ふつうの系には、エネルギーの上限がありません。気体なら分子をいくらでも速くできますし、振動子なら振幅をいくらでも大きくできます。
ところが、二準位系には上限があります。全部の粒子を上の準位へ上げてしまえば、それ以上は入りません。エネルギーは 0 から N\varepsilon までのあいだに閉じています。
図がその系です。上に天井がある。たったそれだけのことから、温度の意味が途中で変わります。この項目は、温度の定義をそのまま押していくとどこへ行くのか、という話です。
N 個のうち n 個が上の準位に居る状態は C(N, n) 通りあり、そのエネルギーは n\varepsilon です。数え上げは二項係数そのものです。
図がその形です。E が 0 のときも N\varepsilon のときも、並べ方は 1 通りしかありません。真ん中でいちばん多くなります。
ふつうの系では、状態数はエネルギーとともに増え続けます。ここでは、途中から減りはじめます。上に天井があるとは、こういうことです。
温度の定義は \dfrac{1}{T} = \dfrac{\partial S}{\partial E} でした。S = k\log W なので、図の曲線の傾きがそのまま 1/T です。
左半分では傾きが正なので、T は正です。頂上では傾きが 0 になり、1/T が 0、つまり T が無限大になります。
右半分では傾きが負になります。エネルギーを入れると、かえって状態数が減る。だから 1/T が負、T が負です。妙な結論に見えますが、定義を書き換えたところは 1 か所もありません。
負の温度は、絶対零度より冷たいのではありません。無限大より熱いのです。
図は \beta = \dfrac{1}{kT} をエネルギーに対して描いたものです。左端の大きな正の値から下がってきて、頂上で 0 を通り、右端で大きな負の値へ行きます。途中で飛ぶところは 1 つもありません。飛ぶのは T のほうで、+\infty から -\infty へ跳びます。\beta で見れば、そんな跳びはありません。
熱いか冷たいかは \beta の順に並びます。\beta が小さいほど熱い。正の温度、無限大、負の温度、の順です。負の温度の系を正の温度の系につなげば、熱は負のほうから正のほうへ流れます。
磁場の中のスピンは二準位系です。磁場と同じ向きが低い準位、逆向きが高い準位で、平衡では低いほうに多く居ます。
ここで磁場を素早く反転させると、上と下の意味が入れ替わります。スピンが向きを変える暇がないうちに、多く居るほうが高い準位になってしまう。これを反転分布といい、図の右がその状態です。この系の温度は負です。
1951 年にパーセルとパウンドが、フッ化リチウムの核スピンでこれを作りました。レーザーが光を出すのも、同じ反転分布があるからです。上に天井のある系にだけ許された話で、気体では作れません。