ミクロカノニカルでは、どの状態も同じだけ起こりました。ですから 1 つあたりの確率は \dfrac{1}{W} と書けて、エントロピーも状態の数を数えるだけの S = k \log W で済みました。
カノニカルではそうはいきません。状態ごとに確率が \dfrac{e^{-\beta E_i}}{Z} と違うので、何本あるかを数えても、この形は言い当てられません。
図の左がミクロカノニカル、右がカノニカルです。左はどの棒も同じ高さで、右は高さがばらばらです。S = k \log W が使えるのは左だけで、右にはまだエントロピーの式がありません。
そこでこう書きます。S = -k \displaystyle\sum_{i} P_i \log P_i。ギブスのエントロピーといいます。状態を 1 つずつ見て、その確率で重みをつけながら足していく形です。
図の薄い棒が確率、明るい棒がその状態の持ち込むぶん -P_i \log P_i です。確率が 1 に近い状態は \log P_i が 0 に近いので小さく、確率が 0 に近い状態は P_i そのものが小さいので、やはり小さくなります。
いちばん効くのは中くらいのところです。つまり、どこに居るか決めきれない状態ほど、エントロピーを大きくします。「散らばりの大きさ」という言い方が指しているのは、この重みのつき方です。
この式が前のものと食い違っていないかを確かめます。ミクロカノニカルの置き方、つまり W 個の状態がどれも \dfrac{1}{W} の場合を入れてみます。
図のとおりです。同じ項が W 個並ぶので、和は \dfrac{1}{W} \log \dfrac{1}{W} を W 倍したものになり、S = k \log W が出ます。
つまり新しい式で古い式を置き換えたのではありません。古いほうが、どの状態も同じ確率という特別な場合だった、ということです。ギブスの式は、確率さえ決まればどんな置き方にも使えます。
次に、カノニカルの確率を入れてみます。\log P_i = -\beta E_i - \log Z なので、対数を取ると指数の肩が降りてきます。
これを和に戻すと、残るのは平均のエネルギーと \log Z の 2 つだけです。S = k\beta \langle E \rangle + k \log Z となります。図はその 4 行です。
最後の行を書き直すと F = \langle E \rangle - TS です。分配関数の記事では、F = -kT \log Z を結果として置くだけでした。ここでようやく、その式が熱力学の F = E - TS と同じものだと確かめられたことになります。
最後に、温度で何が変わるかを見ます。図は準位が 2 つだけの系のエントロピーです。
低温では 0 です。下の準位に居ると決まっているので、決めきれないところがありません。温度を上げると上の準位も使われはじめ、エントロピーが立ち上がります。高温では上下が半々になり、\log 2 へ寄ります。
\log 2 を越えることはありません。状態が 2 つしかないからです。状態の数がエントロピーの上限を決め、確率の偏りがそこからどれだけ下がるかを決める。ギブスの式は、その 2 つを 1 行にまとめたものです。次の章では、この道具立てを身近な系に当てていきます。