デバイの模型

原子は、別々には揺れない

前の記事で、固体を 3N 個の振動子とみなしました。アインシュタインの模型です。高温でデュロン・プティの 3R が出て、低温では比熱が落ちる。そこまでは合っていました。ただし落ち方が実測より急でした。

急すぎる理由は、置き方にあります。3N 個の振動子がどれも同じ振動数を持つ、と置いたところです。図の上の列がそれで、原子はめいめい勝手に揺れています。

ところが実際の原子は、隣とばねでつながっています。1 個を動かせば隣が引かれます。図の下の列がそれで、揺れは 1 個ずつのものではなく、列全体を渡る波になります。波長が違えば振動数も違うので、振動数が 1 種類で済むはずがありません。

格子の波を、モードで数える

波として扱うなら、数え方は空洞の光と同じになります。両端を止めた列に立てられる波は決まったもので、半波長が整数個ちょうどおさまるものだけです。その 1 つずつをモードと呼びます。

図は波の番号を 1 つずつ上げていったところです。番号が上がるほど波長は短く、振動数は高くなります。両端の縦棒が止めてあるところで、ここが動かないことが、立てられる波を決めています。

数え方が同じなら、数も同じ形になります。振動数が \omega から \omega + d\omega のあいだにあるモードの数は、\omega^2 に比例します。黒体放射の記事で数えたのと、まったく同じ勘定です。

ただし、モードには上限がある

光と 1 つだけ違うところがあります。光のモードはいくらでも高いところまでありますが、固体のモードには上限があります。

理由は数です。原子が N 個あって、それぞれ 3 方向に動けるのですから、独立に動ける向きは全部で 3N しかありません。ですからモードも 3N 本で打ち切りです。波長がいちばん短いところは隣り合う原子が逆向きに動く波で、それより細かい波は原子の並びに乗りません。

図の塗ったところがその 3N 本です。打ち切る振動数をデバイ振動数 \omega_{\mathrm{D}} といいます。薄い曲線は、打ち切らずに伸ばしたときの姿で、光ならこちらです。紫外破綻が固体で起こらないのは、そもそも高いモードが無いからです。

低温では、T^{3} で落ちる

低温を見ます。段の間隔はモードごとに違い、振動数が高いモードほど広くなります。前の記事のとおり、kT が段の間隔に届かないモードは凍りつきます。

ですから動けるのは、\omega が \dfrac{kT}{\hbar} より低いモードだけです。図の塗ったところがその範囲で、温度を上げると横へ広がります。

モードの数は \omega^2 で増えるので、その範囲に入る数は横幅の 3 乗、つまり T の 3 乗で増えます。その 1 本ずつが kT ほどを持つので、エネルギーは T の 4 乗になり、比熱はそれを微分して T の 3 乗です。デバイの T^{3} 則です。

実測に合うのは、こちら

図はデバイとアインシュタインを並べたものです。高温ではどちらもデュロン・プティの 3R に重なります。kT がどのモードの段の間隔も超えてしまえば、数え方の違いは見えなくなるからです。

違いが出るのは低温です。アインシュタインは振動子が 1 種類しかないので、その段が凍りついた時点で指数で落ちます。デバイには振動数の低いモードがいくらでも残っているので、落ち方はゆるく T^{3} になります。実測に合うのはデバイのほうです。

ここで効いたのは、原子を別々に見るか、つながったものとして見るか、その 1 点だけでした。分配関数の使い方も、凍りつきの理屈も、前の記事から何ひとつ変えていません。数え方を直すだけで実測に届く、という例です。次の章では粒子の数まで動かして、量子統計へ進みます。

確率と多数
ミクロカノニカル分布
カノニカル分布
応用
相転移
量子統計
時間とゆらぎ