ここまでの系はどれも、粒子が互いに力を及ぼしませんでした。ここで初めて相互作用を入れます。格子の各点に上か下かを向く矢印を置き、隣どうしが揃っていればエネルギーが下がる、という約束だけを与えます。式は E = -J \sum s_i s_j で、和は隣り合う組について取ります。
図の格子がそれです。揃った配置と乱れた配置を交互に出しています。揃っているほうがエネルギーは低く、乱れているほうが状態数は多い。どちらが勝つかは、これまでと同じで温度が決めます。
つまり F = E - TS の E と TS の勝ち負けです。低温では E が勝って揃い、高温では TS が勝って乱れる。その入れ替わりが、ある温度で急に起こります。それが相転移です。
隣どうしが結びついていると、1 つのスピンを決めるのに周りを全部知らなければなりません。その周りもまた別の周りに縛られていて、このままでは解けません。そこで、周りのスピンを 1 つずつ見るのをやめ、平均 m で置き換えてしまいます。
図の左が実際の周り、右が置き換えたあとです。中央のスピンが感じるのは h = Jzm という 1 つの場だけになりました。z は隣の数で、正方格子なら 4 です。
多体の問題が 1 体の問題になりました。形は前に解いた二準位系とまったく同じです。ただ 1 つだけ違うところがあって、場 h の中に m が入っています。答えを出すために答えが要る、という形になっています。
二準位系の答えをそのまま使うと m = \tanh(\beta J z m) になります。温度を kT_c = Jz を 1 とする目盛りで測れば、m = \tanh(m/T) と書けます。左辺の m と右辺の m は同じものです。
図は左辺の直線と右辺の曲線を重ねたものです。交点が答えで、温度を動かすと曲線の立ち上がりだけが変わります。
高温では曲線が寝ていて、交点は原点しかありません。温度を下げると原点での立ち上がりが急になり、あるところで原点の外に 2 つの交点が現れます。答えが 1 つから 3 つに変わる。その境目が転移点です。
曲線が原点で直線を追い越すのは、原点での傾きが 1 になったときです。\tanh(m/T) の原点での傾きは 1/T なので、境目は T = 1、つまり kT_c = Jz です。転移の温度が、相互作用の強さと隣の数だけで決まりました。
図はそこから出た自発磁化です。T_c より上では 0 のまま、下では立ち上がって、温度を下げるほど 1 に近づきます。
立ち上がり方は T_c のすぐ下で m \propto (T_c - T)^{1/2} です。平方根なので、T_c での傾きは無限大になります。温度をほんのわずか下げただけで磁化が現れる、ということです。
原点の外に現れる交点は 2 つです。+m と -m で、エネルギーもエントロピーもまったく同じです。図の 2 本の枝がそれです。
元の E = -J \sum s_i s_j には、上と下を分ける理由が 1 つもありません。全部のスピンを裏返しても式は変わらない。それでも T_c の下では、系はどちらか一方を選びます。どちらを選ぶかは決まらないが、選ぶこと自体は決まっている。
式が持っている対称性を、答えのほうが持たない。これを対称性の破れといいます。数え上げと F = E - TS の勝ち負けだけから、磁石が磁石になる温度が出てきました。ここから先の章は、この形をくり返し使います。