温度を下げていくと、上の準位に居る割合は e^{-\varepsilon/kT} で消えていきます。kT が準位の間隔より小さくなると、上へ持ち上げる元手がなくなります。
図がその移り変わりです。温度を下げるほど、粒子は下の準位へ集まっていきます。T が 0 に近づけば、全部が基底状態に居ることになります。
状態が 1 つに決まってしまう。エントロピーは状態の数え上げでしたから、ここまで来ると、エントロピーがどうなるかを言わずには済みません。
全部が基底状態に居るなら、取りうる配置は 1 通りです。W = 1 なので S = k\log 1 = 0 になります。
図が S(T) です。温度を下げていくと 0 へ落ちます。これが熱力学の第三法則で、ネルンストが実験から見つけたものを、統計力学は数え上げからそのまま返します。
大事なのは、この 0 が選んだ基準ではないことです。数え上げから出た 0 なので、どんな物質でも、どんな圧力でも同じ 0 です。だからエントロピーには、エネルギーと違って絶対の値があります。
基底状態が 1 つとは限りません。同じいちばん低いエネルギーを持つ状態が g 個あれば、N 個の粒子について W = g^N です。
そのときのエントロピーは S = Nk\log g で、0 にはなりません。図の 2 本のうち、下がりきらないほうがそれです。残留エントロピーといいます。
氷がその例です。酸素の位置は決まっても、水素の置き方に自由が残るので、0 へ落ちきりません。ポーリングが数え上げた値と、測った値が合いました。第三法則が言っているのは「0 になる」ではなく、「基底状態の数だけで決まる値になる」です。
S が 0 に近づくなら、その傾きから出る熱容量も 0 に近づかなければなりません。0 でない熱容量が残っていれば、そのぶん S が下がりきらないからです。
図の 2 本がそれです。格子の振動なら T^3、金属の電子なら T で落ちます。デバイの項目とフェルミ気体の項目で、別々に出したものです。導き方は違いますが、どちらも 0 へ行きます。
古典論では、熱容量は温度によらない定数でした。等分配則が 3Nk と返します。それが低温で破れるのは、準位が飛び飛びだからです。第三法則は、量子論なしには成り立ちません。
断熱消磁という冷やし方があります。磁場を掛けてスピンを揃え、そのあと熱のやり取りを切って磁場を抜く。抜くと、揃っていたスピンが乱れる代わりに温度が下がります。
図がその繰り返しです。磁場のある場合とない場合の S(T) を 2 本引き、そのあいだを階段状に降りていきます。横へ動くのが磁場を掛けるところ、下へ落ちるのが磁場を抜くところです。
ところが 2 本は T = 0 で同じ点に集まります。どちらも 0 へ落ちるからです。だから 1 回ごとの降り幅は小さくなり続け、何回繰り返しても有限の回数では 0 に着きません。絶対零度に到達できない、というのはこの形のことです。到達できないことまで、S が 0 へ落ちるという 1 つのことから出ています。