エネルギーのゆらぎと比熱

増える側と減る側が、山を作る

カノニカルでは系のエネルギーが決まっていません。では実際にはどのあたりの値を取るのか。それを決めるものが 2 つあります。

1 つは状態の数です。エネルギーが高いほど状態は猛烈に増えます。図の上がっていく曲線です。もう 1 つはボルツマン因子で、こちらは高いほど指数で小さくなります。下がっていく曲線です。

実際に見えるエネルギーは、この 2 つの積に比例します。増える側と減る側を掛け合わせると、図の下のように山ができます。系のエネルギーは決まっていませんが、この山の外へはまず出ません。

粒子が多いほど、山は鋭い

山の幅は、粒子の数が増えるとどうなるか。結論から言えば、平均に対する割合で見た幅が \dfrac{1}{\sqrt{N}} で縮みます。この本の 1 本目とまったく同じ形です。

図は横軸を平均で割って取ってあります。粒子の数を増やすと、山は平均のまわりへ張りついていきます。

理由も 1 本目と同じです。エネルギーは N 個の粒子の持ちぶんを足したもので、足し合わせる数が増えるほど、合計は平均のまわりへ集まります。10^{23} 個ともなれば、決まっていないはずのエネルギーが、事実上 1 つの値になります。

ゆらぎの大きさを測る

山の広がりを数で言うには分散を使います。\langle E^2 \rangle - \langle E \rangle^2 で、その平方根が図に描いた幅です。

これも分配関数から出ます。前の記事で \log Z を \beta で 1 回微分すると平均が出ました。もう 1 回微分すると、今度は分散が出ます。\langle E^2 \rangle - \langle E \rangle^2 = \dfrac{\partial^2 \log Z}{\partial \beta^2} です。

1 回目が中心、2 回目が広がり。分配関数を微分していくだけで、分布の形が順に出てくることになります。

ゆらぎと比熱は、同じ量

いま出た分散を、温度の側から書き直します。\beta での微分を T での微分に直すと\langle E^2 \rangle - \langle E \rangle^2 = kT^2 C となります。C は比熱、つまり温度を 1 上げるのに要る熱です。

左辺は、放っておいたときに勝手に揺れる幅です。右辺は、外から熱を与えたときの応答です。性質のまるで違う 2 つが、同じ量だと言っています。

図は \langle E \rangle の温度に対する曲線と、そのまわりに広がるゆらぎの帯です。曲線が急に立ち上がるところでは、帯も太くなります。よく揺れる系はよく熱を吸う。これはゆらぎと応答をつなぐ関係の、いちばん簡単な例です。

どちらの置き方でも、同じ答えになる

ここまでで、置き方が 2 つ出てきました。エネルギーを固定するミクロカノニカルと、温度を固定するカノニカルです。どちらが正しいのでしょうか。

図は、カノニカルでのエネルギーの分布と、ミクロカノニカルで固定した 1 つの値を重ねたものです。粒子の数を増やすと、分布はその 1 本の線へ張りついていきます。

つまり答えは、どちらでも同じ、です。N が大きければ違いは \dfrac{1}{\sqrt{N}} の桁でしかなく、測れません。ですから解きやすいほうを選べばよいことになります。たいていはカノニカルのほうが解きやすく、次の章でもそちらを使います。

確率と多数
ミクロカノニカル分布
カノニカル分布
応用
相転移
量子統計
時間とゆらぎ