モンテカルロ法とメトロポリスの受け入れ

並べきれない

イジング模型を厳密に解けるのは、1 次元と、磁場のない 2 次元だけです。3 次元では誰も解けていません。解けないなら数え上げればよさそうですが、そちらも通りません。

N 個のスピンの配置は 2^N 通りあります。図がその増え方で、10 \times 10 の格子でもすでに 2^{100} です。宇宙にある原子の数より多く、1 秒に何兆通り数えても終わりません。

けれど、欲しいのは平均です。平均を出すのに全部を数える必要はありません。起こりやすい配置から順に、いくつか拾ってくれば足ります。問題は、起こりやすい配置をどうやって拾うかです。

行きと戻りを釣り合わせる

配置から配置へ移る規則を作ります。長く回したときに、配置 a に居る割合が e^{-\beta E_a} に比例していてほしい。そうなるように移り方を選びます。

そのための十分な条件が P(a)W(a \to b) = P(b)W(b \to a) です。a から b へ流れる量と、b から a へ戻る量が、どの組についても釣り合っている。これを詳細つり合いといいます。

図の 2 本の矢印がそれです。太さが流れる量で、居る割合の大きいほうからは細い矢印、小さいほうからは太い矢印が出ます。釣り合っていれば、割合はもう動きません。そこが目指す分布です。

受け入れ方を決める

詳細つり合いを満たす移り方はいくつもありますが、いちばん簡単なのがメトロポリスの受け入れ方です。スピンを 1 つ選んで裏返し、エネルギーの変化 \Delta E を見ます。

下がるなら必ず受け入れる。上がるなら e^{-\beta\Delta E} の確からしさで受け入れる。まとめて書けば \min(1, e^{-\beta\Delta E}) です。図がその形です。

低温では、上がる向きはほとんど受け入れられません。高温ではほとんど受け入れられます。温度が入ってくるのはこの 1 か所だけで、あとは全部ここから決まります。エネルギーの下がる向きだけを受け入れると、いちばん低い配置で止まってしまい、有限の温度の平均になりません。上がる向きを受け入れることが要ります。

取り替えていく

でたらめな配置から始めて、この受け入れ方でスピンを次々に取り替えたのが図です。温度は臨界温度より下に取ってあります。

はじめは上と下が細かく入り混じっています。回すうちに同じ向きの領域が育ち、境目が動いて、やがて片側が広がっていきます。前に平均場で出した「どちらかへ倒れる」が、ここでは目に見える形で起きます。

1 回ごとに見れば、エネルギーの上がる向きも受け入れています。それでも全体としては下がっていく。e^{-\beta\Delta E} という重みが、その偏りを作っています。

平衡へ近づく

図はそのあいだのエネルギーです。はじめに大きく落ち、あるところから落ちなくなります。落ちなくなったところが平衡です。

平衡に入っても、線は止まりません。細かく上下し続けています。これが揺らぎで、その大きさは「エネルギーはどれだけ揺らぐか」で見たとおり、熱容量に結びついています。揺らぎが見えるのは、この方法が有限の大きさの系を回しているからです。

落ちきる前の部分は平衡ではないので、平均を取るときには捨てます。どこまで捨てればよいかを、この方法は自分では教えてくれません。それでも、解けない模型の答えを数で取れるようになりました。3 次元イジング模型の \beta = 0.33 も、こうして求められたものです。

確率と多数
ミクロカノニカル分布
カノニカル分布
応用
相転移
量子統計
時間とゆらぎ