気体の入った箱を仕切り、真ん中に小さな扉を置きます。扉のそばに、分子を 1 つずつ見分けられる何かが居るとします。マクスウェルが 1867 年に考えた設定で、のちに悪魔と呼ばれるようになりました。
速い分子が左から来たら扉を開けて右へ通す。遅い分子が右から来たら開けて左へ通す。それ以外は閉じたままにします。扉そのものは軽く、開け閉めに仕事は要らないことにします。
図がその働きです。右に速いもの、左に遅いものが溜まっていきます。見分けて通すだけで、押してはいません。
続けていくと、右が熱く、左が冷たくなります。図の 2 つの分布がそれで、はじめは重なっていたものが離れていきます。
仕事はしていません。それなのに温度差ができました。この温度差があれば熱機関を回せます。つまり、何もないところから仕事が取り出せることになります。
第二法則が破れているように見えます。けれど、ここまでの筋道のどこかに数え落としがあるはずです。探すところは、気体の側ではありません。
数え落としていたのは、扉のそばに居るもののほうです。速いか遅いかを見分けるには、測らなければなりません。測った結果は、どこかに残ります。
図がその記録です。分子を 1 つ見分けるたびに、記録が 1 つ増えます。速いか遅いかの 2 通りなので、1 つあたり 1 ビットです。
記録を置ける場所は有限です。ずっと続けたければ、どこかで消さなければなりません。この「消す」ところに、払いが待っています。
記録を 1 つ消すとは、2 通りだった状態を 1 通りにすることです。図の左が消す前、右が消したあとで、行き先が 1 つに減っています。
状態数が半分になるので、記録の側のエントロピーは k\log 2 だけ下がります。全体のエントロピーは下がれないので、そのぶんは熱として外へ出ます。温度 T なら kT\log 2 です。これをランダウアーの原理といいます。
払うのは、測るときではなく消すときです。ここがベネットの指摘したところで、測るだけなら元に戻せる形に組めます。戻せないのは消すことのほうです。
図は全体のエントロピーです。気体のほうは選り分けるぶんだけ下がり、記録のほうは測るたびに上がります。
足すと、決して下がりません。いちばんうまくやったときにちょうど釣り合い、それより良くはなりません。悪魔が取り出せる仕事は、記録を消すために払う熱を上回らない。第二法則は破れていませんでした。
ここで起きたのは、情報が熱と同じ勘定に乗ったということです。1 ビットは k\log 2 のエントロピーです。もともとエントロピーは数え上げでした。何を数えるかを、気体の配置から記録の配置まで広げただけです。