代数曲線のどこがとがっているのか?偏微分で特異点を見つける
曲線が 1 点でとがっているかどうかは、偏微分を 2 本計算すれば決まります。
多項式 の零点として与えられた曲線を考えましょう。点 が特異点であるとは、次の 3 つが同時に になることをいう。
判定そのものはこれで終わりです。難しいのは になったあとで、どんなとがり方をしているかを見分ける段階になります。
以下では 8 つの曲線を順に手で調べます。結節点・尖点・孤立点・タクノード・三重点が出てくるので、それぞれの見分け方を確かめていく。体は複素数体のような代数閉体を想定します[2]。
接線が 1 本に決まらない点
滑らかな点では、接線がちょうど 1 本引けます。陰関数定理が働き、曲線はその点の近くで関数のグラフになるからです。
なら について解けて の形になります。 なら について解ける。
どちらも だと、この足場が崩れます。接線の方程式にあたる が になってしまい、線を 1 本に絞れません。
線が引けないのではなく、絞れない。だから枝が 2 本に分かれたり、向きが折り返したりできてしまいます。
例 1: 放物線には特異点がない
とします。偏微分は次のとおりです。
が定数の なので、どの点でも になりません。したがって特異点は存在しない。
放物線がどこでも滑らかなのは、この一行で言い切れます。グラフとして書ける曲線には、そもそも特異点が現れません。
例 2: 円も全体が滑らか
の偏微分は 、 です。
両方が になるのは原点だけですが、原点は なので曲線の上にありません。よって特異点はありません。
3 条件のうち を忘れると、ここで間違えます。偏微分が消える点を探すだけでは足りず、その点が曲線に乗っているかどうかまで見る。
判定の手順
例を増やす前に、手順を並べておきます。
と と の共通零点を求める
その点を原点へ平行移動する
最低次の同次部分をとり出す
その因数分解から型を読む
3 番目に出てくる最低次の同次部分が接錐です。次数が重複度、因数が接線の方向を与えます[3]。
平行移動しておくのは、接錐が原点を基準に定義されるためです。 での話は 、 で原点の話に直せます。
例 3: 結節点をもつ曲線
を調べましょう。展開すると です。
から 、 から または が出ます。曲線に乗るのは だけなので、特異点は原点の 1 つです。
を代入すると となり、曲線から外れます。
結節点の 2 本の接線
原点での接錐をとり出します。 の最低次は 2 次の部分です。
因数が 2 つに分かれ、どちらも実数係数の 1 次式です。接線が と の 2 本あることになります。
2 本の異なる接線をもつ 2 重点を結節点といいます[1]。曲線が原点で自分自身と交わり、 の字のような形になる。
この曲線は有理曲線でもあります。 と置いて代入すると となり、 が出る。
と がどちらも原点へ行きます。パラメータの側では 2 点だったものが、曲線の上で 1 点に重なっている。
例 4: 尖点をもつ曲線
の偏微分は 、 です。両方が消えるのは原点だけで、原点は曲線に乗っています。
接錐は最低次の です。 と分解されるので、接線は の 1 本だけ、それが 2 重になっています。
2 重の接線を 1 本だけもつ 2 重点を尖点といいます[5]。フランス語では点が引き返す点と呼ばれ、名前がそのまま形を表しています。
パラメータ表示は 、 です。原点へ行く は のただ 1 つ。
結節点との違いがここに出ます。結節点では 2 つのパラメータ値が 1 点に重なり、尖点では 1 つのパラメータ値が原点で止まって向きを変える。
3 つの型を並べて見る
結節点・尖点・孤立点を、同じ縮尺で描いてみましょう。

右端の図では、原点だけが本体から離れて浮いています。実平面で見ると孤立した点に見える。
例 5: 実平面で孤立して見える点
を調べます。原点で 、、 がどちらも消えるので特異点です。
接錐は になります。実数の範囲では しか解がなく、1 次式へ分解できません。
複素数まで広げると と分かれます。接線は 2 本あり、それが実数でないだけ。
このような点を孤立点と呼びます[5]。実平面に描くと原点がぽつんと残り、曲線の本体は の側にあります。
代数閉体で考える理由がここにあります。実数体の上では 3 つの型に見えるものが、複素数体の上では結節点と孤立点が同じ扱いになる。
族の中を動かす
の を連続的に動かすと、3 つの型が入れ替わります。
が正から負へ渡る一瞬だけ、尖点が現れます。左右の枝が閉じて 1 点に潰れ、そこから離れて孤立点になる。
尖点が特別に見えるのは、この一瞬でしか起きないからです。族の中では境目にあたる型になります。
接錐と重複度
いま何度か使った最低次の同次部分に、正式な名前を与えておきます。
