は保てません。図の 2 本の交点が、境目が入りはじめる大きさです。N が無限なら、その温度は 0 まで落ちます。

次元が効く

2 次元では、境目は点ではなく線になります。長さ L の境目を作る代償は 2JL で、長さに比例して増えます。

置き方の数も増えます。境目は 1 歩ごとに何通りかへ分かれるので、エントロピーはおよそ kL\log 3 です。つまりエネルギーもエントロピーも L に比例する。勝ち負けは系の大きさでは決まらず、温度だけで決まります。

だから 2 次元では、ある温度より下で境目が入らなくなり、転移が起こります。1 次元と 2 次元を分けたのは、境目の代償が系の大きさとともに増えるかどうかでした。平均場が 1 次元で外れたのは、この境目を 1 度も数えていなかったからです。前の項目で「揺らぎが効くかどうかは次元で決まる」と書いたのは、このことです。

確率と多数
ミクロカノニカル分布
カノニカル分布
応用
相転移
量子統計
時間とゆらぎ