前の記事で、フェルミ粒子は 1 つの準位に 1 個までしか入れないと見ました。この決まりが効いてくるのは、粒子がぎっしり詰まっているところです。金属の中の電子がそれで、この集まりをフェルミ気体と呼びます。
電子を 1 個ずつ入れていきます。図のとおり、下の準位から順に埋まります。同じ準位に 2 個目は入れないので、先客がいれば次の電子は上へ行くしかありません。N 個入れれば、下から N 本の準位が埋まります。
埋まりきった高さをフェルミエネルギー \varepsilon_{\mathrm{F}} といいます。ボース粒子ならすべていちばん下へ落ちるところが、フェルミ粒子では落ちられません。絶対零度でも、電子は \varepsilon_{\mathrm{F}} までの運動エネルギーを持ったままです。
\varepsilon_{\mathrm{F}} がどれだけになるかは、数えれば出ます。運動量空間で数えると、原点に近いところから順に詰まっていき、埋まったところの境目が球面になります。その半径をフェルミ運動量 p_{\mathrm{F}} といいます。図はその断面です。
状態の数は球の体積に比例するので、N は p_{\mathrm{F}} の 3 乗に比例します。ですから p_{\mathrm{F}} は \dfrac{N}{V} の \dfrac{1}{3} 乗、エネルギーはその 2 乗なので、\varepsilon_{\mathrm{F}} は \dfrac{N}{V} の \dfrac{2}{3} 乗に比例します。
効いてくるのは混み具合だけで、温度はどこにも入っていません。金属では電子が 1 立方センチに 10^{22} 個ほど詰まっていて、\varepsilon_{\mathrm{F}} は数電子ボルトになります。温度に直すと 10^{4} ケルビンの桁です。金属が溶けてもまるで届きません。
ここへ温度を入れます。占有数は前の記事のフェルミ分布\dfrac{1}{e^{\beta(\varepsilon - \mu)} + 1} で、絶対零度では \varepsilon_{\mathrm{F}} を境にした階段でした。
図は温度を上げていったところです。動くのは階段の角だけで、ぼやける幅は kT ほどです。深いところの電子は動けません。上がろうにも、少し上の準位がすべて埋まっているからです。空いている席は \varepsilon_{\mathrm{F}} の近くにしかありません。
ここがフェルミ気体のいちばんの特徴です。電子が 10^{23} 個いても、温度に応じて動けるのは\dfrac{kT}{\varepsilon_{\mathrm{F}}} ほどの割合だけです。室温の金属では 100 分の 1 にも届きません。
比熱を出します。熱を受け取れるのは境目に居る電子だけで、その割合は \dfrac{T}{T_{\mathrm{F}}} です。T_{\mathrm{F}} はフェルミ温度で、\varepsilon_{\mathrm{F}} = kT_{\mathrm{F}} で決めます。
その電子 1 個が k ほどを受け取るので、比熱は電子 1 個あたりk\dfrac{T}{T_{\mathrm{F}}} の桁になります。きちんと積分すると係数が付いて \dfrac{\pi^2}{2}k\dfrac{T}{T_{\mathrm{F}}} です。大事なのは係数ではなく、温度に比例するという形のほうです。
図の横線が等分配則の答え \dfrac{3}{2}k です。古典論なら電子 1 個が 3 方向ぶんの運動エネルギーを持ち、温度によらない平らな線になるはずでした。実際はそこへまるで届かず、しかも原点を通る直線になります。
デュロン・プティの法則は、固体の比熱を 3R とします。原子の振動だけを数えた答えです。金属には自由に動く電子が原子とほぼ同じ数だけいるのに、そのぶんが足されていません。古典論で数えれば、電子だけで \dfrac{3}{2}R が足されるはずです。
前の場面の答えが、その理由です。図の右の棒が室温での電子の比熱で、左の等分配則の答えにまるで届きません。\dfrac{T}{T_{\mathrm{F}}} が 10^{-2} の桁なので、電子は古典論が言うぶんの 1\% ほどしか受け取れません。測ってもほとんど見えないので、原子の振動だけを数えた法則のほうが合ってしまいます。
ただし消えてしまうわけではありません。温度を下げると、格子の振動のぶんはデバイの記事で見たとおり T^{3} で落ちます。いっぽう電子のぶんは T でしか落ちません。数ケルビンまで冷やせば電子のほうが残り、比熱を測るとこの直線が現れます。次はボース粒子の側へ戻り、空洞に閉じこめた光を数えます。