を原点で展開し、次数が最も低い同次部分を と書きます。 が定める図形が接錐、次数 が原点での重複度です[3]。
重複度は、原点を通る一般の直線と曲線が何点で交わるかの数でもあります。結節点なら 2 点、三重点なら 3 点が原点に集まっている。
接錐が 2 重直線のときは、それだけでは型が決まりません。次の 2 例がその場合にあたります。
例 6: タクノード
の最低次は で、接錐は 2 重直線 です。尖点と同じ接錐になります。
ところが因数分解すると様子が違います。
2 つの放物線に分かれ、どちらも原点で 軸に接している。曲線が既約ですらありません。
このように 2 本の枝が同じ接線をもって触れ合う点をタクノードといいます。枝が 2 本ある点は結節点と似ていますが、接線が重なっている点が違う。
例 7: 高次の尖点
も接錐は です。パラメータ表示は 、 になります。
尖点と同じく枝は 1 本で、原点で向きを変えます。とがり方はより深く、 より平らに寝た形になる。
接錐だけでは尖点と区別できません。区別するには、あとで触れる不変量まで下りる必要があります。
例 8: 通常三重点
を調べましょう。最低次は 3 次の部分です。
異なる 3 直線に分かれるので、原点は通常三重点です。重複度は で、3 本の枝が原点で交わっている。
偏微分でも確かめられます。 と は、どちらも原点で です。
重複度が上がるほど、その点はきつい特異点になります。次に見る不変量でも、この差がそのまま数に出る。
例 8 までの一覧
ここまでの曲線を、原点での型でまとめます。
| 曲線 | 原点での型 | 接錐 |
|---|---|---|
| 滑らか | ||
| 結節点 | ||
| 尖点 | ||
| 孤立点 | ||
| タクノード | ||
| 高次の尖点 | ||
| 三重点 |
同じ接錐 から 3 つの型が出ています。接錐は最初のふるいであって、最終判定ではない。
特異点は有限個しかない
既約な曲線の特異点は、いつでも有限個です。理由は共通因子の話に帰着します。
が既約で、 と が共通零点を無限個もつとしましょう。曲線の既約性から、 は で割り切れることになります。
ところが の次数は より小さいので、 しかありません。標数 ではこれは が を含まないことを意味します。
でも同じ議論が働き、 が定数になってしまう。よって特異点は有限個です。
一般の代数多様体でも、滑らかな点の全体は開かつ稠密になります[2]。特異なところは、いつでも痩せた集合です。
次数と種数の関係
特異点の重さは、種数の落ち方として数に出ます。次数 の既約平面曲線の算術種数は次の式で決まります[4]。
特異点があると、幾何種数はここから落ちます。落ちる量が各特異点の 不変量で、結節点と通常の尖点はどちらも です。
3 次曲線で試しましょう。 なので です。 は結節点を 1 つもつので になります。
さきほど得た有理パラメータ表示と辻褄が合います。種数 の曲線は有理曲線なので、 変数で書けるはずでした。
も で です。実際 、 と書けています。
特異点をもたない 3 次曲線なら で、有理パラメータ表示は存在しません。楕円曲線がそれにあたります。
座標を変えても型は変わらない
判定に座標を使ったので、座標のとり方に答えが左右されないかを確かめておきます。
1 次変換で座標をとり替えると、偏微分はヤコビ行列を掛けた形に変わります。行列が正則なら と が同時に になる条件は変わらないので、特異点の位置 は座標の選び方によりません。
接錐も同じ 1 次変換で写り、因数の本数と重なり方は保たれる。
重複度も不変です。原点を通る一般の直線との交点数として定義できるので、座標の言葉を使わずに書き直せます。
不変であることが分かって初めて、特異点は曲線そのものの性質だと言えます。判定に使った式は道具にすぎません。
練習
曲線 の原点は、どの型の特異点ですか。
- 滑らかな点
- 尖点
- タクノード
- 三重点
枝の本数を数える習慣がつくと、接錐が同じ場合でも迷わなくなります。
よくある誤り
判定でつまずきやすい点を並べます。
と の共通零点を求めて満足してしまう。その点が曲線に乗っているかどうかを確かめていない。
の 3 つを連立させる。円の例のように、偏微分が消えても曲線から外れる点がある。
ほかにも間違えやすい点があります。
どれも定義に戻れば防げます。3 条件を確かめ、原点へ移し、接錐を因数分解する。この順番を崩さないことです。











最低次は y2 で重複度は 2、接錐は 2 重直線です。因数分解すると y2−x4(1+x)=(y−x21+x)(y+x21+x) となり、原点の近くで枝が 2 本に分かれます。同じ接線をもつ枝が 2 本なのでタクノードです。