カノニカルでは、エネルギーをやりとりする代わりに温度が決まりました。ここではもう一歩進めて、粒子そのものも出入りできることにします。
図の壁には穴が開いていて、粒子は外との行き来ができます。系の中の粒子の数 N は、もう決まっていません。代わりに決まっているのは、外側の混み具合のほうです。
なぜこんな置き方をするのかというと、そのほうが解きやすくなる場面があるからです。量子統計がまさにそれで、粒子の数を固定したままでは、同じ粒子を見分けずに数えるという厄介な作業が残ります。この置き方にすると、その厄介がきれいに消えます。
温度がエネルギーのやりとりを取り仕切ったように、粒子のやりとりを取り仕切る量が要ります。それが化学ポテンシャル \mu です。
意味は素直で、粒子を 1 個足すときに要るエネルギーです。正確には、エントロピーを変えずに 1 個足すのに要るぶんです。図の梯子は、粒子を 1 個ずつ足していったときの全体のエネルギーで、1 段上がる高さが \mu にあたります。
温度が高いほうから低いほうへ熱が流れたように、化学ポテンシャルの高いほうから低いほうへ粒子が流れます。2 つが等しくなったところが、粒子のやりとりについての平衡です。
カノニカルの重みは e^{-\beta E} でした。同じ筋道を粒子の出入りについてもたどると、重みは e^{-\beta(E - \mu N)} になります。グランドカノニカル分布といいます。
肩に -\mu N が加わったところが要です。粒子を 1 個増やすと、その状態の重みは e^{\beta\mu} 倍になります。\mu が大きいほど、粒子の多い状態が起こりやすくなる、ということです。
図の格子は、エネルギーと粒子の数の両方で状態を並べたものです。色の濃さがその重みで、右へ行くほど、下へ行くほど濃くなったり薄くなったりします。\mu を動かすと、濃いところが左右に移ります。
重みを全部の状態について足したものが、この置き方での分配関数です。\Xi = \displaystyle\sum_{i} e^{-\beta(E_i - \mu N_i)} と書き、大分配関数といいます。
使い方はカノニカルとそっくりです。\log \Xi を \beta で微分すればエネルギーが、\mu で微分すれば粒子の数の平均が出ます。図はその筋道を 1 行ずつ並べたものです。
つまり、やることは変わりません。足すものが 1 つ増えただけで、その先の道具立ては同じです。
ここからが、この置き方を選んだ理由です。粒子どうしが関わらないなら、系全体の状態は「どの準位に何個入っているか」で決まります。
そして粒子の数を固定しないので、準位ごとの入り具合をばらばらに決めてよいことになります。固定していたら「合計が N になるように」という縛りが残り、準位を切り離せませんでした。
ですから大分配関数は、準位ごとの小さな和の積に分かれます。図がその切り分けで、あとは準位 1 本ぶんを解けば済みます。その 1 本ぶんが、次の記事のフェルミ分布とボース分布です。