理想気体のマクスウェル分布と状態方程式

速度の 1 成分は、釣鐘の形

箱の中の気体を相手にします。分子どうしはぶつかるだけで、引き合いも押し合いもしないとします。このとき 1 個の分子の持つエネルギーは運動エネルギーだけで、\dfrac{1}{2}m(v_x^2 + v_y^2 + v_z^2) です。

成分ごとの運動エネルギーを \varepsilon_x = \dfrac{1}{2}mv_x^2 と書きます。ボルツマン因子へ入れると、確率は e^{-\beta\varepsilon_x} などの積になります。指数の肩が足し算なので、3 つの成分は掛け算に分かれます。つまり成分ごとに独立で、それぞれが同じ形の分布を持ちます。

図がその 1 成分ぶんです。0 を中心にした釣鐘の形で、右へも左へも同じだけ広がります。止まっているのがいちばん起こりやすい、というのは妙に聞こえますが、これは速度の 1 成分の話です。速さのほうは、次の場面で形が変わります。

速さには、向きの数が掛かる

速さ v が同じ分子は、向きが違うだけたくさんあります。速度空間で言えば、半径 v の球面の上のどこにいてもよい。その球面の広さは v^2 に比例します。

ですから速さの分布は、釣鐘の形に v^2 を掛けたものになります。図の薄い曲線が釣鐘、右上がりの直線めいた曲線が v^2、明るい曲線がその積です。マクスウェル分布といいます。

v^2 のおかげで、v = 0 のところは押し下げられます。いちばん起こりやすい速さは 0 ではなく、山の頂上のところへ移ります。止まっている分子はほとんどいない、というのはこの意味です。

温度を上げると、山は右へ動いて低くなる

温度を上げると、ボルツマン因子の裾が伸びて、速い分子が出てきます。山の頂上は右へ動きます。

いっぽうで山は低くなります。分子の総数は変わらないので、曲線の下の面積はいつも同じでなければなりません。横へ広がったぶんだけ、縦が下がることになります。

図の薄い 3 本が温度の両端と真ん中、明るい 1 本がいまの温度です。低温では細く高い山が左に寄り、高温では低く広い山が右まで裾を引きます。

平均の運動エネルギーは、温度そのもの

分布が分かったので、平均を取ります。成分 1 つあたりの平均が \dfrac{1}{2}kT、3 成分で\langle E \rangle = \dfrac{3}{2}kT です。

質量が入っていないところが大切です。重い分子も軽い分子も、同じ温度なら同じ運動エネルギーを持ちます。軽いぶんだけ速く動いて、帳尻を合わせています。

図は温度に対する平均のエネルギーで、原点を通る直線です。温度とはエネルギーそのものだ、と言ってしまってよい関係で、k はここでも単位を合わせているだけです。この形がどこまで一般に成り立つかは、次の記事で扱います。

壁を叩くと、状態方程式が出る

最後に圧力です。分子が壁にぶつかって跳ね返るたび、壁は 2mv_x だけの運動量を受け取ります。それが単位時間にどれだけ積もるかが、そのまま力です。

図の矢印がその 1 回ぶんです。単位時間に壁へ届く分子の数は、密度と v_x の積に比例します。ですから力は v_x^2 の平均に比例することになり、そこへ前の場面の \langle v_x^2 \rangle = \dfrac{kT}{m} を入れます。

出てくるのは pV = NkT です。実験から見つかった気体の法則が、分子が壁を叩く回数を数えるだけで出てきました。ここまでの道具立てが、確かに現実へつながっていることの確かめでもあります。

確率と多数
ミクロカノニカル分布
カノニカル分布
応用
相転移
量子統計
時間とゆらぎ