ここまで、粒子には札が付いているものとして数えてきました。1 本目の記事で、左に n 個いる分かれ方を数えたときがそうです。どの粒子が左かで別の状態だと数えました。
ところが同じ種類の粒子には、札が付きません。電子と電子を入れ替えても、入れ替えたことすら分からない。図の上の段は札を付けて数えたもの、下の段は札を外したものです。真ん中の 2 つが、下では 1 つに潰れています。
数え方が変われば答えも変わります。ここから先は、この潰れたほうで数えます。
見分けられない粒子は 2 種類に分かれます。1 つの準位に 1 個までしか入れないものと、いくつでも入れるものです。前者をフェルミ粒子といいます。電子や陽子がこれにあたります。
準位 1 本ぶんの大分配関数を書いてみます。入っている数は 0 か 1 のどちらかですから、\Xi_i = 1 + e^{-\beta(\varepsilon - \mu)}、それだけです。前に扱った二準位系とまったく同じ形になりました。
平均の占有数は \langle n \rangle = \dfrac{1}{e^{\beta(\varepsilon - \mu)} + 1} です。図は絶対零度に近いところから温めていったところで、低温では \mu より下がぎっしり埋まり、上は空です。温度を上げると、その境目だけが kT の幅でぼやけます。
もう一方をボース粒子といいます。光子やヘリウム 4 の原子がこれにあたります。1 つの準位に何個でも入れます。
準位 1 本ぶんの大分配関数は、0 個・1 個・2 個…… と足していくことになります。これは公比 e^{-\beta(\varepsilon - \mu)} の等比級数で、振動子のときとまったく同じ計算です。\Xi_i = \dfrac{1}{1 - e^{-\beta(\varepsilon - \mu)}} となります。
平均の占有数は \langle n \rangle = \dfrac{1}{e^{\beta(\varepsilon - \mu)} - 1} です。図のとおり、下の準位ほど何個も積み上がります。\varepsilon が \mu に近づくと占有数はいくらでも大きくなるので、\mu はいちばん下の準位より上には行けません。この縛りが、あとでボース凝縮を生みます。
2 つの答えを並べます。分母が +1 ならフェルミ、-1 ならボース。違いはそれだけです。入れる数が 0 と 1 だけか、いくらでもか、という数え方の違いが、この符号 1 つに畳み込まれています。
図の 3 本は、横軸を \varepsilon - \mu に取って並べたものです。真ん中の薄い曲線は、符号を取り去った e^{-\beta(\varepsilon - \mu)}、つまり札を付けて数えたときのボルツマン分布です。
左のほう、\varepsilon が \mu に近いところでは 3 本が大きく離れます。フェルミは 1 で頭打ち、ボースは天井知らず、ボルツマンはそのあいだです。
右のほう、\varepsilon - \mu が kT よりずっと大きいところを見ます。e^{\beta(\varepsilon - \mu)} が 1 よりはるかに大きいので、分母の \pm 1 はあってもなくても変わりません。3 本はぴたりと重なります。
これは占有数が 1 よりずっと小さいということでもあります。どの準位もほとんど空なら、1 つに何個まで入れるかという取り決めが効いてきません。席がいくらでも空いている部屋では、相席の規則を決めても意味がないのと同じことです。
図の 2 枚は、低温と高温での同じ 3 本です。右では見分けが付かなくなっています。常温常圧の空気が古典論でうまく扱えたのは、この薄い側にいたからです。逆に、金属の中の電子や冷やしきった気体は濃い側にいて、そちらがこの先の記事です。